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3秒前にできた世界

────12時30分になりました。




 頭が痛い、こんな夜遅くに目覚めたのは何故だろうか。まったく、神様と言う奴はこういうところで気が利かないらしい。


 さて、これからどうしたものか。こんなに夜遅くじゃ行く場所も限られているだろうし、友人であろう人達もまだ寝ているはずだ。流石に人に迷惑をかけてまで暇を潰そうとは思えない。


 しかし、一体なぜこのようなことになっているのだろうか。どうやら……この世界は俺が目覚める3秒前(・・・)にできたらしい。


 らしい、と言うのは、確証が持てていないからだ。俺の頭の中には1年前に友人達と北海道へ旅行へ行った記憶や、2ヶ月前に京都府で殺人事件が起きた記憶、更には昨日コンビニへ行った時に店員の会計ミスでお釣りが10円多かったことまで覚えている。


 そしてそう言った記憶とは別に、この世界は俺が目覚める3秒前に出来た、と言う知識がある。その他にも、そのことを知っているのは俺だけだと言うことや、全人類が俺のように作られた記憶を植え付けられ、それを信じ込んでいる、と言う知識がある。


 実を言うとその他にも多くの知識があるのだが、それは全て宇宙云々生命云々と意味不明なことばかりで、俺には到底理解することの出来ないものだったのだ。


 しかし、なんとも虚しく、孤独な限りだ。いや、誕生したばかりでこんなことを言うのはいささか変な話であるが、俺以外の皆は何も知らないのに俺だけが知っていると、見るもの全てが作り物に見えてしまうのだ。


 窓から見える綺麗なはずの夜景も、俺の携帯に入っている思い出のはずの写真も、目覚めた時に俺が横たわっていたベッドで寝息を立てている俺の彼女なはずの女も、全部作り物……作り物……つクりもノ……ツクりモの……ツクリモノ……




 どうやら眠ってしまったようだ。窓から入ってくる陽の光は眩しく、思わず目を強く瞑ってしまう。しかし、この光も作り物なのか……。いや、今考えるのはよそう。


 そう言えば、眠っていたはずの彼女がいない。台所にでもいるのか? いや、それにしては特に音も聞こえない。とすると食事中か? だが食べ物の匂いはしないし、一体どこに行ったのか。


 ふと部屋の隅にある棚を見てみると、財布や金を入れていた引き出しが荒らされているのがわかった。やられた、あいつはきっと俺に好意を感じたわけではなく、最初から金目当てで近付いてきた、そう言う設定なのだろう。


 生憎、クレジットカード等は別の場所に保管してあるし、その場所はあいつにも言っていない記憶がある。そう言えば、「泥棒に取られないように保管するから」とか「もし家事とかあった時にすぐ持ち運べるように」とか、事あるごとに俺にカードの場所を聞いてきた記憶がある。まったく、記憶の中の俺はよっぽどの馬鹿なのだろう。怪しめ、そんな女。


 それにしても、腹が減った。料理なんてできたものではないし、朝食はインスタントの味噌汁と冷ご飯を温めて食べるぐらいにしておこう。下手にウインナーやベーコンなんかを焼いたりして家事になったら大変だ、一軒家ならともかくマンションなので周りの人に被害が出る可能性が高い。


 そういうわけで朝食をさっさと済ませたわけだが、やることが無い。平日なら仕事へ言っていたのだろうが、今日は日曜日、休みなのだ。


 パチンコやスロットのような博打に興味は無いし、テレビも特に面白いものはやっていない。本も全て読み終えており、2回も読むというのは俺のポリシーに反する。事実上はほんの数時間前に作られたものだがな。


 さて、やることの無さにイライラしてきた。誕生してそうそうこんな目に合うとは俺も不幸な男だ。まぁ、この世界について知っていなければ彼女に逃げられた時点で絶望していただろうが。


 そんなことを思っていると、不意に携帯が「電話だよ!電話だよ!」と叫び出す。うるさい、何回も言わなくて良い、1回で充分だ1回で、呼べば出てくれると思うなよ。


「あっ、もしもし、恭平?」


 電話の相手は中学校からの友人らしい人物だった。しかしこいつは朝っぱらから声がでかい、危うく耳を痛めるところだった。


「なんだよ、うるせぇな」

「ひぇー怖い怖い」

「さっさと用件を言え、じゃないと切るぞ」


 こいつはいつもこうだったらしい、お調子者で、何事にも動揺せず笑って誤魔化す。そんな性格からか友人はかなり多いらしいが残念なことに彼女ができたことはないそうな。


「あぁ! 切るなって、俺が悪かったよ!」

「んで、何の用だよ」

「お前さぁ、今日暇だよな?」


 その通り、俺は今暇を持て余している。しかし、暇だろう、と言われると少し癪に障ってしまうのはなぜだろうか。


「まぁ暇だけど、何かあるのか?」

「やっぱり!」


 思わず携帯を投げそうになった。


「お前さ、大切なこと忘れてない?」

「大切なこと?なんだよ」

「やっぱり忘れてたのか、今日はお前の誕生日だろう?」


 思い出した。そう言えば今日は俺の誕生日らしい、まぁ俺からすれば二重の意味でそうなのだろうが。


「あぁ、そう言えばそうだったな。すっかり忘れていた」

「だろ? そうと思って連絡したんだよ! でさ、今日俺ん家でお前の誕生日パーティーやりたいんだけど来ない?」

「そうだな、何時頃だ?」

「今すぐにもです! 早ければ早いほど楽しめるからな!」


 そう言ってケラケラと笑い出し通話を切った。どうせあいつは俺が断らないことを知っていてわざわざ聞いてきたのだろう、俺の考えが見透かされているようでなんともむず痒い気分だ。


 さて、あいつのためにも、どうせ来ているであろう他の奴らのためにもさっさと準備を済ませて出掛けよう。


 引き出しから適当に服とズボンを取り出して、ハンガーに掛かっているコートを着る、その後コップ1杯の水を飲み、さぁ行こう。


 あいつの家はそれほど遠くない。歩いて10分のところにある、小さな一軒家がそれが。


 ガレージに自転車を留め、インターホンを鳴らさずにドアを蹴る。蹴る。蹴る。


「うるせぇよ! ドアを蹴るなドアを! 壊れたらどうする!」

「おう、悪かったな」

「はぁ……絶対またやるだろお前。まぁ、お前の誕生日なんだしあまり言うのはやめるか。とりあえず入ってくれ、藤崎さんもミチオも来てるぞ」


 玄関で靴を脱ぎ、少し進んだところにあるドアを開くと中にはガッチリとした体付きのいかつい男と、そいつとは対照的に小さな、ほわわんとした顔の女がいる。


「久しぶりだな、お前ら」

「第一声がそれかよ恭平、相変わらずだなオイ!」

「恭平君昔と変わってないね~」


 相変わらず……昔……考えれば考えるほど思考が闇に吸い込まれていく。考えたくもないのに、面倒な。


「さぁさぁ主役が来たところで、誕生日パーティーを始めるか!」

「「イエーイ!」」

「はぁ、いえーい」

「なんだよオイ、しけた顔してやがんなぁ」


 それはそんな顔をしていてもおかしくないだろう。いくら盛り上げられても作り物とわかっていれば嬉しくもなんともない。


「ねぇ、なんでそんな顔してるの? 嫌なことでもあったの?」

「彼女に、逃げられたんだよ。金を取られてな」


 とっさに出た言い訳だが、事実ではあるし普通ならこれで良いだろう。


「えっ……ご、ごめんなさい……」

「いや、いいよ。もうなんとも思ってないしな」


 これも事実。嘘は言っていない。


「なんだよオイ、ならもっと嬉しそうな顔しろよ、せっかくのパーティーが台無しだろ」

「まぁまぁミチオ、本心じゃかなり悲しんでるだろうしあまり言ってやるなよ」

「まぁ、そうだな」


 ほら、こんなふうに勝手に勘違いをしてくれるから楽な話だ。


「いや、悪かった。せっかく俺のために開いてくれたのにこれじゃあんまりだよな」

「おっ、それじゃあみんなで格ゲーでもするか?」

「格ゲーならいつもお前が勝って終わりだろうが、パーティーゲームは無いのかオイ」

「う、うーん。ゲームよりもっとお話したいなぁ」

「何言ってんだ、パーティーと言えばゲーム、ゲームと言えば格ゲーだろ!」

「そもそもお前の家にある格ゲーは全部2人対戦が限界だろうが!」

「あ、クッキー焼いてきたんだけど、食べる?」

「「いただきます!」」


 はい、いつの間にか俺の存在を忘れられたようで。まぁ、特に悲しくは──


「ほら、恭平君も」

「えっ? あ、あぁ」

「クッキー貰ったからってにやついてるんじゃねぇぞオイ!」


 え? にやついている?


「そう言えば、恭平は昔藤崎さんのことすきだったしなぁ、今もまだそうなんじゃね? なんてな!」

「もう! やめてよ!」


 あぁ、そうか。そうなのか。俺は馬鹿だった。作り物とか言っておきながら、俺はこの状況を楽しんでいるのか。


 いや、もう作り物なんて言うのはよそう。この世界は俺がいるべき世界なんだ、それに本当の思い出は今からでも作っていけば良い。無理をせず、ゆっくりと。


「────! ──」

「──? ──────」


 大切なのは、この世界を受け入れることだ、そのためにも────今を楽しもう。


「なぁ、俺を忘れてるんじゃないか!? 今日の主役は俺だろ!」

「うおっ! 危ねぇなオイ!」

「ジュ、ジュース零さなくて良かった〜……」

「人の家で暴れるなよ!」




 気がつけば10時を回っていた。楽しんでいると時間を忘れてしまうというのは本当らしい。


「それじゃあ、今日はありがとうな」

「へへっ、いいっとことよ」

「これからもたまには顔見せろよな」

「久しぶりに会えて嬉しかったよ〜。また会おうね!」

「それじゃあ、またいつかな!」


 そうして俺の誕生日パーティは終わった。これはもう作り物ではない、本物の記憶と……思い出となるのだ。


 家に帰った頃には11時を過ぎていた、シャワーでも浴びた後に風呂に入ろう。


 さっぱりした、相当の汗が出ていたらしい。思ったよりも暴れ回っていたようだ。


 さて、もう寝るか。布団は温まっているし、電気も消した。


 明日も、思い出を作れれば。


「おやすみなさい……」














────12時30分になりました

 短編としては初投稿となります。誤字脱字などがあればご指摘お願いします、私はドMです、傷付きません。

 また、良く分からない表現があるかもしれませんが、これについてもご指摘お願いします。

 最後の一文に関してですが、これの意味については読者様のご想像におまかせします。

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