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落ちこぼれ騎士と銀のゴーレム  作者: ベンソン
第2章 災いの始まり
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第16話 黒鉄のゴーレム その4

「不意打チトハ言エ、良イ腕ダ」

 岩のゴーレムは、地に落ちた左腕の切り口を見て感心したように呟いた。


「オ前ナラ私ヲ、楽シマセテクレル…カモシレナイ」


「…レイ、この人を離れた所に連れて行ってくれ」

 その言葉を警戒しながら聞いているアルは、これから始まる戦闘に巻き込まれ ないようにするため担いでる男をレイに託した。


「わかった、任された!」

 レイはそう言ってこくりと頷くと、男を連れて瞬間移動する。


 アルと岩のゴーレムから20メートルほど離れた場所に移動するとレイはあたりにいる人々に男をまかせた。


「この人を頼む!」


 回りにいる人々はすっかりゴーレムに恐怖心を持ってしまったようで、突然現れたレイに驚き悲鳴をあげた。


 レイはそんな人々の反応に悲しみつつ、その場から少し離れると、ヒゲ面の男の回りに人々があつまり介抱し始めた。


 レイが瞬間移動をしようとした時、弱々しい声でレイを呼ぶ声がした。


「おい!…ありがとう、よ」


 先程、ヒゲ面の男を助けようと岩のゴーレムを殴りつけていた男の一人がレイに向けて頭を下げた。

 レイは、自分の中に何か熱い物が入ってくるのを感じコクリと頷くと、アル の元へと瞬間移動をした。


 レイが先程の場所に元に戻ると、アルと岩のゴレームがお互いの出方を探っているのかピクリとも動かず対峙していた。

 するとレイが戻るのを見計らったように、岩のゴーレムが言葉を発した。


「ヨク“誘イ”ニノラナカッタ。本当ニ、逃ゲ出シタカト思ッタゾ」


「誘い?」


 何を話しているかわからないレイがアルに答えを求めた。

 アルはレイに対し、歯をくしばり答える。


「ああ、こいつはもしかしたら俺たちが助けに戻るかもしれないと考え、わざとさっきの人をいたぶることでおびき出そうとしたんだ」


 その言葉を聞いて岩の固まりからひどく不気味な笑い声が漏れた。


「ソノ通リダ、スグニ来ナカッタノハ正解ダ」


「人の命を道具のように使って…外道が!」


 アルは刀を強く握りしめ、吐き捨てるようにそう言い放った。


 数分前、二人は岩のゴーレムを止めようと決意したが、その後すぐにヒゲの男が掴まってしまったため下手に助けにいく事が出来なくなってしまったのだった。 確かに人々が苦しむ姿は見たくはない、しかしアルは今までの経験からゴーレムの術者がこちらが出てくるのを誘っていると悟った。


 なぜならあのゴーレムほどの力があれば一瞬で男の命を奪う事が出来たはずなのに、あえて何度も殴られ、あえて時間をかけて男を殺そうとした。


  しかも、数を数える時にわざと大きな声を出して男を殺す事を宣言した。 その一連の動きが、アルとレイをおびき寄せるための誘いであると物語っていたのだ。 アルは今すぐ助けにいきたいという気持ちを必死に抑え、自分の無力さに怒りを感じ体を振るわせていた。


「クククッ、スグニ誘イニ乗ラナカッタノハ正解、ダ。スグニ助ケニ来タノナラ、アノ男ア殺スツモリダッタ」


  ゴーレムから発せられる言葉は事実だった。


 ゴーレムはあえて男をいたぶり、近くに潜むアル達をおびき寄せようとした。


 しかし、全く反応がなかったため邪魔になった男を殺そうと一瞬アル達が近づいてくる気配を察知するために張り巡らせていた意識をそらしてしまった。


 その結果、突然現れたアルに片腕を切断されるという失態をおかしてしまった。

 それも仕方なかった。


 この世に瞬間的に移動する魔法など、だれもが存在しないと思っていたからだ。


「絶妙ナ、タイミング。ソレモ、殺意ガ感ジラレナイ距離カラ瞬間的ニ移動スル、未知ノ魔法。ソシテ、コノ体ヲ両断スル斬撃。…面白イ!」


 ゴーレムはそう言葉を言い放つと、アルに向かって拳を振り降ろした。


 その豪腕は右腕だけになっていても衰える事なく、拳を地面にめり込ませ辺りにいる人々に更なる恐怖を与えた。


 アルは自力で振り下ろされた拳を躱し、地面にめり込んだ岩の拳をみて改めてゴーレムの怪力に冷や汗を流していた。


 確かに、アルとレイは今まで見てきた敵の中でも希有な存在だった。


 しかし、それが自分の敗北につながるとは全く考えていなかった。


 それどころか、自分をどこまで追い込んでくるのか、という期待で胸がいっぱいであった。


「ドウシタ?許セナイノダロ、カカッテコイ。カカッテ来ナイナラ、他ノ町人ニ手ヲ出スダケダゾ」


 ゴーレムの紫色の一つ目が近くにいた4、5歳の男の子を捉えた。


「こ、この子は、この子だけはやめてぇ!」


 その視線を感じた母親が、子どもを自らの体で守るように地に膝をつけて抱きしめた。


「貴様ぁぁぁ!」


 ゴーレムからの挑発的な言葉に応えるように、アルは雄叫びをあげながら間合いを詰めた。


 相手の腕を切り落としたというのに、アルの心境に余裕は全くなかった。


 それは今のように回りの人間を使ってこちらの動きを操作されていることと、本当はあの不意打ちでゴーレムの頭部を破壊しなければならなかったという失意からきていた。


 正確にいうならばゴーレムの“目”を破壊する必要があった。


 岩のゴーレムはアルとレイが身を隠した時もそうしたように、何かを探す時は必ず目を動かして辺りの様子を伺っていた。


 その今までの行動からゴーレムを操っている術者は頭部にある紫色の目を通してこちらを見ているのは間違いなかった。


 “ヤツの視覚さえ奪えば倒せる隙が見つかるはずだ”


 アルは距離を詰めると、自分の一番得意な上段からの斬撃でゴーレムの紫色に輝く瞳を狙う。 本当は最初にゴーレムの懐に傷を作ったときと同様にリーチのある下段からの斬撃を使いたいのだが、片手で放つそれはゴーレムの体を切断する事ができない。


 アルは頭よりも高い位置で構えた刀を渾身の力を込めて振り降ろすが、その刃がゴーレムの頭部に到達する事は無かった。


「クククッ、コノ“誘イ”ニハ、ノッテシマッタナ」


 ゴーレムは、降り下ろした右腕で切り落とされた左腕を掴むと、自分の目を狙って飛びかかってくるアル目掛けて投げつけた。


 “腕を投げただと!?”


  アルは飛んできた腕を強引に刀を降り下ろして真っ二つに切り落とした。


 すると、目の前にはゴーレムの拳が迫っていた。


 “ダメだ、避けれない!”


 空中で身動きのとれないアルは、腕を目眩ましに投げてくるという行為に虚をつかれ防御をすることも、回避することもできない。


 ゴーレムの降り下ろされた拳が、アルの体をとらえる。


 それは地面をも砕く必殺の拳。


 如何に頑丈さが売りのアルと言えど、確実に死に至るだろう。


 アルが自分の死を覚悟したその時だった。


「あぶなーい!!」


 レイが突然アルの目の前に現れるとその体が光り、瞬間移動する。


「何ッ!?」


 ゴーレムの術者は再び驚く事となった。


 アルがどんなに優れた魔法使いでも、同じ人間である。


 虚をつかれ魔法を使う余裕がなくなれば、瞬間移動もできないはず。


 そうゴーレムの術者は考えていた。


 実際、今までそうやって詰め将棋のように相手を追い込んで余多の魔法使い達を葬ってきたのだ。


 アルもその一人になるはずだった


 “誤った!今での魔法はこの銀のゴーレムが使っていたのか!?”


 振り下ろされる拳の軌道をすり抜け、アルとレイはゴーレムの目の前に移動していた。


 頭を落とすには少し距離があったが、アルには十分だった。


「もらったぁ!」


 上段に構えた刀を降り下ろし、紫色に光る一つ目を両断する。


 すると、目から光がなくなりゴーレムが癇癪を起こした子供のように無作為に拳を振り回し暴れだした。


「レイ、頼む!もう一度だ!!」


「任せろッ!」


 瞬間移動したアルとレイの目の前にあるのは、隙だらけの岩でできた背中。


「うぉぉおおッ!」


 雄叫びをあげて刀を降り下ろすと、ゴーレムの頭が縦に真っ二つに割れその崩れるように膝を地に落とした。


「ぎゃっ、…倒したのか?」


 レイが着地に失敗し地面に激突すると、体に着いた砂ぼこりを払いながらアルに問いかける。


「そ、う、…みたいだな」


 アルは生死をかけた攻防を終え、その疲労から地に方膝を着き肩で息をしていた。


 辺りは誰1人話すものはなく、アルの荒れた呼吸だけが聞こえていた。


 その静寂を壊すようにドタドタと足音が聞こえくる。


 現れたのは青い騎士団の制服を着た男たち。


 彼らはアルとレイ、そして動かなくなった岩のゴーレムをあっという間にで取り囲んだ。


「この騒ぎを起こしたのは貴様らだな!」


 騎士の1人がそう言い放つとアルの胸ぐらを掴み乱暴に立たせようとする。


「やめろよ、アルはみんなを守ろうとして戦ったんだぞ!」


「な、なんだぁこのゴーレムは!」


 騎士はとっさに手のひらをかざし、近寄ってきたレイに向かって魔法を放とうとする。


「おやめなさい!前方から何かが来ます気をつけて!!」


 その声の主は15、6歳だろうか、白い制服を身につけた金髪の少年。


 その腰にはアルの見覚えのある紋章が刻まれていた。


 “…鷹と日輪の紋章!?”


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