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第4話 奇襲

 翌日からソルはさらに必死になって弟子にして欲しいと頼み込んできた。


 まだ夜も明けないうちに、木の棒を刀に見立て振り回していた。


 それをしばらく眺めていると、私に気づいてソルは頭を下げてくる。


「騎士様、どうかオレを強くしてくれ」


  “だめだ”と何度言ってもソルは諦めない。


「じゃあ、何でもする、だからオレの代わりにオレの家族の、殺された村の人たちの敵をとってくれ」


 無理な相談だった。


 「アル、詳しくはわからないが、剣を教えてやったらどうだ?」


 私がため息をついていると、不憫に思ったのかその場に居合わせたゴーレムがそう言った。


「そんな数日で覚えられるようなものじゃない」


 そう一喝するとゴーレムは黙った。


 その代わり、ソルの元へと行くと一緒に家の手伝いをし始めた。どうやらあいつなりにソルを元気づけようとしているらしい。つくづくおかしな奴だ。




 7日後、畑を荒らしていた熊をもう1頭を倒し、依頼を達成した私は村を出る事になった。


 ソルは最後まで私に頭を下げていた。私はそんなソルに”復讐なんて早く忘れるんだ”と言って村を出た。


山を越え、西へ向かおうとしていると、馬の蹄の音が聞こえてきた。


 生い茂った草にゴーレムとともに身を隠し、様子をうかがうと、数名の男達が馬に乗って今出た村の方向へと駆けていくのが見えた。


 男達はぼろぼろの汚れた衣服を着て、全員刀や斧など物騒な刃物を身につけていた。


 それを見てソルの言っていた山賊達ではないかと嫌な予感が頭によぎった。


  もしやと思い、村へ戻ると木を組んで出来ている高台から村の男が大声で”山賊だぁ”と叫び、危険を知らせる鐘を“カンカンカン”と慌ただしく鳴らしている。



 私は、とっさに建物の後ろに隠れ、様子を伺った。 突然現れた炎とともに門が吹き飛び、山賊達が“ヒャッハー”と奇声を挙げて村になだれ込んいく。


 山賊達は馬から降りると逃げ惑う村人達を捕え始めた。


 刀が2人、槍が1人、馬鹿でかい斧を持った髭もじゃのボスらしき男、そしてその後ろを手ぶらでついていく巨漢の5人だ。


 「ピーピーうるせえなぁ」


 1人が刀を抜いた。


 「おい、オレが良いって言うまで殺すんじゃねぞ」


 ボスが大声を出して抵抗する村人を切らせないよう凄んだ。


 「前みたいにすぐに皆殺しにしたんじゃすぐ飯なくなってまうからな!」


  その言葉を聞いた村長の息子が叫ぶ。


 「お前達は、オレらを奴隷にでもしようってのか」


 「奴隷?ああそうだな、お前らはずっと俺たちのために働くんだ。どこかにちくったりしてみろ、お前らみんな皆殺しにしてやる」


ボスはそう言うと、村長の息子の胸ぐらを片手で掴むと木の棒を投げるように簡単に投げ飛ばした。


それを見て我慢できなくなった村の男達が、鍬や鉈を持って襲いかかる。


「馬鹿が」


巨漢は、向かってくる男達に手をかざすと、次第に手が赤い光に包まれていく。 そして炎が出来上がると、向かってくる男達に向かって放つ。


  “ギャァアア” 正面から突如、火の玉が向かってくると男達は炎に包まれ体中にやけどを負いその場に倒れる。


 炎はすぐに消えたが、一瞬爆発したように広がった炎は容赦なく男達の全身を焼いた。


 命を落としてはいないが体中が浅黒くなり、ピクピクと体を痙攣させている。



 私は、その光景を見て心が痛んだ。それとともに、自分の力の無さに絶望した。


 自分じゃ、勝ち目が無い。


「クソッ、赤の魔法使いだ」


 「赤の魔法使い?」


 「ああ、魔法使いは使う魔法の性質によって色で別けられている。赤は魔法の中でも最も破壊力がある魔法なんだ。あの炎を見たろ、私じゃ太刀打ちできない」


 「アル、助けにいかないのか?早く行かないとみんなひどい事をされる」


 「…助けたいが、私にはあの火の玉を避ける術がない。彼らのようになるのが目に見えている」


 「それではアルは戦わないというのか?ほら、ソルもそこにいる!村長もだ!みんな親切にしてくれたじゃないか」


 「正直そうしたいな。でも私じゃ…」


 「見損なったぞ!私は一人でも彼らを助けにいく!」


 ゴーレムは吐き捨てるようにそう言うと村に向かって歩いていく。


 自分が何者かもわからないそのゴーレムは、だれに命令されるわけでもなく戦場へ向かおうとしている。


 罪の無い人々を救うため、何が出来るわけでもないのに、初めて見た魔法に臆する事も無く向かっていく。


 その姿を見て、自分が恥ずかしくなった。

 騎士でなくなった今、私に民を守る責任は無い。


 しかし、幼き日の私は騎士になりたかった。

 魔法が使えなくても自分が愛するこの国に住む人々を守りたいと思っていた。


 今、私がやらなきゃ誰がやるんだ。


 村の中では、広場に村人達が集められ手を縄で縛られている。


 私は咄嗟にゴーレムを引き止めた。


 「ばか、やめとけ」


 「なんだ?」


 「弱音を吐いたのは謝る。相手も人間なんだ、勝ち目が無いわけではない。私に任せろ」


 「やってくれるのか?」


 心なしか、ゴーレムの声が明るくなった。


 「ソルには悪いが先に周りの奴らから始末させてもらう」


 足音をたてずに畑の方向に走り出す。


 「ここで待っていろ」


 近くの草むらにゴーレムを待機させると柵の外から中に枝が伸びている巨木によじ登る。


 拾っていた石を、獣避けに使っていた柵のヒモにあてると鈴が鳴り出す。


 「なんだぁ?」


 刀を持ったうちの1人がやって来て、鈴を見ている隙に枝から飛び降り体を背後から四肢を使って締め上げる。


 男はしばらく“ぐぅぅぅ“とわずかに唸りながら手足をばたつかせていたが、ゆっくり首を絞める力を強くしていくとガクンと動かなくなった。


 男を物陰に引きずりこみ、柵に使われていたヒモを使って固く男の体を縛るとその場から広場の様子をうかがう。


 残りは4人。

次回、戦闘が始まります。

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