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PV数が恐ろしい事になってて震えてます。

本当にありがとうございます。

こんな事なら雑なスタート切るんじゃなかった…!

今回、マリーちゃんエマちゃんがお風呂でキャッキャしてるとこから始まります。



パシャパシャという水音と女のキャアキャアとはしゃぐ声が暗い静かな森に響く。

小さな小屋の窓から湯気が立ち登り、辺りは石鹸の爽やかな香りに包まれていた。



小屋の近くに立ち、警備にあたっている年配の衛兵、エドとサムは二人で苦笑を漏らす。


「こんなの昼間の二人にゃあ聞かせらんねえなあ」

とエドが頬をかきながら言う。


「全くだ。あんなかわいいお嬢さん達が風呂に入ってるかと思ったら、若い奴らにゃ堪らんだろうしなあ」


実際、もう孫が居てもおかしくない年頃の二人ですら、風呂ではしゃぐ彼女達の声を聴いてるとなにやらくすぐったいような気持ちになる。


「こうしてここに二人が来てもう二カ月になるけど、一体宰相様はどうするつもりなのかねえ」


そう何の気なしにサムが言うと、エドは目線を落として、しばらく逡巡してから小さな声で話し出した。


「思ったんだけどよ…もしも殿下のお召しがあって、無事子どもが出来たりしたら、マリーちゃんは次の王太子の生母になる訳だろう?」


「いや、だから殿下と姫の子として育てられるんだろ?マリーちゃんも産むまでのお仕事だってそういってたじゃないか」


「そうだけどよ…産んだら本当にマリーちゃんは帰してもらえるのかね?秘密とは言え生母がさ…どっか他の男と結婚なんか許してもらえるのか?」


「…どういう意味だ?」



しばらく二人の間に重苦しい沈黙が続く。だが、エドが意を決したように口を開いた。


「…ここへ秘密裏に軟禁してるのも、最初っから家に帰す気なんてないって事じゃないのか?…こ、殺されたりするんじゃないかって…」


「っおい!滅多なこと言うな!」


「だってよう!おかしいだろ?!お前だって本当はそう思ってたんじゃないか?!」


しばし二人は睨み合う。


「…そんな事になったらワシは耐えられない。任務とはいえ出来ない事だってある。もうマリーちゃんは娘同然だ。親が子を見殺しになんてできるか…!」


絞り出すようにエドが言う。そんなエドをサムは苦しそうに見つめた。


「…あの子達を大事に思うのは俺だって同じだ。お前だけに任せてられるか」


「サム…」


「この事は俺達だけでいい、昼間のアーロンとイーサンには絶対言うんじゃないぞ…アイツらはまだ若い」





この時、老境に差し掛かった兵士二人が立てた誓いの事など、マリーとエマは知る由も無かった。




***




今日もマリーは森に来ていた。


前回、薪を拾いに行った時にマッシュルームが多く自生しているところを見つけたのだ。

途中胡桃の木もみつけたので森の奥まで足を延ばしていた。


「パントリーにあったナッツはそろそろ無くなりそうだものね…クルミが残ってたらいいな…」


「何をブツブツ言ってるんだ?」


誰も居ないと思っていた森で、突然後ろから話しかけられてマリーは飛び上がった。


「びっ…びっくりしたあ!突然後ろに現れるのやめてください!」


ははは、と憎らしく笑うのは先日会った宰相の息子と名乗った男だ。


「普通に歩いてきたさ。お前がぼんやり歩いているからだろう」


ぼんやりなどと言われてマリーは恥ずかしくなった。来る前にエマにも『モモンガ探して迷子にならないでね』と子どもに言い聞かすように言われたばかりだ。

なんだか悔しいのでマリーは男に八つ当たりする。


「あなたこそ、また仕事サボってウロウロしてるんですか?お父上の宰相様が泣きますよ!」


「う、ウロウロではない!必要かと思って色々持ってきてやったんだ」


見ると、手に大きなカバンを抱えていた。わざわざマリー達の為に持って来てくれたのか。サボってなどと言って悪かったなと思ったマリーは男に謝った。


「ごめんなさい。私達のために来てくれたんですか。失礼な事をいいました」


マリーがそう言うと男はびっくりしたような顔をしてドギマギしている。


「い、いや良いのだ…お前のためにきたんだからな」


「何を持ってきてくれたんですか?今じつは石鹸欲しいなあって思ってて…」


「ああ…とりあえず必要そうなものを侍従に頼んで見繕ってもらったんだ。どうだ?ほかに要るものがあったら言ってくれ」


マリーはその場で荷物を開ける。


「あっ石鹸!嬉しい!あーー!下着もあるー!下着替えが少なくてホント困ってたんです!わあ!タオルと毛布も!」


「お、お前下着まで出すんじゃない!家帰ってからやれ!」


「あっ…服は…ちょっと…」


「?どうかしたか?」


マリーが手にしているのは刺繍が美しいドレスだ。


「申し訳ありませんがこれ着れないです。ごめんなさい、持ち帰られてください」


「…えっ?何故だ服も必要だろう」


「はい、そうなんですが、こんな綺麗なレースもたっぷりなドレス着て仕事出来ません。もっと、汚れてもいいような服がいいんです」


そう言われた男は、驚いたのかまじまじとマリーの顔を見つめ、何故か嬉しそうに笑って言った。


「お前はずいぶんはっきりとものを言うんだな。別に邪魔でないならもらっておけばいいものを」


「せっかく下さるものですから無駄にはしたくないんです。お気を悪くされたらごめんなさい。他のものは全部大事に使います」


男は目を細めてマリーに言う。


「いいんだ。私はどうも人の気持ちに鈍いようでな。はっきり言ってもらえるほうが有り難い」


お前の言う事は裏が無くていいなあ、と嬉しそうに言う男をマリーは不思議な気持ちで見ていた。


結局、マッシュルームを集めるのもクルミを探すのも一緒に手伝ってもらい、荷物を持って小屋の近くまで送ってもらった。


「ありがとうございました。荷物助かりました」


「いいんだ。また今度服は持ってきてやる…あ、それでだな…」


「はい」


「ちょっと抱きしめてみてもいいか?」


「えっなにそれ怖い。イヤです」


「えっ…イヤなのか?」


「友達でもないのにハグしたりしません。私あなたの名前も知らないのに」


「ええーそうなのか?!そういうものか?そうか、私の名前はクリスだ。お前は?」


「マリーです」


「マリーか、いい名だ。じゃあマリー、ハグしてもいいか?」


「えっだからダメです」





そしてクリスはマリーとハグする事なく帰って行った。





残念美人と残念王子は会話が噛み合いません。

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