第9話 ネスカ その1
アルとレイは地方都市ガナリアに到着した。
大通りの市場では多くの人々が波のように絶えず行き交い賑わっている。
人々の多くが日に焼けた肌をした生産者で、ガナリア周辺に住む達だ。
彼らとは対照的に、はるばるここまでやってきた商人達が食材など様々な物品を買い漁っている。
商人達はガナリアで商品を集めて、王都あたりにこれから運ぼうとしているのだろう。
両者はお互いが納得する値段が出るまで、声を張り上げ続けている。
自分の希望していた値がつかなかったのか、悔しそうに渋い顔をしている者もいれば、その逆に豪快に笑う者もいる。
私とレイはそんな人が集まって作る巨大な波に呆気にとられていた。
「賑やかな町だなぁ」
レイは初めて見る活気溢れる光景に声を弾ませてはしゃぎはじめた。
ここではレイの失われた記憶を探すため、図書館に行くという目的があった。
早速図書館に行こうとしたのだが、レイがだたをこね始めた。
「まずは飯だろぉ、ガナリアにはうまい物がいっぱいあるって言ってたじゃないか!」
あれほど自分の過去が知りたかったというに、なんと欲に弱いやつなんだろう。
私は急に体にズンッと疲労が溜まっていくのを感じた。
「あのなぁ、図書館に来るためにはるばるここまで来たんだぞ。それに飯ならさっき食っただろうが!」
つい2時間ほど前、私達は昼食をとったばかりだった。
それも“ガナリアに着いたらすぐに図書館に行けるよう今のうちに飯にしよう。なぁ、なぁ~”とレイにせかされたからだった。
「いや、あれはあれだろ」
レイがさも当たり前のように話してきた。
こいつと話しているとイライラが止まらない時がある、それが一瞬で爆発してしまった。
「お前のために来たんだろうが!言うことを聞け!」
私が一喝すると、レイは小さい声で「わかったよぉ~ごめんよぉ」と言って急にしょんぼりしてしまった。
「わ、分かればいいんだ。ほら、行くぞ」
私が足早に歩きだすと、レイが下を見ながらトボトボとついてくる。
その親に怒られた子供見たいな動きを見ていると怒りが失せ、むしろ罪悪感すら出てきた。
「後でちゃんと食わせてやるから、そんなに落ち込むなよ」
「…うん」
レイはそう言うと、私の横に来ると歩幅を合わせて歩き出した。
なんだか、最近すっかりこいつのペースだな。
私はそう思いつつ図書館へと向かった。
ガナリアは国内第2の都市と言われるだけあって図書館がとにかく大きかった。
図書館は小さな村が丸々入ってしまうんじゃないかと思うような広い敷地の中にある石造りの三階建ての建物だった。
「でっかいなぁ~!」
初めて見る巨大な建物にレイは思わず大きな声を出した。
こういった大きな図書館は学者や高位の者しか立ち入る事が出来ないのだが、私は刀の柄に刻まれた王都騎士の紋章を見せる事ですんなり入る事が出来た。
近くで巨大な門を見上げると2人とも期待に胸を膨らませて入り口を通った。
図書館の中は薄暗く埃が充満していたが、そんなことが気にならないほど本が空間を埋め尽くしていた。
「アル、これ全部本なのか?」
「そう、…だな」
噂には聞いていたが、ここまでとは思わなかった。
結局私たちはどこから手を付けて良いかわからず、呆然と眺めてるうちに閉館時間を迎えてしまった。
勿論、係の者にゴーレム関係の本を尋ねたて読んだのだがそれだけでも相当な量の本が存在した。
しかも、ここにある本のほとんどが古語や専門用語があり、字も読めず知識もないレイにわかるように説明するのはとにかく骨が折れた。
外はまだ日があるのだが、ここの図書館は貴重な文献もあるため解放している時間が短い、何日か通わないと必要な情報は手に入らないだろう。
図書館から出た私たちは、当分の間活動拠点となる宿を探す事にした
宿は大通りの外れにあるいかにも庶民向けの、複数で泊まる相部屋に決まった。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ」
しかし、私は腹の底から深い溜め息を振り絞るように吐き出し、怒りをなんとか沈めようとしていた。
「アルぅ、もうオレのことはいいから機嫌直してくれよぉ」
本当は大通りにある宿で二人部屋に泊まるはずだったのだが、部屋をとる際にゴーレムは外に置けと言われたため頭にきてやめたのだった。
たしかに、ゴーレムとは普段兵器や、身の回りの世話をさせる道具でしかないため、安い宿では馬のような扱いをされる。
しかし、きちんと自我を持っているうえに私の恩人であるレイに対して“ゴーレムは馬小屋のそばにいろ”、などとふざけたことを言うものだから大声をだしてしまった。
「さっきの宿のおっさん怒鳴られてメチャクチャびびってたよ」
「当たり前だろ、あんなこと言われてなんとも思わないのか?」
私はさっきの宿屋の男の顔を思いだし、再び怒りがこみ上げてきた。
「んー、確かに傷ついたけど、俺ってどう見ても人には見えないからなぁ」
レイは冷静に、自分の銀色に輝くいかにも頑丈そうな体を見回しながら言った。
「図書館でゴーレムについてアルに教えてもらったけど、やっぱり自分は人間とは違うんだと思ったよ」
確かにそのとおりなのだが、腑に落ちなかった。
「確かにそうかもな。でもな、相棒への無礼を許せるほど私は寛大な心を持った人間ではない」
私がそう言うと、レイは少し黙って後ろを振り向いた。
「ありがとな」
背中越しにレイが言った言葉を聞いて、私は何故だか急に懐かしい気持ちになった。
少年時代の頃、兄弟や友人達と一緒にいた時に感じる気持ちと同じだった。
こんな気持ちにさせられるなんてレイは、本当におかしな奴だ。
そう言えば、1日に何度も怒るなんて何年振りだろう。
「アル」
「なんだ?」
私が背中を見ていると突然振返りレイが呼びかけてきた。
「腹が減った」
レイは、赤い目を点滅させながら話しかけてきた。
これが本当に腹が減っている時や弱っている時のサインである。
「じゃあどこかに食いにいくか」
私の提案にレイは首を横に振った。
「アルはスカーレットと一緒に戦った時の礼をまだしてくれてないだろ」
レイは腕を組んで威張るように言った。
飯の話なんですが、食事は「その2」からになります。
2014.10.2
タイトル「思い出の料理」→「ネスカ」




