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発達しすぎた人類のためのテレビショッピング

これは、人類が初めて木星に着いて、ピテカントロプスになってから、数百年経った後のお話です。


ケン:やあっ! テレビの前の皆ご機嫌いかがっ!? ピテカントロプス社がお送りする究極の商品を今夜もお届けするぞっ!


メリー:まあ、ケン。今日はいったいどんな商品を紹介してくれるのかしら。


ケン:Oh! Wait! そんなに急かすなよ、メリー。今日はとっておきの商品を紹介するぜ! ところでメリー。君は友達と映画を見ている。友達は感動して、涙を流し、まともにしゃべれない。なのに君は、何故か感動できない。そんなことないかい?


メリー:Ah, 心当たりあるわー。この前もジェニファーと一緒に映画に行ったんだけど、脚本にムラがあるのが気になったり、そもそもツボじゃなかったりして、泣けなかったのよね~。


ケン:そんなときに、ネットのレビューを見たら、みんな「こんなに泣いたのは、人生初めてよ!」とか言ってるんだ。まるで自分が、冷たい人間に思えてくるだろー?


メリー:そうね、とっても惨めな気分になるわ。ケン、もしかして、今日の商品って?


ケン:そうさ、メリー! 今日紹介するのは、このトテモナケール錠剤だっ! これを一粒さえ飲めば、誰だって感動でドバドバ涙が出るぜっ! あらすじ紹介だけでも、とっても泣けてきてたまらないのさっ!


メリー:Oh, これで私もあの映画で泣けるわっ! もっかい見て、ジェニファーと同じ感動を味わわなくっちゃっ!


ケン:このトテモナケール錠剤は、最新の科学研究で明らかになった感情操作物質カナシクナールが、なんと他の類似品と比べて、70パーセントも多く入ってるのさ! これなら感動指数が、0.1ナケールのヘボ映画でも、ドバドバ涙が出るぜ!


メリー:ジーザス、素晴らしいわっ! ところでいくらなの?


ケン:Oh! Wait! そんなに急かすなよ、メリー。お値段はなんと280億ヤップマネーだ!


メリー:まあ! とっても、お求めやすいのね! 今月のボーナスで買えてしまうわ!


ケン:電話番号は、0120-〇✖〇✖-△□△□!


メリー:みんなからの電話を待っているわっ。



あなたの生活を究極の科学の力で豊かに。ピテカントロプス社の提供でお送りします。


ケン:やあっ! テレビの前の皆ご機嫌いかがっ!? 次も、ピテカントロプス社が究極の商品をお送りするぞっ!


メリー:まあ、ケン。次はいったいどんな商品を紹介してくれるのかしら。


ケン:Oh! Wait! そんなに急かすなよ、メリー。次もとっておきの商品を紹介するぜ! ところでメリー。昨日、あのスリルを愛するボブおじさんが、世界一高いビルから飛び降りて死んだんだ!


メリー:ジーザス、それはとっても悲しいことだわ。


ケン:でもそれも昨日までの話さ! 今日のスペシャルゲストを紹介するぜ! スリルを愛するボブおじさん!


ボブ:どうも紹介ありがとう! 私がスリルを愛するボブおじさんだ!


メリー:え! どうして、死んじゃったはずじゃないの?


ケン:チッチッチッ、メリー。一度死んだ人間が生き返らないのは、もう過去の話だぜー。これからはこの、イキカエールドリンクを死体の口に垂らせば、すぐに復活するぜ!


ボブ:いやあ、世界一高いビルから飛び降りてみたけれど、びっくりしたよ! 高すぎて飛び降りるどころか、私は宇宙に放り出されたのさ!


ケン:ボブの死体が、木星で見つかったときはびっくりしたよ! でもこれでもう一度人生を楽しめるね!


ボブ:そうさ! 全く素晴らしいね!


ケン:ところでメリー。まだ驚くのは早いぜ。


メリー:どうしたの? まだ何かあるっていうの? ケン?


ボブ:実は、私が生き返ったのはこれが初めてではないのさ!


メリー:What! いったいどういうことなのよ!


ケン:スリルを愛するボブおじさんはスリルを愛するあまり、何回も死んでいるのさ!


ボブ:そのたびにこのイキカエールドリンクには世話になりっぱなしだよ! この前は安全バーを下げずにジェットコースターに乗ってみたんだ。空に放り出されて、とってもエキサイティングだったぜ。去年は海底二万マイルに潜ってみたよ!水圧で身体がぐちゃぐちゃになっちまったー。先月はF1レースカーに轢かれてみたよ! 先週はヒマラヤの大雪崩に呑み込まれて、一昨日はマチュピチュから飛び降りたのさ!


ケン:どうだい、メリー! スリルを愛するボブおじさんはすごいだろ!? これもこのイキカエールドリンクのおかげなのさ!


メリー:まあ! ピテカントロプス社の科学力ってすごいのね! ところでこのイキカエールドリンクだけど、いったいいくらなの?


ケン:Oh! Wait! そんなに急かすなよ、メリー。お値段はなんと780京980億ヤップマネーだ!


メリー:まあ、自販機の下に落ちてるかもしれないくらいの値段じゃない。なんてお得なのかしら!


ボブ:これでテレビの前の皆も、何回死んでも生き返ることができるぞ!


ケン:ところでボブおじさんは、次は何をするんだい?


ボブ:そうだな! 次は、地球のマントルに飛び込みたいな! 


ケン:Oh! 流石は、スリルを愛するボブおじさんだ! 最高にクールだぜ! 繰り返すが、電話番号は、0120-〇✖〇✖-△□△□!


メリー:みんなからの電話を待っているわっ。


あなたの生活を究極の科学の力で豊かに。ピテカントロプス社の提供でお送りします。


*****


 ぷつり。


 ブラウン管テレビの電源が切られる。

 男は、興奮のあまり、胸を叩いて、うほうほと声をあげる。そして黒電話のダイヤルを回す。ピテカントロプス社の電話番号だ。

 男には妻と子供がいた。

 妻も同じように、うほうほとさかりのついた声をあげて、子供たちに命令をする。洞窟の中をごろごろと転がっていく、巨大な岩でできた真ん中に穴の開いた円盤。子供たちが、せっせせっせと押していくのだ。


 ごろごろ、ごろごろ。


 その音が洞窟の中を、何度も何度も響いた。

 その音が鳴りやむのに、何年も何年もかかった。





ヤップ島では石でできたお金が使われていました。

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