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筋肉

 一人の少女が歩いていた。

 彼女はゆったりとした足取りで、廊下を歩き、階段を下り始める。


 そしてそのまま歩みを進め、玄関が目前に迫ったその時、その少女、こと山本悠華の視界に一人の青年男性が入り込んできた。


 その青年は、至って普通の背丈をしていたが、彼には人を惹きつける事ができる特徴を持っていた。

 それは顔でもなく、声でもない。

 奇抜な服装をしているわけでもない。


 その特徴……それは、体だ。


 その引き締められた肉体には、自然と人を惹きつける魅力がこもっている。

 Yシャツから見えている腕を見るだけで、並大抵の鍛え方ではない事がよくわかるであろう。


 相当な程に鍛えられ、隆起している上腕二頭筋と三頭筋。

 そして、それを覆うように隆々と盛り上がった三角筋。


 また、上腕同様に鍛えられた下腕。

 特に印象的なのは腕橈骨筋だろうか。力を入れていない状態でもそれだったらその形がくっきりと認識できる。

 そして少しばかり力む程度で橈側手根屈筋と長橈側手根伸筋が確認できるようになることから、体脂肪率の低さも、うかがえるだろう。


 同様に、絞りあげられたふくらはぎも完璧と言って良い形状だ。

 下腿三頭筋とヒラメ筋、そして腓腹筋がそれぞれ丁寧に鍛えられている証拠であろう。


 Yシャツに隠れている部分も相応に鍛錬されているのだろう、大きく発達した広背筋と大胸筋が服越しでも理解できた。


 それらが、ショートモヒカンと爽やかな顔に引き立てられ、物凄い存在感を放っている。


 おっと、つい熱くなってしまった。申し訳ない。



 悠華は明白に歩く方向を変え、その筋肉モリモリマッチョマンの変態の元へと向かう。

 そして彼の背後に気配を殺して近寄り、意図的に少し大きめの声を出した。


「せんせー。こんなところで何してるんですかー」


 驚く程の棒読みである。

 その声と同様に、悠華は表情一つ変えぬままそう言った。

 背後から声をかけられたその青年――中村一樹(なかむらかずき)は、しかしさほど驚いたような様子も見せず、後ろへと向いた。


「ああ、悠華か。今俺は校庭にいる二人の仲介をしようとだな……てかなんでお前さんここに居るんだい?」

「教師の癖に二人が怖くて一向に止めに入れないどっかの無能さんの代わりに、私が彼等を仲介してあげようとね」


 図星なのか、一樹は引きつった笑いを浮かべながら硬直する。

 そんな一樹を、悠華は眼を半分閉じて見つめていた。


「あのな。これでも俺は目上の人だぞ?もっとちゃんとした口の利き方があるんじゃないか?」

「ああ、そう。そういうことを言うんだったらちゃんと教師らしい行動をするべきじゃないかしら」


 怒気のこもった声を出した一樹に、悠華は意地悪く微笑みながらそう答えた。

 それを聞いた一樹はぐぬぬと答えに詰まる。


「それを言われると何も言い返せない」

「うんうん、じゃあ私はこの口調のままで良いわね」

「しょうがないから許してやるよ……」


 にっこりと微笑んでいる悠華に、一樹は呆れたような顔をしてそう答える。

 教師の威厳は何処へと飛んで行ってしまったのだろうか。


「で、話を戻すけれど」

「ああ」

「なんであなたは二人のことが怖いのかしら。教師の癖に」

「それはしょうがないだろう?あんな異能バトルを見せられてしまってはね……」


 そう言いながら、一樹は校庭を横目に見た。

 そこには、今まさに炎壁から相原が体をのぞかせていた。


「あなたって今何歳?」

「26歳だが何か?」

「その年でまだ見えるのね……可哀想に」


 少しばかり眼を滲ませて同情する悠華に、一樹は当惑する。


「ん? 俺何か同情されるようなこと言ったか?」

「いや、気にしないで。何でもないから」

「まあ、そういうならあえて詮索はしないが……」


 腑に落ちないと言った風に、一樹は眉をひそめた。


「で、ところでなんだけど」

「急だな、まあ良いが」

「その筋肉はなんの為に鍛えてるの? あの二人の仲介にも入れないのに」


 悠華がそう、煽りの意味も込めながら、抱えていた疑問を切り出した。


「俺の筋肉はね。奮うためのものじゃなくてだね」

「あ、違うんだ」

「見せる為に鍛えてるんだよ」


 そう得意な顔をした一樹に言われた言葉が理解できずに、少し悠華は困惑する。

 一樹と悠華の筋肉に対する考え方が、根本からして異っているのだろう。


「ほら、見てみなよこの筋肉。これをみ――」


 そして、周りも見えなくなって語り始めた一樹と、明白に距離をとりながら、悠華は今まさに相対しようとしてる敦花と相原の元へと歩き始めた。


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