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たくさんのブクマと評価に感謝しかありません。
ビビりながらも頑張ります。
今回、恋煩いの王子に全然萌えない。の巻
「………」
先程からクリストファーは机に頬杖をついたまま動こうとしない。
「殿下、そろそろ正気に戻って仕事してください」
そう声をかけたのはクリストファーの腹心であり補佐官のノアだ。
「なあ、ノア」
「なんですか殿下」
「女ってどうやって口説いたらいいんだ?」
「仕事してください殿下」
「おい、真面目に聞いてるんだ。今まで考えた事も無かったから何をどうしたらいいかわからん。お前そういうの得意だろ」
「私も真面目に言ってますよ殿下。最近仕事そっちのけで影まで使って何をやってるんですか。しょっちゅう居なくなるから仕事が滞ってしょうがないんですよ。女なんか、口説かなくてもあなたの好きに扱ったらいいんですよ。何の為の王太子ですか」
「お前…どうしてそんなゲスに育ったんだろうな…?」
この政務官のノアは幼い頃からクリストファーとともに育った。クリストファーの乳母の息子であった彼とは文字通り乳兄弟。誰よりも信頼出来る右腕だが、クリストファーが女嫌いを拗らせている間にノアはノアでおかしな風にねじ曲がってしまったらしい。
「…例の女ですか?殿下がご執心なのは。その女も殿下のお子を宿すつもりで来てるんでしょう?遠慮なく抱いてしまえば宜しいじゃないですか」
「…身もふたもないな…いや、姫の意図がはっきりするまで手が出せない。姫側はまだ私が知らないと思っているのだろう。軟禁を指示していたのもあの侍女だ」
「宰相は」
「ようやく吐いた。無駄に隠しおって」
あれから護衛に調べさせた情報を宰相に突きつけ責めあげて洗いざらい喋らせた。あの小屋へマリー達を案内した後は、宰相はこの件にほぼノータッチのようだ。
調べると、護衛だけが通っている状態で、食事の世話もされていない。宰相曰く指示は出したとの事だが、給仕係や下女に確認すると、どうやら姫側の人間に指示を取り消されていたらしい。
宰相は知らなかったとは言え2カ月も彼女らをその状態で放置していた事になる。
「よく生きてましたねそのご令嬢達」
「影の報告によると毎日楽しそうに過ごしてるらしい」
なんとも複雑そうな顏でクリストファーは言う。
「…たくましいですね」
はあ、とため息をついてクリストファーが愚痴り出した。
「…昨日、必要な物を見繕って持って行ってやったんだが、ドレスは要らんと突き返されてしまったよ」
思わずノアが吹き出す。
「ははっドレスだけは殿下が入れたのにな」
うっかり口調が崩れたノアを咎めることも出来ず、クリストファーは力なく項垂れる。
「…侍従が入れたものは下着まで全部喜んでたのになあ…あれ着たらアイツに似合うと思ったんだがな…こんなの着たら仕事が出来ないと断られてしまった」
「その割には嬉しそうなのは何なんですか?」
「今まで表と裏が激しい女ばかり周りにいたからな。嘘のないアイツの言葉が新鮮だった」
「何言ってんですかその令嬢だって同じですよ。女なんていうのは生まれつき女優なんですから」
「アイツはそんなのではない!」
すっかり恋は盲目状態になってるクリストファーにノアは肩をすくめる。あれほど女の嫌な部分を見てきたのに未だに女に理想を抱いてるのかとノアは呆れた。
「その歳で初恋って気持ち悪いもんなんですね。仕事してください殿下」
姫側の動きは私が監視します、とノアは言ってクリストファーを政務に戻らせた。
独りになったノアは、さてどうしたものかと思いを巡らせた。
代理母として連れて来られた女の事などどうでもいいのだが、何故かクリストファーがその女に執着しているので放っても置けない。
子どもを産む仕事などを引き受ける女がまともな令嬢であるわけない。嫁に行けないような訳ありの娘だ、ロクでもないのに決まってる。
女嫌いのクリストファーをどうやって誑かした知らないが、見事な手腕としか言いようが無い。クリストファーはすっかり騙されて籠絡されているが、そんな腹黒い女に引っかかるとは王太子のくせに情けない。
子を宿すまでの関係なら金で割り切れていいと思い、代理母の件はノアも賛成したが、腹黒女にクリストファーが執着するなら話は別だ。
それにしても読めないのは姫側の思惑だ。
子が成せなければ立場が危ういのは圧倒的に姫の方なのだ。だからこそ、あのような提案をしてきたはずだ。
なのに急に方向転換してきた。それはいつだったか…。
「…その女に面会してから、か?」
面倒だが、やはりその女に会って話す必要がありそうだ。
しかし姫側にこちらの動きを気取られたくない。
「さてどうしたものかな」
ノアは情けない乳兄弟に、厄介ごとばかり持ち込みやがってと腹を立てながら考えを巡らせた。
ウチのヒーローが全然カッコよくならないんですけどどうしたらいいですか。




