第2話 悲しき過去
主人公の過去がわかります。
いったいこのゴーレムは何者なのか。
話ができ、料理を食べ、味もわかるとは…。
こんなヘンテコなゴーレムがこの世にいるなんて、きっと名のある魔法使いが作り出したものに違いない。
「お前、山の中に埋まっていたみたいだが何をしていたんだ」
「わからない、とても長い間、眠っていた」
そう言うとゴーレムは黙ってしまった。
どうやら自分でも今の状況に戸惑っているように思えた。
いつまでもその場にいるわけにもいかないのでその場を去る事にした。
ゴーレムは害はなさそうだが、このまま放っておくわけにもいなさそうなので、連れて行く事にした。
しばらく、ゴーレムと一緒に歩いていると山の麓に小さな村を見つけた。
ゴーレムがやたらと食料を食ったこともあり、立ち寄ることにした。
村は簡単な柵で囲われていて、外から敵が入れないように工夫がされているため、門から大声で一晩休ませて欲しいと伝えるとしばらくして村長がやってきた。
村長は柵の向こう側から私とゴーレムを品定めするように見ていたが、私が腰に下げている刀の柄を見ると目の色が変わった。
「門を開きなさい」
突然の村長の態度の変わりように村民たちは戸惑いながら門の扉を開ける。
村長はさらに近づいて剣の柄を見る。
「間違いない、“鷹”と“日輪”の紋章…あなた様は王都騎士団の…」
村長が片膝をついて頭を下げる。
「今は違う、ただの旅人だ。頭を上げて欲しい」
国に認められた騎士は必ず“鷹”の紋章が入った刀を所持している。
そしてその中で王都を守護する騎士は“日輪”の紋章が刻まれている。
この村の村長は博識なのだろう、騎士や貴族でもない限りそんなことを知っている民は少ない。
私は、村長に招かれ彼の家に行く事になった。村人達はそんな私とゴーレムを珍しそうにただただ見つめていた。
「アルは騎士なのか?騎士とはなんなのだ?」
歩いている途中、それまでおとなしくしていたゴーレムが急にしゃべりだした。
「騎士は優れた魔法使いです、ゴーレムも魔法によって作られています」
「魔法?」
戸惑うゴーレムを横に私は騎士時代の事を思い出した。
王都騎士団とは名前のとおり王が暮らす都を守る騎士のことだ。…と言っても誰でもなれるわけではない。
基本的にこの国では、魔法(超能力)が使えるものが優れてるとされている。
騎士と呼ばれるものは基本的に町の治安維持や、外的からの人民を守るのが仕事であり、それに魔法は必要不可欠であった。
そして、その中のほんの一握りのエリートしか入ることを許されない役職が王都騎士団だ。
所属する全員が国が認める魔法のスペシャリストであり、1人で数十人の敵を一度に消し飛ばせる力を持った化け物揃いであった。
国中から尊敬され敵国から畏怖される存在、それが王都騎士団である。
…ちなみに、私は魔法が全く使えない。
親がいわゆる大貴族だった。
国内に限らず、周辺諸国にまで名を轟かす名門の生まれというだけで、魔法が全く使えないのにそんな所に入ってしまったのだ。
15歳で入団して10年が経ち、私は悟った。
”このままではダメになる”と。
いや、もうダメだった。
もう周りからの言葉にはできない侮蔑の視線にいい加減耐えられなくなったのだ。
誰も自分を知らない土地に行きたい。
自分の力だけで生きていきたい。
その想いは、父や家族たちを失望させるには十分だったであろう。もしかしたら哀れまれてすらいたと思う。
人から見れば贅沢な悩みかもしれない、でも自分の背丈に合わない環境に居続けるということは回りにも自分の心にも深刻なダメージを残す。
幸い、私は魔法が使えないが肉体的にはかなり優秀らしかった。
剣術も人一倍、いや数十倍練習した。
しかし、至近距離でしか威力を発揮しない剣術だけで遠距離から命を奪える魔術に勝てるわけがなかった。
"魔術は剣より強し"というのはこの国の格言であった。
騎士を辞める前に後輩二人と応援に行った国境での隣国との小競り合い(非公式)では、相手が夜営をしている絶壁からかけ降りて奇襲をしようと案を出したら
「そういう脳筋みたいなことは一人でやってくださいよ」
とバカにされた。
私はそれが先輩にものを言う態度かと怒鳴り付け、一人で絶壁をかけ降りようとしたがビビって途中で両手を岩に引っかけゆっくり降りた。そして後輩たちがどうしてるか気になり、上を見上げると
空を飛んでいた。
正確には宙に浮いていた。そして、二人で巨大な火球を作り出し敵陣を簡単に燃やし尽くした。屈辱だった。
そして、今は行く先々で魔物や賊を討伐してその報酬で生活している。
村長の家に着くと、荷物を置かせてもらいゴーレムを井戸を借りてその水で洗った。
さすが汚れた体のまま村長の家にあがるわけにはいかなかった。
きっと気が遠くなるほどの時間を土の中で過ごしたのだろう。
ゴーレムの体はしつこくこべりついた泥や土で汚れている。その体を自分の刀を手入れするように布で磨き上げると銀色に輝いた。
驚く事にさび一つついていなかった。
一体どういう金属を使えばこのようにきれいな状態を保つ事が出来るのだろうか?
魔法が使われているのだろうか?
このゴーレムについて疑問はつきないが、あまり待たせるのも悪いので、ゴーレムの体から水気をとると村長の家に向かった。
村長の家の囲炉裏で私がもう騎士ではない事、ゴーレムを山で見つけて困っている事を伝えると、村長は”なるほど”と頷き、私達を受け入れた。
村長は、若い頃に貴族の召使いをしていたらしく、貴族や騎士について詳しく、実に話しやすかった。
村長は“失礼ですが”と前置きをした上で私に最近畑を荒らすという魔物化した大熊を倒して欲しいという依頼をしてきた。
畑を荒らす熊は全部で2頭、体は大人の男よりも大きくとても手に負えないという。
私は、ただで宿泊を許されること、食料をわけてもらう事を条件にこの依頼を受けた。
どうやら、熊を討伐したい村長と、食料がない私にとってお互い利益のある依頼であった。
私とゴーレムは依頼を達成するまで、村長の好意で彼の家に世話になることになった。
村長の家族は7人、村長夫婦とその息子夫婦、幼い孫が2人、そして1人だけ他の家族とが距離を感じる少年がいた。
どういうわけか、少年はオレの腰に下げられている刀を凝視している。
騎士がいないこの村のような辺境の土地では珍しいのだろう。
夕飯は素朴ではあるが、山菜で出来たスープは清々しい香りが、川魚の塩焼きは新鮮でかすかに感じる油の甘さが旅で疲れた心を癒してくれた。
ゴーレムはまた“うまぁぁぁぁ”と騒ぐかと思ったが、以外にも静かに食べていた。
その夜、畑を囲うように仕掛けられたヒモにつけられた鈴が獣の侵入を知らせた。
壁に背もたれて座りながら寝ていた私は横に置いてある刀を取るとなるだけ足音をたてない様に素早く畑に向かった。