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衝突

 瞬間。

 相原の心の奥底で、何かがかちりと音を立てた。


 敦花がそう言い放つと同時に、世界が漆黒に染まりゆく。

 暫し経つと、世界は闇に抱擁され、そして。

 荒れ果てた大地がその姿を現した。


 じりりり、と雷鳴が轟く。


「此処は……何処だ?」


 相原は思わずそう呟き、戒心して周りを見回した。

 其処には元あった校庭の面影は微塵も無く、されど自身と敦花以外に、周囲に人が居ないという事だけは、変化していないようであった。


「此処は終焉を迎えた世界の成れの果ての姿だよ。此処なら思う存分戦えるって訳」


 敦花は得意顔でそう言うと同時に、左手を前に伸ばす。

 刹那、その左手に何かが衝突した。


「ほう? 今のを見抜くか。成長したな、敦花よ」

「まあ、ね」


 相原は、高速で蹴り飛ばした石が敦花に防がれ他のを見て、甚だ愉快と口角を上げる。

 と同時に、大きく体を仰け反らせ、三丈ほどの距離を一歩で詰めて来た敦花の蹴りを躱した。


「随分ぶりになるが、俺の本気をお前に見せてやろう」


 相原がそれを言い終えると同時に、敦花の体がびくりと震え、大きく背後へと跳んだ。

 あまりにも強大な殺気に、本能的に体がそうさせたのだった。


 一歩、二歩と大きく蹴り、三町程の距離を後退する。

 しかしそれでも足りないといったばかりに、敦花は体制を低く身構えた。


「そんな距離で大丈夫か?」


 相原が言ったそれは、まるで脳内に直接語りかけているかのように、遠く離れている筈である敦花にも、はっきり聞こえてきたのだった。


  一歩。

 相原が大きく足を踏み出した。

 そして、地面を強く踏み込み、瞬間。

 まるで隕石が衝突したかの様な衝撃波が巻き起こり、それと同時に相原が消えたーー否、一瞬にして音速を凌駕するほどまで加速したのだった。


 一歩にして念を飛ばす速度に勝るとも劣らない程まで加速した相原は、一瞬にして自身と敦花との距離を踏破する。

 そして、その勢いを殺すこと無く、左足で蹴りを放ったのだった。

 敦花はその蹴りに、反射的に腕を胸の辺りに上げる。


 何かが爆裂した。

 そう錯覚するほどの衝突に、地面に爆発跡の様な窪みが出来る。

 敦花が咄嗟に出した両の腕は、相原の左足を受け止めることに成功していたのだった。

 その事実を知った相原は、少しだけ驚きを顔に表した。


 空気がびりびりと震え、二人の足は少しずつ地面へとめり込んで行く。それ程までに、双方の力が拮抗していたのだった。

 だからこそ、微々たる事で、その均衡は崩れ去る。


「なっーー!?」


 相原の背中と、敦花の正面が、何かに重く押された。

 そう、相原が跳躍した時の衝撃波が、まさに今、二人の元へと到達したのだった。

 最早、敦花は相原の蹴りを抑えられない。

 敦花の上半身が重圧に耐え切れず、思わず後ろへと仰け反った。


 相原は、その一瞬の隙を逃さなかった。

 均整を崩した敦花へ向け、体を無理やりに捻り右足で蹴りを放つ。

 それは、辛くも体を捻り、紙一重で回避することができた敦花だったが、最早相原の追撃を回避する術は残されてはいなかった。

 相原は口角を少し、上げる。


 相原の拳が、敦花の体に打ち付けられた。


 ばきり、と肋骨が折れる音が聞こえた。そう、見る者を錯覚させる程の力が、敦花の身体に加えられる。

 地面から両脚が離れ、宙に浮いた敦花へと向け、一歩踏み込むと同時に、相原は拳を引き絞った。

 それとほぼ同時に、相原の拳が漆黒の炎を上げ始める。


 そして、その拳を敦花へと一路に打ち出した。


 咄嗟に身を捩り敦花はそれを避けようとするーーが。


(間に合わない!)


 体制を崩され、脚すら地面に着いていない敦花にそれを回避できるはずもなく。

 相原の拳は敦花を捉えたのだった。


「くっーー!」


 瞬間、今度こそ紛れも無い大爆発が巻き起こった。

 収束された炎が開放され、凄まじい程の炎風が自身もろとも周囲を焼き払っていく。


 まるで埃のように吹き飛ばされていく敦花は、炎の切れ間に、相原の姿を尻目に見た。

 どうやらさらなる追撃はしてこないらしい。

 

 しかし、その事に対して素直に喜ぶ事はできなかった。

 吹き飛ばされた時の痛みが余りにも大きかったからーー否、それ以上に大きな要因がそこにはあった。


 ようやく地球の重力によって地に脚をつける事ができたが、勢いを殺しきれず、体が引き摺られた。

 思わず上げそうになった悲鳴を無理やりに飲み込み、敦花はその身体を起こそうとする。

 しかし、なかなか立ち上がる事ができない。

 口の中で、何かがかちかちとなる音が絶えず聞こえてくる。


 膝が笑っていた。余りの恐怖に本能が『逃げろ』と告げている。

 先程から、冷気が背中を貫き続けていた。

 敦花は、そんな体に鞭を打ち、無理やりに身体を立たせる。


 それとほぼ同時に、宙高く伸びた炎壁の中から、相原がその姿を露わにした。


 「無傷」であった。その文字通り、外傷など殆ど見られない。

 対し、敦花は、拳を打ち付けられた所を赤黒く変色させ、皮膚の至る所が火傷で爛れていた。

 無理も無い。あの業火の中から無傷で出ろなどとは無理な話だ。ただ、一人を除いて。


 そう、敦花は、あの惨状の中で傷一つ負うことなく、平然とした顔で立っていた相原の姿に、戦慄すると共に、恐怖を覚えたのだった。


 満身創痍の敦花。

 無傷の相原。

 そんな、明らかに結果が見えている中、二人は再び相対する。



 そんな事を二人が妄想の中で繰り広げていると、そこに一人の少女が歩いてきた。




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