第2話 スカーレット その2
レイは終始こちらを凝視していた。
それはこのスカーレットという少女の話から事の重大さを理解したからではなく、自分だけ食事にありつけない不満からだった。
少女と話していると時々私の腕をツンツンとつついてくるがそのたびに振り払った。
「なあ、私の分もちゃんと残しておけよ」
「わかったから静かにしていろ」
小声で何度言っても言うことを聞いてくれない。
お前は犬か!
話の内容から察するにこの少女は他国の出身で、それもこの国の王都の会談に出席するほどの影響力を持った高い身分の者であることがわかった。
その命を狙うなど、きっとその会談の内容が“気に入らない”者がいたのだろう。
少女の従者達はとっくに殺されているのかもしれない、もしそうだとしたらこの少女は見知らぬ土地の深い森の中でどうやって生きていけば良いのだろうか。
しかも、追手に追われているという。
高い身分の者が他国に渡ってきたということは連れてきた従者達は腕もたち、武装もしていたはずである。
その彼らがこんな小さな少女を1人で逃がすとは、追手は相当な強者であるはずだ。
強者ということはかなり強力な魔法を使えるということである。
前回はレイのおかげで魔法使いがいる盗賊団を撃退する事ができたが、もし目の前に現れたらそんな強者相手に勝てるはずが無い。
この少女は早いところ近くの騎士団の元へ連れて行ってやった方がいいだろう。
それにしてもこの人を見下したような態度は気に入らないが、今の境遇を考えるとかわいそうに思えてくる。
「妾はただ、これ以上無駄な犠牲を出したくないだけなのだ、それでこの国にやってきたというのに」
「襲ってきたのはどんな奴らなんだ」
「突然のことで良くはわからない。だた、複数いたのは間違いない。野営中に馬車で眠っている所を襲われたのだ。闇にまぎれて動く巨大な獣が次々に従者達を薙ぎ払い、轟音とともに吹き飛ばされた…。皆、妾を助けるために体を張って助けてくれた」
きっと逃がしてくれた従者達の事を考えているのだろう、スカーレットは何かを思い出すようにどこか遠くを見つめている。
「とりあえず、早くここから立ち去ろう。追手に見つかるのだけは避けたい」
私は手早く食事をとりつつ、荷物をまとめ始める。
「アル、こいつらはなんだ」
気がついたらリスが3匹ほど、私たちが座っている岩の周りまでやってきていた。
「リスだ、普段は木の実などを食べている」
「何か欲しいのだろう、ほらこれをやる」
スカーレットが食べていた魚のしっぽを投げると勢いよくリス達が食べ始める。
「なんだ、そんなに好きなのか?」
気がついたらだんだんとリス達が集まってきているようだ。小さい体にくりくりとした目が可愛らしい。
少し体の大きいリスが魚のしっぽを独占しようとくわえているリスに噛み付き始めた。
すると残りのリス達が一斉に、噛まれたリスを取り囲み肉を挽きちぎり貪り始めた。
「ヒィッ」
少女が気分が悪くなったのか軽く悲鳴を上げた。
「なんだこいつら、気味が悪いな」
「アル、私たちはあいつらに囲まれているぞ」
あたりを見回すとアルが言ったように地面や周りの木々に私たちを取り囲むようにリス達が不気味に佇んでいた。
「なんだこれは…」
「これはこれは、失礼を」
声の主は森の中から現れた背の高くやせ細った体付きの男だった。
白髪混じりでパサパサによれた長髪で、その身体中を2、3匹のリスが走り回っている。
「このリスは私のものです。お見苦しい所をお見せいたしましたが、普段は見ての通りとっても可愛らしいんですよ」
「あなたは騎士なのですか?」
男はこちらにゆっくりと近づいてきた。腰に剣を下げていて、よく見ると柄に鷹の紋章が刻まれている。
「ええ如何にも」
男はそう答えるとにこりと微笑んだ。
私は内心、騎士が来てくれた事にほっとしていた。どんな政治的な問題があろうが騎士とは民を守る者、命を狙われている少女をきっと助けてくれるだろう。
この状況ではまさに天の助けである。…“まともな騎士”であれば。
「お食事中失礼します。私はこの辺りで騎士を勤めているラモンと申します」
「民を守る騎士様がこんな山奥に来るとは、どうされたんですか?」
私は自分が王都騎士団に所属していた事を隠すため、咄嗟に自分の刀の柄を隠しつつ、このラモンという騎士が信頼できる人物か探りをいれることにした。
「昨晩、この川の上流で戦闘が行われたようでして、その調査をしております」
「戦闘、それはまた物騒ですね」
「ええ、その場には、ちょうどそこのお嬢さんぐらいの背丈の女の子がいたらしいのです。私も騎士の一人、いち早くか弱い民を助けたいのです」
どうやらこの男は、スカーレットの正体が分かっているらしい。
「なんでそんなことがわかったのですか?」
「生き残った従者の方々に教えていただきました」
確かに、傷ついた従者だったら自分が無理でも誰かに助けを求めるだろう。
しかし、私は何となくその発言にきな臭さを感じた
「こいつは嘘を言っている、妾の従者が人間ごときに主君の情報を流す事はない!!」
突然、スカーレットが敵をむき出しにして、ラモンを睨みつけた。
「くくくく、それは…その発言は、貴方がその少女だということで間違いないですね」
ラモンは静かに微笑み、スカーレットを見つめた。
まずい、探りを入れられていたのはこちらだった。スカーレットが自分の正体を話す様、誘導されていたのだ
「妖魔3大貴族の1人、スカーレット。お命頂戴いたします!」
あらかた話は出来上がっているのですが、なかなか書くのに時間がかかってしまっています。
早く話を進めていきたいのですが…(苦笑)