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落ちこぼれ騎士と銀のゴーレム  作者: ベンソン
第2章 災いの始まり
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第11話 ネスカ その3

二週間振りの投稿になります。読んで頂いている方々、遅れてしまいすみません。

今週からはまた、毎週投稿ができる予定です。

まずレイが最初に口に入れたのはサラダだった。 “この和え物、噛みごたえがある木の実と、青菜のシャキシャキ感が合わさって食感が面白いな。そして…”


「うまいなぁ!アル、この“タレ”はなんだ?」


 レイは口に含んだ時に感じる酸味や油の少しクセのある芳醇な臭い、今まで感じた事の無い生野菜の食べ方に驚いた。


「それはランカン油に細かく砕いた岩塩、ユーレという柑橘系の果物の果汁を混ぜて上からかけてるんだ。ちなみに木の実はナットと言って体にも良いらしい」


 ナットは固い殻に包まれた木の実で、豆と似たような甘さと、少し固いがスキュッという軽い食間が癖になる。


「美味しい。ランカン油のサラダは食べたことあるけど、こんな風に木の実を入れたのはじめて!」


 姉が目を輝かせてサラダを口に運んでいる。


 今回は飛び散らないように厚手の布で包んだナットを木の棒で叩いて割り、さらにそこから取り出した身を同じように食べやすい大きさに砕いてサラダに入れた。


 少し手間だが、それで彼らの笑顔が見れるのなら安いものだ。


 “人を喜ばせる手間は惜しんではいけない”


 これはダウトがいつも言っていた言葉だ。


 こういうちょっとした工夫が、人を驚かせたり感動させることができるから料理は面白い。


 突然興奮して大きな声を出したレイに幼い姉弟が驚くかと思ったが、以外にも同じように興奮した様子で貪るように食べている。


「俺はこの肉が好きだな!」


 弟はそう言うと私が作ったハムを口いっぱいに頬張った。


 弟の旨そうに肉を頬張る姿を見て、“ 本当か!?”とすかさずハムを口にしたレイが咀嚼しながら驚いている。


「これも美味いなぁ!アル、これはどうやって作ってるんだ?どう見ても焼いてないよな。茹でたり蒸したりすると、パサつきそうなのにこれはしっとりとしていているぞ」


「これは調味料を塗り込んだあとに牛腸を使って茹でたんだ」


 ルスッガは広く食用に使われているが、胸肉には脂が少なく固くなりやすい。そのため茹でるとただでさえ少ない油と旨味が水に流れてしまうのだ。


 我が師ダウトはこの問題を腸詰め料理からヒントを得て解決した。


 腸を使う料理は大体が挽き肉を詰めるが、この料理は鶏本来の旨味と塗り込んだ調味料を逃がさないために考案された。


 まず、後で丸めやすいように胸肉をナイフて広げるように切り開いていく。


 次に味が染み込みやすいように胸肉を突き匙でまんべんなく突き刺し、細かく砕いた岩塩と胡椒と香草、そして蜂蜜を塗る。


 そして細長い円錐形になるように鶏肉を丸めて太めの糸で形が崩れないように縛った後に、用意していた牛腸に入れて両端をきつく結んで鍋で茹でた。


 ちなみに鍋に水入れたら加熱する前に肉を入れる、沸騰した後に肉が浮いてきたら釜戸の火を消してしばらく放置した後に取りだし、皿の上で冷ます。


 そうすることで余熱で肉の奥まで火が通り、しっとりとした食感になり、旨味も逃げず漬け込まなくても味が染み込むのだ。


 最後に腸を切り開らいてハムを取り出して輪切りにする。


 今回は大量にハムを作ったため、大皿からこぼれそうになるぐらいに盛り付けた。


 レイのことだから信じられない量を食べるだろうし、私も久しぶりに作ったぶん多目に食べたくなったのだ。


「旨味を逃がさないために、わざわざ腸で包んだのか」


 レイは感心したようにハムを再び噛み締める。


 ハムの肉の部分はしっとりとしていて、皮の部分は噛み締めるたびに鶏の旨味がつまった油がじわじわとしみだしてくる。


 そして胡椒が肉の味を引き締め、香草の爽やかな香りが風味を豊かにし、蜂蜜の甘味と岩塩が肉の旨味を増幅させている。


「オレは今まで美味いものをたくさん食べさせて貰ったが、これは特別だ!もっと食べて良いんだろ?」


「ああ、もちろんだ。…全部は食べるなよ 」


「わはぁった!」


 私がそう答えると、レイははしゃいで肉に噛りついた。


 特別ということは、このハムはレイにとって私が作った料理の中で一番らしい。


 とても喜ばしい事なのだが、私はまだレイが手を付けていない”ネスカ”に早く手を付けて欲しいという気持ちでいっぱいだった。


 ”肉ばっかり食べてないでネスカを食べてくれ、視界に入っているだろう!”


 確かに本気で作ったのだが、私はネスカを完成させるためにハムを作ったのであって、あくまでメインはネスカなのである。


 しかし、こういう押し付けがましい作り手の気持ちは絶対に悟られてはいけない。

 人との対話と一緒で、相手の心情を考えてあげなくてはせっかくの料理が台無しになってしまう。


 ”わかってはいる、わかってはいるのだが…早く食べて欲しい!”


 きっとこういう所がダウトをはじめ料理人であるプロと私のような素人の差なのだろう。


 私は歯がゆい気持ちで、レイ達が美味しそうにハムを食べているのを眺めていた。


 その時、突然姉が大きな声をあげた。


「美味しい!!どれもすっごく美味しいけど、私はこれが一番好き」


 サラダを食べている時以上に興奮した姉が猛烈な勢いでスプーンを動かし口に真っ赤なスープのようなものを運び、パンを頬張っている。


「すっかり肉に夢中になっていたが、これはなんだ?真っ赤な…シチュー?」


 レイと不思議そうに赤いシチューを見つめている。


 ”きたッ!!”


 私は心の中で姉に向かって”いいぞッ!”と両手で親指を上げたが、表面上はニコニコと微笑み冷静さを保っていた。


「なんかスゲー辛そうだな」


 弟は辛いものが苦手なのか、シチューに入っている唐辛子とその真っ赤な色合いを見て少しテーブルから身を引いた。


「いいから食べてみなって!ほら美味しそうな匂いがするでしょ」


 姉の言葉に弟が恐る恐る皿に鼻を近づける。


「本当だ!めちゃくちゃ美味そうな匂いだ!」


「サラダのタレと同じような匂いがするな。そして、それとは別に腹に突き刺さるような美味そうな匂いがする」


「ああ、サラダにも使ったランカン油にガリクをつかっているんだ」


 レイには食べさせたことのない食材の匂いも混ざっているというのに、匂いから食材を当ててくるとは毎度こいつには驚かされる。


「おかわりあります?」


 姉は早速一皿をたいらげてしまった。


 私が姉から皿を受け取ると、姉の様子にレイも弟も赤いシチューをスプーンですくい口に入れた。


 その瞬間、二人は同時に声をあげた。


「「うまぁぁぁああ!!」」


 私はその光景を見て人知れず“よしっ!”と拳を握りしめた。


 この料理が“ネスカ”、私の全力の料理だ。


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