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短編として書き上げたかったんですが、楽しくてつい長くなってしまいました。お付き合いいただけると嬉しいです。
「殿下の子を産んでこいっていいました?お父様?」
普段あまり顔を合わせることも少ない父に呼び出されて何事かと思っていたら、いきなり突拍子もない話を振られてマリーは思わずおうむ返しで聞き返した。
「だからそう言ってるじゃん。二度も言わせないで一回で理解してよ時間の無駄」
それに対し、マリーの父はイライラしたように返事をした。
しかしなんたる言い草だ。理解できなかった訳じゃない、あまりのとんでもない話に頭が拒否したんだってば。まさか父親からそんな鬼みたいな提案を『ちょっとおつかい行ってきて』みたいなノリで言われると思わないでしょ?怒られるとか理不尽なんですが。
…と、マリーは心の中で盛大に文句を言ったが、目の前の父が恐ろしいので口に出すことは出来ない。
「仰る言葉の意味はわかりますが、話の主旨がわかりません。私の記憶が正しければ殿下は昨年隣国の姫とご成婚なされたばかりのはずです。それに王家の方が側室を設ける事は廃止されたと思っていたのですが」
すると父は面倒くさそうに手を顔の前で振った。
「側室じゃないよ。子どもを産めって言ってるんだよ。産まれた子どもは姫と殿下のお子として育てられる。君はちゃちゃっと産むまでがお仕事。どう?破格の報償金もでるし悪い話じゃないと思うよ」
悪いよ!
妾ですらなく、要は代理母じゃないか!
思った以上に酷い話でマリーは頭がクラクラしてきた。なにが悲しくて代理母で処女を散らさねばならないのか。
「公にはされてないが、姫が今ご病気でね。療養に一年はかかるから、子作りが出来ない。後継者問題で王室がきな臭くなってるからねえ。早めに世継ぎをもうけて第一王子の地位を確かなものにしておきたいとの理由から、この依頼が来てるんだよ」
裏事情を説明してきた!コレ聞いちゃったら断れないってパターンだよね?内政の重要なところに関わってくるなんて冗談じゃない。命が危ない事だってありそうだ。
「…ちなみにお断りするという選択肢は?」
「断ったら他の縁談を進めるだけだね。今君に来てるのは、カイウス伯爵の後妻の話だけかな」
だめだ、詰んだ。
それしか無いってあまりにも酷くない?
カイウス伯爵の噂は社交界に疎い私ですら知っている。これまで3人の妻がいたがいずれも伯爵の加虐趣味によって責め殺されているという。無理。さすがにそれは無理。
「君の母親が相当評判が悪かったからねえ。マトモな縁談は無いと思うよ」
マリーの考えを見透かすように父は言った。そう、幼い頃に亡くなった母、マーガレットは非常に美しい人だったが身持ちが緩く結婚しても男遊びが派手な人であったと有名だ。爵位欲しさに結婚したという父との間にマリーと弟をもうけると責任を果たしたとばかりに遊び歩くようになったそうだ。その時に重ねた借財で一時期我が家は没落の危機に陥った。父の必死の努力によりなんとか持ち直したが、そのような理由から母にそっくりなマリーを父は憎んでいるような節がある。
でもそれ私のせいじゃなくない?!とは思うが負い目に感じてしまうのも事実で、マリーはこの父には逆らえない。
「期間は姫の療養が終わるまでの一年。その間に子が出来なくても、報償金は出る。子を無事出産出来たら更に爵位と領地をくれるそうだよ。君にとってこれ以上いい話はもう無いと思うんだ」
「わ、私は平民のかたと結婚でも…」
没落寸前の頃は平民のそれより厳しい暮らしをしていた。身分など求めてないし、穏やかな人と慎ましく暮らしていければそれで…。
「ダメ。君が平民と結婚しても僕にメリットがない」
ホント、この父は少しの愛情もないんですかね?
「…わかりました。そのお話お受けします」
「そう?良かった。じゃあいつでも登城できるよう準備しておいて」
それだけ言うと父は、もう話は終わったとばかりに書類に目を通し始めたので、マリーも部屋から下がることにした。
だが、ドアを開けて出る時に声がかかった。
「あ、言い忘れてたけど報償金がでる条件は、一度でも殿下と枕を交わす事だからね。
ちなみに殿下はこの話を歓迎してないから。
頑張って抱いてもらえるよう殿下をその気にさせなねー」
すごい後出しきたけど?!絶対ワザとだよね?!
やられた、と思いながら返事をする事なくマリーは父の部屋を後にした。
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