虫の夜
薄が銀色に照り返す一面の野原で、
二本の銀杏の木が語らっていました。
三日月は天高く昇っていました。
雲が黒くまたは透けて
詩の欠片が、その間を翻りまた翻り渡っていきます。
「気が狂いたかったの。」
「そうなんだ。」
「銀杏がね。薄緑いろの葉っぱなの。」
「そうなんだ。」
「明るすぎる黄色に弾けてしまう前に、見ておかないと。」
「なぜなの。」
「何か欲しいんだけど、わからないの。」
「どこなの。」
「どこかに行かなければいけないの。」
「心臓だね。」
「どきどきが治まらないの。」
「何かを言いたいけれど、どうすればいいか、わからないんだ。」
「あの日に植えた銀杏の実が、必ず芽を出すと知っていたの?」
「知らなかった。僕の胸に銀杏の実が植えられていたことも。」
「ずいぶん育っているわ。私の銀杏の実も。」
何か虫が鳴いています。
私は、無学につきその虫の名を知りません。
でも、あちらで、またこちらで、鳴いています。