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清廉な令嬢は悪女になりたい  作者: エイ
第一章

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いつも読んでくださってありがとうございます!

ようやくパパさん編突入でございます。



夢を見ていた。


幸せな夢を。


お父様と、お母様。


そして私が二人の真ん中で手を繋いでる。


お父様とお母様の手を、私が引っ張って二人の手をぎゅっと握らせる。


すると二人は恥ずかしそうに笑う。


私は二人の手が離れないようにしっかりと両手で包み込む。


すると、私に見えないようにお父様とお母様は軽くキスをする。


もちろん私は気づいている。でも知らないふりをするの。


だって二人の影が重なるのをみていると、とても幸せな気持ちになるから。


それが終わって欲しくないから、私はずっと気づかないふりをして二人の手を握るの。



その手が永遠に離れないようにと。




***



「…リー、マリー…」


エマが呼ぶ声でマリーはハッと目を覚ました。


「…エマ?」


「マリー、泣いてる。また嫌な夢を見たの?」


マリーはそれに答えずエマにすがりつく。


「お願いエマ、ちょっとだけ抱きしめて」


エマは少し驚いたように目を瞬かせたが、何も言わずその胸に抱きしめた。マリーは熱にうかされている間も、時々子どもに戻ったような言動をすることがあった。

あの時の恐怖と、意識が朦朧とした状態が続いたことによる一時的な幼児退行かと思い、エマもまた母親かのようにマリーを甘やかした。


ひとしきり泣くと、マリーは顔をあげエマに言った。


「お風呂入りたい。もう身体拭くだけじゃ気持ち悪いわ」


「そうね、じゃあ今用意してくるからちょっと待ってて」



王宮内の医務室にほど近いところにある客室に、マリーとエマは滞在させてもらっている。


小屋に暮らしていた頃とは比べ物にならない待遇の良さだ。

マリーには医師が定期的に診に来てくれるし、リネンは洗わなくても毎日交換してもらえる。

何より、何もしなくてもちゃんと三食出てくる。

マリーには食べやすいスープや果物を用意してくれて、そのサービスの良さにエマがお金の心配をしたほどだ。



宰相がつけてくれた王宮の侍女にも手伝ってもらい、湯を用意する。

マリーが恥ずかしがるので洗うのはエマだけで対応することにした。


湯に浸かっているマリーの髪を洗ってやる。優しく櫛をいれながら、肩のあたりを見たエマはポツリと言った。


「…痩せたね」


「そうね、体力落ちちゃったから、城から出てもあまり強行軍では移動できないかも」


「こんなに痩せたのに、何故その胸は減らないのかしらね?」


「私も不思議なの。邪魔だからもっと小さくていいのに。私はエマみたいになりたいわ」


「…もう一度同じこと言ったらその口つねるから」


「えっ?!なんで?!」




きゃあきゃあと散々騒いでようやくお風呂からあがると、侍女がお見舞いにエドとサムが来ていると告げた。


キチンと身なりを整えてから二人の元へ行く。


「エドさん!サムさん!」


エドはまだ肩を包帯で固めている。姫の騎士の剣が叩きつけられたため骨にヒビが入ってしまったそうだ。


「エドさん…私のせいでごめんなさい」


マリーはベッドで伏せっている時もうわ言のように謝っていたが、元気になってからちゃんと対面して謝ろうと決めていた。


「マリーちゃんのせいじゃねえよう。謝るのはやめてくれ」


困ったように手を振りながらエドが答える。

エドとサムはちらりと顔を見合わせてながら、今度はサムがマリーに言った。


「俺達はマリーちゃんとエマちゃんを命かけて守るって誓ったんだがなあ。もうトシだな、結局まんまとマリーちゃんを連れて行かれちまったよ…俺達の力不足で怖い思いさせて悪かったな…」


「マリーちゃん、だからもうあんな風にワシらのために自分を危険に晒したりしちゃあいかんよ。マリーちゃんに何かあったら、命をかけるなんて誓ったワシらが阿呆みたいだろ?」


そう言って二人は恥ずかしそうに笑った。エマが二人の言葉を受けて、マリーに言う。


「そうよ、マリーの命が今ここにあるのも、命をかけてくれたエドさんやサムさん、そして助けてくれたいろんな人達のおかげなのよ。だからもうマリーの命はマリーだけのものじゃない。絶対に大事にしなきゃみんなに顔向けできなくなるからね」




自分だけの命じゃないーーー。


この言葉はマリーの心に響いた。自己肯定感の低いマリーは、確かに自分を大切にする意識が人より薄かった。

だから、自分が自分だけのものでないと言われる事に不思議な充足感があった。

なにかを許されたような…存在を認められたような嬉しさに、マリーのすっかり緩くなった涙腺から涙がこぼれた。


「ありがとう…嬉しい…」


暖かい涙を流すマリーを見て皆が嬉しそうに笑った。





それからというものマリーは、体力を回復することに専念し、城から出立する日に備えた。いつまでも殿下の好意に甘えるわけにいかない。


そういえばあの時、殿下と呼ばれる人物が部屋に居たような気がする。


だけどあの人は…あの人は?



ぼんやりと物思いに耽っていると、エマが侍女に呼ばれた。ちょっと行ってくるね、と席を立ったエマを見送り、マリーは考えるのをやめ荷物の整理を始めた。


その時、ノックの音がしないままドアが開いたので、マリーはエマが戻ってきたかと思い振り返ってそちらを見た。


そこに立っていたのは…。



「お、とうさま…」


半年ぶりに会うその人は、ここへマリーを送り込んだ張本人、マリーの父親だった。



「久しぶり。君さあ、お役目降りたんじゃないの?なんでまだここにいるのかな?」


それよりも何でここに父が居るのだろう?お役目降りた事も伝わってるし、逃げる計画もひょっとしてバレているんではないかとマリーは恐怖に震えた。


「…お父様は何故ここに?どうして私が居る部屋がわかったんですか?」


マリーの父は片眉をあげて探るような目つきで彼女を見る。


「どうして?そりゃ、宰相様から君がお役目降りたって手紙と報償金が送られてきたけど、君は帰って来ないし王太子の姫様はお国に帰られるし、どう考えても君が愛人に囲われたんだろうと思うでしょ。

僕を騙してあんな端金で君を買い取ろうなんて、舐められたもんだなあと腹が立ったんでわざわざ仕事にかこつけて城まで来たんだよ」


大いなる誤解なのだが、そう言われると確かに話の辻褄はあってしまうため、マリーはどこから否定したものか考えあぐねていた。


「どこか王宮内に囲われてるなら、出入りの業者と通いの従者に聞けば分かるかなあとおもってね、その中で話ができそうな人と取引して君らの事を教えてもらったんだ」


マッタク、余計な出費だったよとマリーの父は顔をしかめる。


さすが没落寸前の家を立て直しただけあって、目的のために手段を選ばず最短の方法でたどり着くその才力には舌を巻く。だが感心してる場合では無い。マリーはこの父から逃げると決めたのだ。


「色々と誤解があるようです。私は結局殿下とお会いする機会に恵まれませんでしたし、姫がご病気でお国に帰られることになりましたのでもう代理母は必要ないとクビになりました。

未だここに留まっているのは、体調を崩したので、治るまでの間ご好意でお世話になっているだけです。

体調が戻れば帰りますので、お父様は御心配なさらずお仕事に戻られてください」


出来るだけ感情が漏れないよう穏やかそうに笑ってみせる。ここはひとまず帰ってもらわないと、せっかく用意してもらった逃亡計画がパアだ。



するとマリーの父もニッコリと微笑んでみせた。


「なんか余計な知恵をつけたみたいだなあ。やっぱり家からだすんじゃなかったかな」



そう言うとマリーの父はゆっくりとその手をマリーに伸ばしてきた。



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