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【紙飛行機・努力・ポニーテール】

 

【紙飛行機】

「……んあ?」

 裏庭の木の下で昼寝をしていたケルトーは、ふと何かが目の前を掠めていった気配がした気がして目を覚ました。ぼんやりと視線を動かせば、芝生の上に白い三角形の何かが落ちている。

「……何だこれ?」

「あ! ご、ごめんなさい、ケルトーさん……!」

「ん? ああ……お前のか、これ」

 傍に行って拾い上げると同時にラパンがやって来て、ケルトーの手に握られた三角形を見ると申し訳なさそうに頭を下げた。

「何だこれ?」

「『かみひこーき』って言うらしいです。本に書いてあったので作ってみたんですけど……」

「へえ、どうやって使うんだ?」

「えっと、前に向かって投げるんです」

「……こうか?」

 説明するラパンの動きを真似て、ケルトーは手に持っていた三角形を斜め上へと投げてみる。すると三角形はふわりと浮き上がって宙を泳いで行った。

「お、すげえ。魔法じゃないんだよな?」

「はい。紙で出来てます」

 そんな会話を交わしている間に三角形は上手く風に乗ったらしく、空を気持ちよさそうに泳ぎ続けている。それを二人は日溜まりの中でのんびりと眺めたのだった。



【努力】

「うう……」

「あ、此処のこれ、言葉の使い方が違うよ」

「あうっ……」

 クレの指摘にラパンは止めを刺されたように呻くと、テーブル代わりの分厚い大きな本の表紙にへちゃりと突っ伏してしまった。

「やっぱりまだ少し難しいかな。簡単なのにする?」

 ここ最近、今まで比較的順調に進んできた勉強に躓くようになってきたラパンを気遣い、クレはそんな提案をしてみる。しかしラパンはむくりと起きあがると首を振った。

「いえ……頑張ります」

 少し眉間に皺を寄せて、気合いを入れるようにむんと頷くと再び勉強に取りかかるラパン。そんな少女にクレはぱちくりと目を瞬かせてから、ほんの少しだけ口角を上げた。

「……そう、じゃあ頑張ろうか。分からないところは何度も教えてあげるから」

「はい、ありがとうございます」

 ーーこうして今日も屋敷の地下書庫では、沢山の本に埋もれながら少女が勉学に励んでいるのだった。



【ポニーテール】

(今日は少し暑いな……)

 顔の輪郭に沿って滲む汗に気付いたケルトーはシャツの襟刳りに指を掛ける。見上げた青空に照っている太陽は気のせいか普段よりも眩しい気がした。こんな陽気ならば今日は涼しげな泉の方にでも足を運ぼうか等と考えていると、

「ケルトーさん」

「あ? ……おう、何だ?」

 不意に掛けられた幼い声に反射的に振り向いて、いつも通りに返事をする筈だったケルトーの言葉を一瞬詰まらせた理由は、背後から自分を呼んだラパンの髪型にあった。普段は二つの束になって左右に分かれている銀髪が、今日は上の方で綺麗に一つに結い上げられていたのだ。いつもと違う髪型をしたラパンはその銀髪の尾をを揺らして、ケルトーに持っていた物を微笑みと共に差し出した。

「パティさんが『今日は暑いから』って、これ、くれました。良かったらどうぞ」

「お、木苺か」

 ラパンが差し出してきた瓶の中に詰められていたのは、薄く霜を被った木苺だった。ケルトーが其れに指を伸ばせばひんやりとした冷気が触れる。淡い青色に光っている瓶はパティに魔法を掛けられていて、この程良い冷たさを保っているようだった。摘んだ木苺を口に放り込んで噛めば、しゃりっとした食感と共に甘酸っぱさが広がって、一瞬だけだが暑さを忘れることが出来た。そうしてケルトーは瓶から木苺をもう一つ摘みながら、一緒になって木苺を頬張っているラパンに問いかけてみる事にした。

「その髪、どうしたんだ?」

「え? ……あ、これはさっき木苺を貰った時、パティさんが『こっちの方が涼しげじゃないか?』って言って、やってくれたんです」

「あー……」

 その光景がすんなりと想像する事が出来たケルトーは何とも言えないという様子で声を漏らす。そして木苺を食べ続けながら、ふとラパンの頭をじーっと見下ろし始めた。

「…………」

「……? あの、ケルトーさ、わわっ!?」

 強い視線に耐えきれなかったラパンが顔を上げて尋ねようとした時、ケルトーは一つに束ねられている銀髪を、まるで根菜を畑から収穫するかのようにわしっと掴み上げた。その所為でラパンの顔は自ずと下を向いてしまう。

「ど、どうかしまし、っ」

「……気になる」

「え?」

「いつもより揺れるのが、何か気になって仕方ねえ」

 そう言ったケルトーの顔は至って真面目だったので、ラパンはどう返したものかと口を噤む。二束から一束にした所為で量が増え、存在感も揺れも増したのであろう銀の髪。それを獲物を狩ったかの如く掴み上げる狼男。そんな狼男に捕まった兎は大人しくしながらも思った。

(……猫じゃらしならぬ、狼じゃらし、かな?)

 目線だけで何とか見上げたケルトーは掴んだままの銀髪の束をもふもふと揺らしている。その顔は何処となく楽しそうに見えて、ラパンはそれを暫し眺めた後によしと頷いた。

(今度から暑い日は、ポニーテールにしてもらおう……)



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