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それから、数日後のことでございます。アリエス様が教師と密会していたと噂になりました。場所はそう中庭の東屋。けれど、わたくしもそこにおりました。密会ではなくお茶会でございます。あまり、噂は長引かず、七十五日もたたないうちにさっぱりと消えました。そして、わたくしは放課後、生徒会でお手伝いをいたします。クリストファー様が頑張っている姿は、本当に素敵です。

「そろそろ夏のダンスパーティの準備が必要だね」

 クリストファー様は書類を作成しながら、つぶやきました。

「ええ、楽団の手配と給仕の手配が必要ですわ」

「その書類は、今書いてるけど、殿下のサインがいつ入るかが問題だね」

「サインがなければ、そのままウィルス先生にサインしていただきましょう」

 わたくしは、今日は嘆願書の分類です。結構、こうしたい、ああしたいというお願いごとは多いようです。特に夜会や茶会を増やしてほしいという要望が……。皆さま、婚活したいようです。就学前に婚約される方は少ないのです。学業に専念しながらも、恋がしたいお年頃ですものね。中には放課後の訓練場の開放を求める声もございました。魔法をもっと向上させたいということでしょう。わたくしは、一枚の紙に嘆願の多い順番で箇条書きしていきました。

そこへ、いきなりドアが開いてエドワード殿下とクロトア様、アルバート様が登場です。

「なんだ、見慣れない生徒がいるな」

「僕の婚約者です。殿下」

 わたくしはあわてて席を立ち、淑女の礼をとります。

「お初にお目にかかります。アリスベルガー子爵の娘ルーシェにございます」

「部外者は出ていけ」

 エドワード殿下がそういうので、わたくしは仕方なく部屋を出ようとしましたが、アリエス様がそれをとめます。

「部外者でしたら、わたくしもですわね。それに後ろのご令嬢も部外者ですが」

 エドワード殿下はちっと舌打ちする。

「まあいい。そのまま仕事を続けろ。クリストファー。俺がサインをしている間、お前はアルマの課題を手伝ってやれ」

「お言葉ですが殿下。そんな余裕はありません。勉強ならクロトアが見てやればいいのでは」

「俺がお前に頼んでいるんだ。クロトアと交代してアルマの方を優先しろ」

 な、なんてわがままなんでしょう。エドワード殿下ってこんなわがまま王子様だったのですか。しりませんでした。クリストファー様は強制的に席を外され、クロトア様と交代されます。そして、生徒会室の隅でアルマは課題を広げて、クリストファー様を待ち受けています。わたくしは、元の席に戻ってまとめたモノをアリエス様に渡します。そうすると、紙束と表紙を渡されていつものように穴あけ係に専念します。く、空気が重いです。ときどき、端の方から「まあ」とか「わかりませんの」とか甘ったるい声が聞こえてきます。そして、表紙を付けた書類の内容も見ずに、エドワード殿下はサインをしていきます。いいのでしょうか。そんな簡単にサインして。それとも普段からそんな感じですか?殿下?

 ちょっと不安になります。将来この方が王になったら……国が亡んじゃったりしませんよね。婚約破棄はしかたないとしても、そのあとの生活に支障がでるのは御免こうむりたいです。

「よし、終わった。アルマ、そっちはすんだか」

「はい、ほとんど。クリストファー様。ありがとうございます。また、勉強を教えていただけるとうれしいですわ」

「悪いが、今回だけにしてくれ。勉強なら殿下が教えてくださる」

そう言ってさっさと離れてしまいました。

 アルマ様は今にも泣きそうな顔で殿下をご覧になりました。殿下はすぐにアルマ様のところへ行ってよしよしと頭を撫でて、な、なんと頬にキスされました。

「お前が可愛いから照れているのだ。許してやれ」

「まあ、殿下ったら」

 うふふとアルマ様は上機嫌で笑っておられます。アリエス様は、見て見ぬふり。ああ、これは婚約破棄をお願いしたくなりますよねアリエス様。でも、簡単に婚約破棄はできません。ゲームでしたら、破棄すると言えば成立するのですが、国家の法の定めでは、調停局で話し合いの上、両家の主が納得した上で成立するものなのです。

 わたくしは、無意識にクリストファー様を見つめていました。それに気づいたクリストファー様はわたくしの手をそっと握ってくれました。なんだか、とてもうれしいです。やはり、わたくしはクリストファー様が大好きなのだわと思いました。きっと、婚約破棄されたら泣いてしまうでしょう。

 そんなわたくしたちをガン無視して、殿下とアルマ様は出ていきました。アルバート様も護衛ですから、後ろからついて行かれました。ですが、クロトア様は居残っていらっしゃいます。

「あー疲れた」

 クロトア様が表情を崩して肩をもんでいらっしゃいます。

「誰かお茶いれてくれないか。お目付け役なんてしんどいぜ」

 わたくしは急いで紅茶を入れて、お渡ししました。ありがとうとにこやかに微笑まれました。イケメンの微笑みは凶器ですね。びっくりしてしまいました。

「クロトア、状況的にはどうなんだ?」

「ああ、俺、当て馬にされてるよ。スキンシップはどんどん過激になってるし、贈り物も相当してる。皇太子の予算赤字でそうな勢いだ。俺の家が第二王子派だってこともすっかり忘れてるし」

 なにやら、物騒な話がでてきました。クロトア様はどうやら攻略されておられぬご様子。わたくしが一人おろおろしておりますと、アリエス様が紅茶のご要望を出されましたので、とりあえず、入れてお渡ししました。きっとクリストファー様もお茶が欲しいでしょうから、そちらにも入れて差し上げますとにこりと笑って、隣に座るよう促されました。あの部外者のわたくしが聞いてもよい話なのでしょうか?


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第二「王子」というなら、世継ぎの御子は皇太子ではなく王太子だと思います。 イギリスの世継ぎの御子を皇太子と呼んでいるのは、明治時代に英語を日本語に翻訳する際、日本の世継ぎの御子が皇太子と呼ばれているか…
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