第1話 銀のゴーレム
子どもの頃に好きだったTVゲームやカードゲームの記憶をごちゃ混ぜにして考えてます。ちょこちょこ更新していく予定です。
とても、とても深い闇。気が遠くなるほど遠くから無数の小さな光が見える。
この暗闇の中でその光は私の心を和ませる唯一のものだった。私は睡眠と覚醒を繰り返すとぎれとぎれの意識をつなぎ合わせ、いつになったらこの場所から抜け出せるのかただひたすら考えていた。
自分がいったい何者なのか、何をするために生まれてきたのか。私はまだ自分自身を知らない。
空を覆い隠してしまうほど密に生い茂った木々の間から神々しい光がこぼれ落ちてくる。 そこを、周りを見回しながら歩く一つの影があった。
彼の名はアルフレッド・ロイド、彼を慕う物からはアルと呼ばれている。
男の平均身長より頭一つ大きく、服の上からでも体中が肥大した筋肉によって守られていることがわかる黒髪の青年である。
早朝の森の中と言うのは実に神秘的だ。胸いっぱいに深呼吸をすると、あたりに立ちこめる霧が体の中に入ってきて、体を清めてくれるように感じられる。
ふと立ち止まると、急に腹の音が鳴った。
騎士団にいた頃はたらふく料理長に精のつく物を出してもらっていたが、王都を離れて1年、自分がいかに恵まれていたかは十分身にしみてわかったつもりである。
早いとこ、食材を集めて朝食にしよう。この山には豊富な山菜とそれを食べる事でまるまると肥えて成長する動物達がいる。
「見つけた」
足を止めると、背の高い木の根元にポルチがポツリポツリと生えているのが見える。横取りする者はいないと知っているのに気持ちが焦り、手早く取ってしまう。
ポルチとは高級料理に使われる香り豊かなキノコの名前だ。
そこらじゅうに生えるわけではなく、限られた場所に少数しか出来ないため価値が高い。そしてポルチはアルの好物の一つであった。
わかってはいるのだが、好物を目の前にすると私は自分が止められなくなってしまう。
気をつけねばと思うのだが…。
「うわッ」
木のそばには背の高い断崖があり山頂付近まで絶壁がそびえたつ。その側面が急に崩れ出したのだ。
崩れた土砂や岩は“ドガガガガガ”と大きな音を立て木々を飲み込んだ。
私は危うく土砂に生き埋めになるところだったが、少し遠くにあるポルチを急いで取ろうとしたため運よく下敷きにならずにすんだ。
足元にあるポルチを摘むと”ありがとうな”と命の恩人に感謝した。
それにしてもずいぶん壁が崩れたみたいだ、もしかしたらこの下に生き埋めになったポルチがいるかもしれない。
そんなことを考えていると、土砂の下からもぞもぞと動くものをみつける。
人かもしれない、急いでそこに駆けつけると弱弱しく地面が動いている。 必死に土をかきだしていくと鉄のような塊にぶつかった。
「な、なんだこれは」
”こいつ、動くぞ”
鉄の塊がもぞもぞと動いている。 小さな鉄の箱がデコボコさらに大きな塊についていて、じたばたと動いている。
まったく妙なものだが動いている以上生き物なのかもしれない、好奇心がつよく働き、さらに周りの土を掘っていく。
こんな時、魔法が使えたらと本当に思う。しかし、私には人より体が丈夫であり力もある。なんとか、この不思議な物体の正体を暴いてやる。
しばらく地面を掘っていると動いていた二つの塊に並行してさらに小さな塊が二つ動いている。
もしやと思い土を払ってやるとそれは手のように思われる。片方の手を両手でつかむと必死に持ち上げてみる。すると徐々に埋まっていた残りの部分がでてくる。
それはまるで簡単な人形のように人をみたてて作った顔があった。
目は赤く光る宝石が二つ付けられ、口のようなくぼみもしっかりついている。手も、短いが足もありそれが先ほどまでバタバタと動いていたのだ。
いったいどれほどの時間、土に入っていたのだろうか。
土や泥が染みついた古い汚れが体中にこべりついている。
少なくとも人間ではない、そして見るからに自然界にあるものでもない、人工物で人に似せられて動くものと言ったら…。
「ご、ゴーレム…なのか」
思わず思った事を口に出してしまった。
人間を模して魔法使いが動かす魔法兵器をゴーレムと呼んでいる。
さすがにこれほど変わったゴーレムは初めて見た。普通は土や岩などを使うのだがまさか全身金属でできたゴーレムがいるとは…。
しかも見たところかなりの時間をこの山に埋まっていたと思われる。所々が粘土まみれ赤茶色になっている。
そんな時間、魔力を持続できるゴーレムがいるとは信じられない。ゴーレムはかなり魔力を消費する人工物と言われている。
「おい、お前はいったい何者なんだ。お前の主人はどうした?いつからこの山に埋まっていた?」
「…私…ハ…任務ヲ…遂行」
ゴーレムは話すことができない。自我を持っているはずがないただの操り人形だからだ。
しかし、私がとっさにこのゴーレムに問いかけてしまった。
その後しばらくしてゴーレムが無機質な声を出したので私はひどく驚いた。
「ウ、ウ…」
「お前、喋れるのか?」
「チカラ、デナイ。何カ食べ物」
今、こいつはなんと言った?
食べ物?
ゴーレムが食べ物を欲するなんてそれこそ聞いたことがない。
私は信じられない出来事に起きているにもかかわらず、拍子抜けた発言に自然と警戒心をといた。
本当に危険なやつが奪い取ろうとせずいきなり食べ物を要求するだろうか。いくらゴーレムだろうと飢えをうったえているのなら助けてやりたい。
たき火をはじめると、近くの川から汲んできた水と干し肉、そしてそこらへんに生えていた山菜をいれてスープを作った。そして木の枝に刺したポルチを持っていた調味料を使い味付けをするとゴーレムに渡した。
「持てるか」
「ハイ」
そういうと器用に鉄でできた指を使って串焼きを食べていく。 私も食べる。正直私も腹が減っているのだ。
「オオ、コレハ…」
感嘆の声をあげるゴーレムに私は驚いた。
「うまぁぁぁぁ」
「お前、味も分かるのか」
突如、先ほどの今にも倒れそうな雰囲気から一転した流暢なべしゃりとテンションの高さにドン引きした。
アルはこのゴーレムとの出会いが自分の人生を大きく変えてしまうものだとは知る由もなかった。
2014.8.12 加筆修正
大切な部分が抜けていました。Wordから貼付けているのですが、まだまだ慣れないです。