第5話 ゴーレムの魔法 その1
どうも大魔人23です。
お盆なので実家に向かう電車の中で、真っ昼間の田んぼを眺めながら書いています。
ジャスコとかヨークベニマルに行ったら絶対知り合いに会うんだよなぁ。
なんか緊張してきた。
魔法が使えない私が法使いに勝つには、魔法を出すよりも早く切りつけられるほど至近距離に接近するか、気づかれないうちに意識を飛ばすしかない。
今はとにかく、奴らにバレないよう一人一人潰していくしかない。
広場を見ると、足を縄で縛られた村民達が座らせられていた。
その中から突然、ソルが隠し持っていた包丁で縄を切るとボスに向かっていく。
「おおお、村のみんなの敵だぁぁ」
「お?」
ボスが簡単にそれを躱すと、容赦なくソルのみぞおちに膝を入れる。
ソルは“かはぁ”と声を出し、地面に倒れる。
「なんだ、村のみんなってここにいるだろ」
ボスは倒れたソルを見下ろしながら、包丁が握られた手を踏みにじる。
ソルは痛みから“ああッ”と声を漏らす。
「おい、聞いているのか小僧!」
ボスはソルの手から包丁を奪うと柵に向かって投げた。柵に刺さった包丁が“ビーン”と揺れている。
「聞こえないのか?」
「ここじゃない、山向こうの村だ」
「ん?ああ、あの村か、あそこじゃ楽しみすぎたな、食いもんも散々頂いたし村人を狩るのがまた良かった…」
思い出して笑みを浮かべるボス。人の持つ嫌らしさを寄せ集めたような笑みだった。
それをソルが憎しみを込めて見つめている。
「なんだ、その目は。いいか、俺たちはお前達を殺さないと言っているんだ。おとなしくしてないと、お前もあいつらみたいに殺すぞ」
ボスはソルを蹴り上げると、ボロぞうきんのように中を浮いた後、地面に激突した。
“かはっ”声にならない痛みで地面にうずくまるとソルの目から自分の無力さからくる絶望の涙が流れ落ちた。
その光景に、村人達はただただうつむくばかりだった。
その光景を歯を食いしばり、苦虫を噛むような気持ちで見ていると帰ってこない男を探しに刀を持った出っ歯の山賊が近づいてきた。
隠れている家の戸の裏から横を通りすぎていく出っ歯を確認するとゆっくり背後から近づいて先程の男同様に首を閉め落とす。
抵抗してばたつかせていた手から力が抜けると出っ歯は気を失った。
体を隠そうと隠れていた家に出っ歯を引きずっていると、殺気を感じ咄嗟に身を屈めた。
自分の真上を見ると心臓があったあたりの位置に槍がつかれている。
驚き振返ると、槍を持った男が二撃目を突き出そうとかまえていた。
「はは、ネズミが!見つけたぜ」
まずい、このタイミングでは避けようがない。
「ギャッ」
“ドーンッ”という音とともに槍男の頭上からゴーレムが落ちてきて、男を踏み潰した。
「アル、大丈夫か?」
あまりの出来事に理解することが出来なかった。
どうやって、音もたてずに柵を通ってきたのか?
どうやってその重たい体を男の真上まで浮かせたのだろうか?
何はともあれ命を助けられたが、まずい…今の衝撃音で魔法使いとこの盗賊たちの頭に村に侵入していることがバレてしまった。
「なんだぁ今の音?」
「おい、誰かそっちに隠れているぞ!ドヌル、やるんだ」
「わかったよ、兄じゃ」
どうやってこの場を離れるかと考えていると、破裂音とともに身を隠していた家が吹き飛ばされ回りが真っ赤な炎に包まれた。
「兄じゃ、後はまかせる」
「ガハハハ。おう、まかせろ!」
やたらとデカイ斧を構えたボスは狂喜の笑みを浮かべ向かってくる。
家が魔の衝撃を和らげてくれたおかげでかろうじて立ち上がることができた。
「ううう、重い」
ゴーレムは瓦礫の下敷きになってしまったようで動けなくなっていた。
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないのはお前の方だぜ」
ボスは、走りながら乱暴に斧を振り降ろしてくる。それを咄嗟に鞘から引き抜いた刀で振り払う。
「お?」
“ドガッ”という衝撃音とともに地面に斧の巨大な痕がつく。
斧を降り下ろす方向を変えられたボスが驚いている。そして、力任せに斧を振り回す。
「うぉぉぉッ」
一撃、二撃、三撃…。その全てを刀を合わせて方向をそらす。
刀を振り下ろす時、向かってくる斧の勢いを殺さずに逆に利用することで向きをコントロールする。
騎士時代に教わった受けの剣技の一つである。
こちらが攻撃を受けていくうちにボスは次第に息を乱していく。
「…あれを防ぐなんてなかなか出来ねぇぜ」
今度は素早く斧を水平に降ってきたため、屈んで避けると下から振り上げるようにボスの体を切りつける。
「グァァァ、やるな。でもなぁ、お前魔法が使えねぇんだろ。俺たち兄弟は一心同体だ。斧で敵を砕くオレと、魔法で敵を燃やし尽くす弟、2人で1人なんだよ!」
ボスがそう言うと突然その場から離れる。ボスの遥か後ろにある村の端から炎が飛んできて、私の体に直撃した。
「ぐわぁぁぁ」
私は、爆発に巻き込まれ無様に地面を転がった。
「いくら剣が使えようと魔法の前では無力ッ!ドヌル、さすが俺の弟たぜ」
「へへへ、また兄じゃに誉められた」
くそっ、やられた。
完全な視覚外からの攻撃。至近距離で対峙している最中に魔法が飛んできたらさすがによける術がない。
魔法をくらった衝撃と、焼かれる痛みが全身に広がっていく。
幸い、体に触れる前に咄嗟にマントで身を包み、炎が直接肌に触れないように身を守ったことでやけどはそんなにひどくはない。
しかし、今の爆発で全身がバラバラになりそうだ。
ここが魔法の使えない私の限界なのだろうか。
「騎士様!くそぉぉぉ」
ソルが走ってきて爆発で吹き飛んでいた棒を掴むと魔法使いを殴り掛かろうとする。
魔法使いは、それを簡単に腕で薙ぎ払った。
「ソル…」
地面に叩き付けられたソルのそばに、体をなんとか起こして倒れ込むように駆け寄る。
「もうやめてくれぇ、その二人にはなんの罪も無い、どうか助けてやってくれ」
村長や村人達が次々にボスに向かって懇願する。
それを見てボスがつまらなそうに“フンッ”と鼻で笑う。
「ドヌル、見せしめだ。二人まとめて燃やして良いぞ」
「わかったよ、兄じゃ」
「そこの兄ちゃんは強かったが、しょせん魔法が使えないんじゃ、勝ち目はねーな。弟は騎士にも匹敵する魔力の持ち主だ。くそガキもろとも、消し炭になりな」
「いくよー兄じゃ」
魔法使いの、手から炎の塊が放たれる。
とっさにソルを守ろうと抱き寄せて盗賊たちにから隠すように背を向ける。
たぶん、この距離では助からない。
でも、1度は騎士になったのだ。
罪のない子供の1人、この身が焼かれようと守りたい。
“ドガンッ”
体が粉々になる…はずだったが、目を開けるとそこには瓦礫の下敷きになっていたはずのゴーレムがいた。
「アル、ソル、大丈夫か?」
次回で村から出る予定です。