予知
時は相原と敦花が戦闘を開始する直前まで遡る。
教室の窓際に、生徒が聚合しているのを見て、ケイティは不思議に思っていた。
その数は時が経つにつれ、未だ少しずつ増している。
どうやら、反対側の組の生徒までその中に混じっているようであった。
「やべぇよ……まじやべぇよ……!」
「なにあれ、凄すぎだろ」
まるで潰れたたこ焼きのような顔の男と、その隣の髪が鉄の綿の様になっている男が、興奮しながら、そう叫ぶ様に言う。
ケイティは彼等とは面識が殆ど無かったので、名前を思い浮かべることはできなかったが、一際目立っていたので、咄嗟に目に入ってきたのだった。
潰れたたこ焼きの様な顔に対し、吹き出すのを必死に堪えながら、ケイティは周りをぐるりと見回した。
若干人見知りが入っているケイティは、仲の良い人で無いと、話しかける事に相当な気苦労が必要なのである。
そして、居なかった。
周りに仲の良い人がいない事を認識し、ケイティはがっくしと肩を落とす。
されど外の光景への好奇心も止まらず、しかしもう少しで担任が入って来るので立つわけにもいかず……と頭を抱えていたちょうどその時。
じりりりと呼び鈴が鳴った。
反対側の組の生徒はちらほらと元の組へと帰り始めていたが、呼び鈴が鳴ったにも関わらず、大半の生徒は帰る気配すら見せぬまま、外の景色に釘付けにされていた。
そんな中辺りをもう一度見回してみたケイティは、自分以外最早席についている生徒がいない事に気付いたのだった。
それなら私も、とケイティが席を立ったその時、髪を腰あたりで切り揃えている小柄な少女がケイティの視界に入ってきた。
瞬間、ケイティは教室を出ようと扉へと向かっているその少女へと、歩みを進める。
「悠華さん! 待って下さい!」
「えっ?」
その少女、悠華が教室から出る直前、ケイティが彼女を呼び止めた。
突然何者かに声をかけられた事により、悠華は少し驚いた様な様子を見せる。
「ふぅ、なんだケイティか。びっくりさせないでよね」
「あ、その、すいません……」
「ああ、別に謝らなくていいわよ。で、何か用でも?」
どうやら、急ぎの用があった訳でもないらしい。悠華は、ケイティの呼び止めに素直に応じたのであった。
「えーと、外の光景が気になりまして……」
「外の光景? ああ、相原君と敦花が戯れてるだけよ」
「敦花……ってもしかして新入生代表の子ですか!?」
思わぬ人物の名が挙がり、ケイティは愕然とする。
そのケイティの反応を見て、悠華は一瞬、きょとんとした。
「あれ、この事ケイティは知らないんだっけ? 中学の時、相原君とあの娘、良く連んでたのよ。正確に言うと、相原君があの娘に付きまとわれてたのだけど」
「どうして敦花さんは相原君の事を付け回すようになったんですか?」
「それは話すと長くなるけど、そうね、あの日ーー」
「長くなるんならいいです」
「即答!?」
真顔でケイティに説明を謝絶され、悠華は少しばかり気落ちする。
しかしケイティはそんな悠華が目に入ってないようで、徐に視線を窓へと移した。
「悠華さんは良いですね」
「え? 突然何?」
唐突に自分の事を褒められた悠華は、突然の事にあたふたとする。
「相原君と幼馴染の貴方なら、私の知らない相原君を沢山見てるんだろうなぁって思いまして」
「まぁ確かにそうかもしれないけれど……それで良い事なんか無いわよね?」
「今の私には、それがたまらなく羨ましいんですよ」
そう言いながら寂しそうに笑うケイティに、悠華は怪訝そうな顔をする。
「あんた相原君と何かあったの? 朝の話とか気になるし」
「えーと……まぁそれは時が来たら教えるという事で……」
「まあ分かったわ。でも付き合ってる事ぐらい、普通に言えば良いのに」
「え!? 何故それを!?」
「もしかして声に出てた!?わ、忘れてくれない?」
あの現場にいた者で無いと知らないはずのその事実を、悠華が知ってた事に対し、ケイティは驚愕する。
その反応に対し、悠華は、半ば焦りながら、それを誤魔化そうとするのであった。