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さて、いよいよ魔法の実技でございます。この世界にジャージはございません。なので、白いシャツと黒のパンツスタイルです。靴も丈夫なブーツです。適正は、入学前に検査を受けているので、レベルごとにクラス分けされています。わたくし、実はびっくりのオールマイティ属性でございます。チートですわ。けれど、モブにチートが必要なのでしょうか。意味がわかりません。まあ、おかげさまで実践相手は学院随一の実力者、ヒース・ウィルス先生です。ほんわかした雰囲気で、髪も目も茶色で地味ですがかなりかっこいいのです。大人の色気たっぷりです。実は隠れキャラだったりします。そしてお家柄も大公様なのです。
そんなウィルス先生に実技のお相手をしていただけるなんて、モブでチート最高です。
「さあ、はじめましょうか。ルーシェさん」
「はい、では参ります」
まずは火炎で視界をふさぎます。先生は防御に土魔法で壁を作るでしょう。ですから、風魔法で宙返りし背中を氷の刃で切り付けました。が、先生は幻影でした。わたくしは背後を警戒し結界をはっています。案の定水魔法の激流が飛んできました。幻影には影がありませんから、こちらは偽物。では本物は?訓練場のどこかにいます。生徒の中ではありません。危険ですからね。背後をとととっと何かが横切りました。私は反射的に土魔法で檻をつくり、その生き物を閉じ込めました。それは真っ白な猫。あら、可愛い。と思っていたら、猫は一瞬で消えました。そして、ピタリと首に冷たいものが当たります。わたくしは両手をあげて降参のポーズ。
「うん、とても良い筋だね。最後はちょっと油断したね」
「はい、申し訳ございません」
「うん、つぎもがんばって。いや、あんまりがんばらなくていいかな。僕が負けちゃうよ」
先生はよしよしと頭を撫でてくれました。いやん、うれしいもっとなでなでしてくださいまし……いや、そうじゃないですね。視線が痛いです。女子だけでなく男子の視線も痛いです。ごめんなさい。はしゃぎすぎました。
他の方々もそれぞれ組んで、一対一の対戦をいたします。この場合、先生のように手加減が効きませんので、必ずけが人が出ます。わたくしは、そのけが人の治療も行います。火傷、切り傷、骨折なんでもこいです。婚約破棄されたら、治療師になるのもよいかもしれません。そんな楽しい時間もあっという間におしまいです。とりあえず、寮に戻ってお風呂に入り汗を流して昼食を食べたら、午後の座学です。ランチはバイキング方式なので、プレートにはいろいろ乗せて楽しみます。今日は運動したのでデザート多めです。甘いもの大好き。ふと視線を感じて顔をあげると、アルマ様がわたくしを見ていらっしゃいます。視線が合うとすっとそらされました。なんでしょう?わたくしモブですよ?ま、何はともあれ、ランチタイムでございます。日当たりのよい席につき、いざ食べようとすると声がかかりました。
「ここ空いてますか」
そこには見知らぬご令嬢。栗色の巻き毛が愛らしくはねています。顔立ちも美人というより可愛らしい方でした。腕章は白。同級生ですわね。
「ええ、空いてますわ。どうぞ、お座りになって」
「では、失礼いたします」
「わたくし、ルーシェ・アリスベルガーと申します。あなた様は?」
「わたくし、ミシェル・モーガンと申します。よろしくお願いします」
モーガンといえば、確か男爵家。
「こちらこそ、お友達ができてうれしいですわ」
わたくし、にこやかに会話しておりますが、内心戦々恐々としております。入学してから一か月経ちましたが、声をかけてくださるご令嬢はなく、ぼっちでした。彼女もぼっちだったのでしょうか?それとも何か裏があるのでしょうか。
「まあ、わたくしなんかが友達だなんてよろしいんですの?」
「あの、お嫌でしたら……」
「いえいえ、とてもうれしくて今噂の子爵令嬢様とお友達になれるなんて光栄ですわ」
「う、噂と申しますと……」
わたくし、何かやらかしたでしょうか?
「とても魔法がお上手で、ウィルス先生のお墨付きですってね。素敵ですわ」
「あ、ありがとうございます」
悪い噂ではないらしいのでちょっと安心しました。それからは、午後の座学のことなどを話したりしてお昼を終了いたしました。それからは、ちょくちょくミシェル様とランチをしたり、お茶をしたりしましたが、何か薄い膜のような、目に見えない結界があるような、どうもうまく打ち解けられませんでした。結果から申し上げますとお友達にはなれませんでした。残念。やっぱりモブはぼっちなのでしょう。