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了承

 冗談ならやめてくれと、相原は心の底で思う。


 恋に落ちる。fall in love.

 それは、「恋」という名の病に陥る事である。


 長身、美形といったとて、性格には難があり。要するに相原は見掛け倒しなのだ。

 そんな事を、1年間も共に学業を過ごしてきたケイティが、知らないはずがない。

 知らないはずがないのだ。


 なら、何故。


 ――相原は、以前にも何度か告白された事はある。

 しかし、其れは総じて出会ったばかりの者であり、一年も経ってから告白された事は今回が初めてであった。

 更に、今迄付き合った人全てに、性格に幻滅したのだろう、3日と経たずに振られている。


 それ故、相原はケイティに告白された事に、あぐねているのであった。


「迷惑、でしたかね……」

「えっと……」


 当惑し、呆然と立ち尽くしている相原に、こちらも、少し困ったような表情をしているケイティが言う。

 相原はそれに応える事ができなかった。


「時間を取らせてしまってごめんなさい!」


 ケイティは半ば自棄になって後ろを振り向き、そう、少し上ずった声を出す。

 その目尻には、少しばかり光る物があったような気がした。


 そして走り去ろうとする瞬間。


「ま、待ってくれ」


 と、ケイティの背後から声がした。


「分かった、OKだ。付き合おう。だからさ、そんな顔しないでくれよ」


 反射的に振り向いたケイティに対し、相原が優しく微笑みながら言う。

 その時、ケイティは、その頬の辺りまで涙を伝せていたのだった。


「だから泣くなって」


 より一層、顔を赤らめてしゃくり始めるケイティに、相原は心配そうな顔をしてそういった。

 そんな相原の思いとは裏腹に、ケイティの頬を伝う涙は顎まで達し、地面へと吸い込まれていくのであった。


「違うんです。いや、違くはないんですが……」


 少し落ち着いたようだ、ようやく喋れるようになったケイティが少し困ったような顔をして言う。


「さっきまでは悲しくて泣いてましたが……今のは嬉し涙です」


 ケイティはそう言いながら微笑んだ。




 ということでなんやかんやでケイティと相原が付き合うことになったその暫く後。


 遂に始業式が始まったのだった。


 相原は中学生だった頃から遠ざかれると、始業式を楽しみにしてたはずなのに、朝の事が気がかりで、全く集中できずにいた。


「ええ~最近暖かくなってきましたがー」


 などと校長が長話を始めた時、朝ので疲れが溜まっていたのだろう、相原は睡魔と精神力との対抗に負けたのであった。



 何故か、自分が今、夢を見ているのだと、相原は確信していた。


 一人の少女が自分の腕で抱きかかえられている。

 その服は紅く染まっていて、今にも力を失ってしまいそうな程弱々しく

見えた。


 その少女が何かを言っているのだが、雑音にかき消されて、その声を聞き取ることは出来ず。

 そして、相原の頬へと伸ばされていた腕がぐったりと垂れて……



 暫くして、講堂全体に歓声が沸きあがったことにより、相原の意識は強制的に覚醒させられた。

 とても悲しい夢を見ていた気がするが、もう思い出す事はできない。


 相原はいつの間にか頬を伝っていた涙を袖で拭いながら、ステージの方を向いた。


 そこには。

 歓声の中心となっている「新入生代表」とやらが立っていたのだった。


 背丈はよくは分からないが、校長と同じぐらいに見えるので、悠華より少し高いぐらいだと思われる。髪は肩辺りで切りそろえてあり、艶やかに光が反射しているところを見ると、手入れが行き届いているのだろう。

 そして、最も印象的なところは、その少女が 小顔で、勝ち気な瞳をしている空前絶後の美少女なところだ。


 しかし相原はその少女に、どこか既視感を抱いているのであった。



 相原が引っかかって出てきそうで出てこないその記憶に、苛立ちを募らせている時。

 その少女がこちらを向いてウインクしたような気がしたのは、ただの杞憂だと信じたい。





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