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それは、わたくしが五つの頃でした。穏やかな初夏の風に、大輪のバラが揺れる庭。わたくしは、婚約者という名のわたくしだけの王子様と出会ったのでした。お名前は、クリストファー・リザーズ様。リザーズ侯爵家のご長男で二つ年上でした。銀髪に深い青い目。整ったお顔は王子様といっても差し支えないほどのご容姿でございました。


 が、しかし。

 一目お会いした瞬間、わたくしの記憶はハレーションを起こし、ご対面直後にいきなり倒れてしまうという失態を犯したのでした。そして、知りたくない現実と一か月ほど戦いました。それは、わたくしの前世とやらの記憶だったのです。わたくしはどうやら乙女ゲームの世界に転生してしまったようなのです。それも乙女ゲームのモブ。名前も容姿も何も出てこないクリストファー様の婚約者というだけのモブ。モブなのに婚約破棄されてしまう哀れな令嬢。それがわたくし、ルーシェ・アリスベルガー子爵令嬢。黒髪と紫の目をした珍獣でございます。前世のわたくしは、ヒロインのアルマ・キース男爵令嬢のピンクブロンドと深紅の瞳が『平凡な容姿の男爵令嬢が』というゲームの説明に『どこが平凡だよっ』と突っ込みを入れながら楽しく全ルート制覇を目指しておりました。そして、ふと思ったものです。『クリスやクロトアの婚約者って名前も何もないのに婚約破棄にあうなんて哀れすぎだろ。絶対こいつらだけには転生とかしたくねぇ』と笑っておりました。きっと罰が当たったのですね。天罰覿面てんばつてきめん


 さて、五歳児が一か月悩んだところで、何が解決するわけでもございません。わたくしはあきらめてルーシェ・アリスベルガー子爵令嬢として恥ずかしくない知識と教養を身に着けることに専念いたしました。そしてもう一つ。魔法について早くから学びました。ゲームの舞台は王立魔法学院。ならば、モブとして学院生活を大いに楽しまねば損というものです。それに魔法を使えれば、婚約破棄後の心配はいりません。という結論がでたのは、七つの頃でした。


 月日はながれ、本日は王立魔法学院の入学式でございます。ピンクブロンドに突っ込みを入れた前世のわたくしに一言。こちらでは、ピンクブロンドはとりわけ珍しくもない髪色ですわ。むしろ、黒髪は珍しすぎて、視線が痛いのです。モブなのに悪目立ちして仕方がありません。神様の意地悪。

 なにはともあれ、午前中に入学式を終え、午後に入寮式がございました。ちなみに全寮制でございます。平民の方はおられません。彼らは第二王立魔法学院の方へ行かれますので、こちらには貴族階級の生徒だけでございます。あとは、そうですね。制服はございません。そのかわり、学年ごとに色の違う腕章をつけます。一年生は白、二年生は青、三年生は赤です。そして、生徒は教師の前においてみな平等というのが、学院の第一規則です。というのも、教師の方々の中には平民の方もいらっしゃるからです。とはいえ、プチ社交界であることは免れません。


 入寮式が終わると、食堂でフルコースの夕食をいただきます。そのあとは午後七時から生徒会主催の夜会がございます。夜会用のドレス。何を着ていこうかしらと皆さまウキウキしながら、それぞれのお部屋へもどります。わたくしも当然うきうきしておりますといいたいところですが、実は社交が苦手中の苦手なのです。あの腹の探り合いというのでしょうか、二重言語と申しましょうか、裏を探るのが苦手なのです。社交界デビューは入学前にすませましたので、いくつかの夜会やお茶会には出席させていただきましたが、ついていけませんでした。ですから、わたくし夜会と聞いただけで落ち込むのでございます。


「お嬢様眉間にしわを寄せないでくださいませ」

「そうはいってもしかたありませんのよ。わかっているでしょマリー」

「そうですわね」

 そういいながら、しっかり夜会の準備を整えてくれるマリーは優秀な侍女でございます。学院の規定では侍女または執事、従者、護衛は一人までと決まっております。もちろん、それをお目こぼしされている方もいらっしゃいますけど、わたくし子爵令嬢ですから。規則は守ります。


 さて、夜会ですから一応どなたかにエスコートしてもらうのが通例ですが、婚約者のクリストファー様は生徒会執行委員ですので、迎えにはいらっしゃいません。まあ、学院の夜会ですから特にエスコートなしでも問題はないかと思います。わたくしはマリーを伴って迎賓館へ向かいました。

「では、いってらっしゃいませ」

 ドアの前でマリーとはお別れです。彼女は別室で控えるのです。夜会ですが、腕章はつけております。わたくし、人様より頭一つほど小さいので人波に紛れてしまえば目立ちませんが、人酔いするのでとりあえず壁際へ。時刻は間もなく七時です。壇上にはイケメンが勢ぞろいで目の保養になりますわ。


 真ん中に生徒会長であるエドワード・ルシフィール殿下。金髪碧眼のザ・王道の美少年。

 右隣には、副会長のクロトア・エヴァンズ様。オレンジの髪に金色の瞳は太陽のよう。

 左隣には、わたくしの婚約者。銀髪、蒼い目の月のようなクリストファー・リザーズ様。

 そして壇上のわきに控える王子の護衛アルバート・ロイド様。深紅の髪と目の細マッチョ。


以上の四名がヒロインの攻略対象でございます。



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