15
翌日、なんだかすっきりしない感覚で目をさましました。泣いたために、目が腫れています。マリーはそんなわたくしを見てすぐにタオルを濡らしてきてくれました。目に当ててしばらく横になっておりました。これから三か月の冬休みです。とても長い気がしました。またクリストファー様と会えない時間が増えるのです。そんな風に考えてしまうと、泣きそうだったので、やめました。そうして、休んでいるうちにアリエス様からお昼のお茶会に誘われました。場所は中庭の東屋です。目の腫れもようやく引いたので、お茶会へでかけました。その途中で別れを惜しむようにあちこちでお茶会が開かれているのが目に留まりました。帰省には一週間の猶予があります。
「ごきげんよう、アリエス様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「もう、そんなにかしこまらないで、さあ、座って座って」
わたくしはアリエス様に手を引かれて、東屋の席に座りました。二人だけのお茶会でしょうか?それにしては、お菓子やカップが多い気がします。そう思っていると、クリストファー様とクロトア様がいらっしゃいました。
「遅いですわよ。二人とも」
「いや、すまん」
「申し訳ない」
お二人は苦笑します。そしてクリストファー様はわたくしの隣に、クロトア様は一人掛けの椅子にこしかけました。
「あと一人いるのよ。もう少しまってね」
三人目はウィルス先生でした。
「やあ、遅くなってすまないね。先に始めてくれててもよかったのに」
「何を言っていますの。先生の指示でこうして集まりましたのよ」
え?そうなんですか?
「うんと、実は生徒会のことなんだけどね。会長はアリエスさんにお願いしたんだ。そこで他のメンバーを集めてもらってあと一人必要なんだけど……」
「わたくしはお断りします」
断固として却下ですわ。あんなに大変なお仕事は無理です。
「即答されましたね、アリエスさんどうしましょうか」
「クリストファー様からもお願いしてもらえないかしら。生徒会にいれば、悪い虫はつかないと思うけど」
クリストファー様はどうしようかという顔でこちらを見つめてきます。ですから、その笑顔は反則です。心臓がどきどきして死にそうになります。
「ルーシェはどうしても嫌?」
「そういわれましても、あの忙しさに耐える自信がありません」
「王子がいないから通常業務だよ。生徒会室はエドワード殿下の執務室も兼務してたからね」
「そうなんですか?」
「大体やることと言ったら、基本的に入学式後の歓迎パーティと夏のダンスパーティの準備に卒業式の打ち合わせくらいであとは雑務よ」
「それなら、やってみてもいいかしら?」
一人でやるわけでもないので、わたくしにも何とかなりそうな気がしてきました。
「あ、それと治療係はつづけてね」
ウィルス先生がそういうとクリストファー様が渋い顔をしました。どうしたのでしょう?
「先生、まさかあの制服姿のまま、続けさせるつもりですか」
「うん、あれは大好評だったからね」
「だったら、婚約者として許可できません」
「えー。君だって見惚れてたじゃないか」
「僕はいいんです。婚約者ですから」
「了解。服装は訓練着でやってもらうよ」
「なら、許可します」
なんだかよくわからないうちに、話がまとまってしまいました。
「ふー、これで生徒会も安泰だな。あ、来年から俺の婚約者が入学するから頼むな」
「はいはい、場合によっては生徒会にスカウトしてもいいかしら」
「おう、いいぜ」
こちらも話がまとまったようです。そんな時でした。わたくしのおなかの虫ちゃんがぐーっとないたのは。ああ、恥ずかしい。
「とりあえず、食おうぜ」
「そうですわね」
「は、はい」
わたくしはサンドウィッチをパクパク食べておりました。食べ終わるとクリストファー様が自分の口元をトントンとたたくのでわたくしは慌ててハンカチで口をぬぐいました。
「まだ、ついてる」
そういって、なぜかお顔を近づけてきます。なんでしょうか?するとちゅっという音がしました。は、今、わたくし、キスされましたか!あまりに突然だったので真っ赤になって声もでません。
「いちゃつくなら、よそでやれ」
「若いっていいね」
「先生、そんなこという年でもないでしょ」
みなさまに笑われてしまいました。ああ、恥ずかしい。
「ク、クリストファー様。そういうことは、一言いってからお願いします。心臓がドキドキして死んでしまいそうですわ」
わたくしがそういうと、みなさん何かあきれた様な顔をされました。クリストファー様を除いて。
「ああ、もう!抱き着くよ」
そう言ってクリストファー様はわたくしを抱きしめました。ど、どうしてこんなことに!
「は、離してください」
「駄目、ちゃんと一言いったからね」
みなさま、笑っていないで助けてください。本当に心臓が爆発しそうです!