第8話 同じ匂い その2
ギャロは甲冑の男が右足を後から前に体重を出す下半身の動きと、水平に武器を前に出そうとする上半身の動きを見て突きだと判断した。
予想が当たり、突きを横にそれてかわすと、魔法を放とう指先を甲冑の男に向ける。
相手の武器はその背丈ほどもある長棒、リーチがあるぶん一度攻撃をすれば動作が遅れて魔法を避ける余裕がないはずだ。
甲冑を着ているとはいえこれだけ魔力を練った攻撃を食らっては生き残れまい。
「もらった!吹き飛べぇ、化け物ぉぉ!!」
甲冑の男は仮面の中から凍るような冷たい視線でギャロを見ると、武器を手にしている腕に力を込め呟いた。
「去ね」
棒だと思っていたものは先端がギャロにかわされ、横にそれると鮮やかに赤く輝く巨大な刃が現れ大鎌になった。
甲冑を着た男は容赦なく両手で大鎌を掴むと真横に向かって振り抜く。大鎌は赤い円を宙に描きその刃がギャロの体を通過する。
「え?」
その瞬間、ギャロは自分の体が赤い円の中に入っていることに気づいた。
“なんで?”
ギャロの指から魔法は放たれることはなく体が傾いた。
正確には体が傾いたように見えた。
それが、彼が最後に見た光景だった。ギャロは声を出す間もなく、首を体から落とした。
首が地面についたとき、行き場を失った指先の魔法が発動した。
爆発は轟音とともにギャロの体を粉々にし、近くの木々を吹き飛ばした。
辺りが真っ赤な光で照らされ始めた時、甲冑の男はギャロの爆発に巻き込まれないよう瞬時に移動していた。
「ふん、“同族”だと思うと虫酸がはしる」
そう呟くと、甲冑の男はブルを探してあたりを見回すがその姿が無い。
「一人逃がしたか」
突然後ろからかけられた言葉に反応し、振り替えると声の主はスカーレットであった。
そのまわりには三人の妖魔が跪いている。
「申し訳ありません。スカーレット様」
甲冑の男は大鎌を消し、スカーレットに向かって跪く。
「よい。今回はこの者達も、私もお前に助けられた」
「私が王都へ同行さえしていればこのような事態には至りませんでした。騎士としてこの罰どんなものでもお受け致します」
男は冷たい目付きは変わらないが、先程の戦闘とは打って変わり深々と頭を下げスカーレットへの忠誠を全身で現した。
「もともとお主は同行しない約束であったろう。感謝こそするが、罰するなどできるわけがないであろう。…先の戦いぶり見事であった、義理とはいえお前の様な弟がいて私は誇らしい」
スカーレットは困ったように男を労いの言葉をかけた。
「…はっ、ありがたき幸せ」
甲冑の男がさらに深く頭を下げる。
「ところで、先ほどお前に“似た匂い”がする男にあったぞ」
「匂い、ですか」
甲冑の男は、スカーレットに気づかれないように嗅覚に神経を集中させる。
「私に…」
甲冑の男はスカーレットに微かに残る懐かしい匂いに目を細めた。
「その者は、何か無礼を?」
「いや、命を助けてもらった。人間にも色んな者がいるのだな」
スカーレットは甲冑の男を見ていた。
「確かに、様々な考えを持つ者がいるのでしょうね。そういう人間なら、ぜひ一度会って主を救って頂いた礼を言いたいです」
妖魔を狩る同族へ深い憎しみを持つこの男が、過去に何があったのか誰も知らない。
“同じ匂い”という単語を聞いて少しでもその冷たい目に変化はあるのか、スカーレットは義弟の心情を探ろうとした。
スカーレットは甲冑の男の態度を見てアルと何らかの関係があると確信し、運命を感じた。
甲冑の男は何かを思い出しているのか、少しの間を瞳を閉じて答えた。
「そうだな、もしかしたらまた会う事もあるのだろう。さあ立て、早く帰って王へ今回の事について報告をせねばならない」
「ハッ」
甲冑の男が立ち上がるとスカーレットと従者達は影になりその場から消えた。
“あの匂いから察するにアレキサンダーか…いや、そんなわけはない。とすると…アルか”
甲冑の男はニヤリと口元を緩めると影になりその場から立ち去った。
いろいろ出てきてない人の名前とか、書かれてない事柄とか多く出てくるのですがちゃんと回収する予定です(汗)
次回からアルとレイの話に戻ります。




