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いよいよ試験結果の発表でございます。生徒会のお手伝いをしながら、空き時間に復習したのである程度の成績はとれたと確信しておりました。まあ、真ん中くらいの成績であればよいのです。所詮、モブですから。担任から受け取った順位表を開き、ぼんやりと真ん中あたりを見ましたが、名前がありません。下の方かしらと思って視線をさげますが、ありません。まさか、落第。そんなはずはありません。返された答案用紙には皆八十点以上の点数がありましたから。ということは、上の方に引っかかっているいうことでしょう。そう思って上から順に見ますと、なんと三位。思わず、うれしくてにやついてしまいました。なにせ前世では本当に真ん中くらいの成績だったのです。
三位ということは、掲示板に名前が挙がっているはずです。ちょっとスキップしたくなりながら、上位者十位までの名前が張り出されている掲示板の前までやってきました。そこには三年生と二年生の分も張られています。なんと、あのお忙しい中でクリストファー様とアリエス様は一位という輝かしい成績を残されておりました。なんと無敵なお二人でしょう。それにしても、エドワード殿下やクロトア様のお名前がありません。やはり、恋に盲目になってしまうと成績もさがるのでしょうか。ですが、ゲームの中では常に殿下は一位だったはず。うーん、考えても仕方ないので勉学はおろそかにしてはならぬという神の啓示とでも思っておきましょうか。掲示板だけに……。あ、寒いですわね。申し訳ございません。
「さすが、アリエス様ですわね。休日返上で王妃教育を受けていらっしゃるだけでもすばらしいのに」
「入学してから座学のトップを譲ったことがない方ですものね」
「さすが紅薔薇様ですわ」
「それにしても、殿下はどうなさったのでしょう?」
「それが、最近よい噂を聞きませんわね」
「ああ、あれですか。例の男爵令嬢」
「わたくしもちらりとお見掛けしましたわ。殿下とクロトア様、それにアルバート様を侍らせてお茶をしているところ」
「わたくしは、お弁当をたべてらっしゃるところを目撃しましたわ」
「殿下やクロトア様は素敵な方だから憧れておりましたのに……」
「なんだか、残念ですわね。婚約者の方はさぞお怒りでしょうに」
二年や三年の皆様がひそひそとお話されているので、つい耳を傾けてしまいました。やはり、攻略されたようです。クリストファー様はどうなのでしょう。時間の問題でしょうか。そんなことを考えていますと人垣がわっと割れました。エドワード殿下の登場です。護衛のアルバート様が後ろを歩いてこられます。
「殿下……」
「わかっている。成績をあげればいいのだろう。お前もアリエスもがみがみとうるさい。気分が悪い。しばらく一人になる」
「……かしこまりました」
エドワード殿下は、アルバート様をその場に残して、どこかへ行ってしまわれました。そして、アルバート様は成績表を一瞥すると深いため息をついて、寮の方へと向かわれました。アルバート様は学生ではありませんので、成績は関係ないのですが、主の転落に肩を落としているようにもお見受けできました。
今日は午後からの授業はありません。寮にもどって久しぶりにゆっくりしようかしらと思っているとアリエス様に出会いました。
「ごきげんよう、アリエス様」
「ごきげんよう、ルーシェ様。これから、お暇かしら、よろしかったらお茶をのみませんか」
「はい、喜んで」
アリエス様はうふふと微笑みながら、わたくしをお茶に誘ってくださいました。前世のわたくしよ。反省しなさい。アリエス様はとても優しいお姉さまですわ。
わたくしはアリエス様と成績のことを話しながら、歩いておりましたが、カフェのある方向とは別でした。どうやら中庭の東屋に行くようです。すでにお茶会の準備が整っているのはさすがというべきでしょうか。そこへ、なぜかウィルス先生もいらっしゃいました。
「やあ、ルーシェさん」
「ごきげんよう。ウィルス先生」
「さあ、お二人とも座ってください」
わたくしが席に着きますと、となりにウィルス先生が座り、対面にアリエス様が座られました。
「もう、限界ですわ……」
ぽつりとアリエス様がつぶやきます。ウィルス先生はおだやかにうんとうなずきながら気持ちはわかるよとおっしゃいます。
「こちらから婚約破棄もできませんし、今の状況では……」
「そのことは、王にも報告してあるから。君は君らしくあればいいよ。殿下にはもう近づかない方がいいだろうね。君の精神衛生のためにも」
「そうですわね。でも、生徒会の仕事や執務を放ってはおけませんし」
そこでちらりとわたくしに視線が投げられました。お手伝いはしますよ。でも生徒会にははいりませんよ。厳しすぎます。とわたくしは目で訴えます。
「クリストファー様と二人だけでは手が足りませんの。試験前にもルーシェ様に手伝っていただいたので、成績を落とさずにすみましたけど」
「そうか。ではルーシェさん。生徒会に入りませんか」
「い、いえ。無理です。お手伝いぐらいならできますが、正式には……」
速攻、お断りです。あんな書類の山処理できません。パンチ穴開けて紐でくくる作業ぐらいしかできませんのよわたくしは。
「では、顧問としてお手伝いだけでもお願いしよう」
「お、お手伝いだけでしたら、喜んで」
わたくしは、内心ほっとしながら、紅茶を一口飲みました。それにしても、顧問ならエドワード殿下やクロトア様を何とかすべきなんじゃないかしら。あ、ウィルス先生は隠れキャラでしたね。忘れておりました。表だって動くことはないということでしょう。
「とりあえず、お茶を楽しもうか」
「ええ、そうしましょう」
二人がにこやかに笑うので、わたくしもつられて微笑みました。