2
「それではこれより、一年生の歓迎パーティを開催する。飲んで食べて踊って楽しんでくれ!ただし酒はないからな」
王子様、意外とお茶目さんですね。会場がわっと笑いにわきました。そして静かに楽団が音楽を奏で始めます。わたくしは、おなかはいっぱいですのでブルーベリージュースをいただきましょう。テーブルからグラスを一つとって、ささっと壁際へ。みなさま楽しく談笑されておりますが本当に楽しいお話なのでしょうか。疑問です。
「ルーシェ」
「クリストファー様。お疲れ様です」
「ありがとう。それよりエスコートできなくてごめんね」
「仕方ありませんわお仕事ですもの」
「これから、会場を一回りしないといけないんだけど、一緒に来ない?」
わたくしは首を横に振ります。
「そうか、じゃあ、あとで踊ろうね」
「ええ、のちほど」
女性たちが目でクリストファー様を見つめた後、わたくしに冷たい視線を投げつけます。痛いからやめてくださいまし。大丈夫ですよ。今年中には婚約破棄されますから。そうなのです。婚約破棄が起こるのは年末の卒業式後のパーティです。といっても、わたくしの場合ではなく、エドワード殿下の婚約者・アリエス・ドラクロア公爵令嬢の場合ですが。つまり、悪役令嬢ということですね。学年は一つ上ですけれど。ちなみにアリエス様は社交界の紅薔薇と呼ばれるほど美しい深紅の髪をしております。瞳は温かみのあるブラウン。かなりの美人様でいらっしゃいます。と、噂をすれば影ですわ。丁度わたくしの目の前をお友達と楽しそうにしながら、アリエス様が通り過ぎました。やはり、モブには声はかかりませんね。まあ、かけられても困りますが。
「あ、あの」
「はい」
「もしよかったら、踊っていただけませんか」
「申し訳ございません、婚約者と約束がございまして……」
「そうですか。では、またの機会に」
勇気ある少年よ。本当に申し訳ございません。ああ、もったいない。モブといえども楽しみたいですわ。わたくし、そう思いながらダンスフロアを眺めておりました。そこではエドワード殿下とアリエス様が可憐に踊ってらっしゃいます。眼福、眼福。美男美女のカップルは目の保養ですね。
「お待たせ。僕らも踊ろう」
「お疲れではありませんか?」
「僕は大丈夫だよ。踊るの嫌?」
「いいえ、わたくしでよろしければ、ぜひ」
わたくしは、差し出されたクリストファー様の腕をとり、ダンスフロアへ向かいました。ああ、このままダンスだけなら楽しいのに。わたくし、踊るのは大好きなのです。それをクリストファー様もご存じなので続けて三曲踊っていただきました。ああ、楽しい。