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【雷・金色・風】

【雷】

 真っ黒な空が一瞬だけ明るくなり、亀裂のような強い光が下界に落ちていく。そして次の瞬間には大岩が転がるような重い音が響き渡った。

「……! ケルトーさん、今、雷が落ちました!」

 窓に両手を付けて遠くの空を眺めていたラパンはその光景を目撃すると、珍しく少し興奮気味に振り返る。そんなラパンの様子に、ロッキングチェアに腰掛けて酒瓶を呷っていたケルトーは意外そうにしながらも笑う。

「お前は雷とか怖くないんだな?」

「はい、音は少しびっくりしますけど……光ったりするのは凄いし、綺麗だと思います」

 見た目の儚さからは想像がつきにくい感想を、平然とした顔で答えるラパン。その不釣り合いさが可笑しくてケルトーが笑っていると、部屋のドアがばんっと勢い良く開かれた。何事かと二人が其方に目を向ければ、其処には明らかに怒っている様子のパティが仁王立ちしていた。

「ケルトー! お前はまた勝手に酒を持ち出して! それは明日料理の隠し味に使おうと思っていたんだぞ!!」

「んなこと言われたって、もう半分飲んじまったぞ」

「飲んじまったぞ、じゃない! 何回言えば分かるんだ! あの棚にある酒は勝手に漁るなって、いつもいつも言ってるだろ!?」

 腹の底から怒鳴りながら、床を踏み抜かんばかりの大きな足音を鳴らしてケルトーに詰め寄っていくパティ。そのあまりの剣幕に普段は飄々としているケルトーですら、若干顔をひきつらせている。それを傍らで見ていたラパンは遠くで雷が落ちる音を聞きながら思った。

(……パティさんの雷の方が、ずっと怖いんだな)



【金色】

 温室の中は当然ながらいつもぽかぽかと温かい。ラパンは植木鉢の中に生えた雑草を摘みながら、ふと傍で花達に水をやっているサーヌの方を見た。 

(サーヌさんの髪、素敵だな)

 日差しを浴びてきらきらと輝くサーヌの金髪は眩し過ぎることも無く、寧ろ眺める程に心が癒されていくような優しい煌めきを放っている。ラパンがぼんやりと見つめていると、視線に気付いたサーヌが顔を上げて小首を傾げた。

「どうしたの? ラパンちゃん」

「あ、すみません……。サーヌさんの髪が、素敵だなって思って、つい……」

「えっ?」

 突然褒められたサーヌはきょとんと目を丸くし、思わず自分の髪を見る。そして少し照れ臭そうにはにかんだ。

「あはは、そんな事を言われたの初めてだよ」

「そうなんですか? そんなに綺麗なのに」

 心底意外そうにするラパン。くすくすと笑いながらサーヌはその小さな頭を優しく撫でる。

「ふふ、有り難う。でも僕はラパンちゃんの髪の方が冬の月みたいにきらきらしてて綺麗だと思うよ」

 そう言ってサーヌは微笑む。その日溜まりのような表情を見たラパンは、

「……じゃあ、きっとサーヌさんの髪は、春の優しいお日様の金色ですね」

 自分の胸がほんわかと温かくなるのを感じながら、自然と同じように頬を緩ませたのだった。



【風】

「うーん……凄い風だね」

「嵐でも来るんでしょうか……?」

「ワイバーンの群でも通るんじゃねえの?」

「やめろ、怖いだろ!?」

 強風ががたがたと揺らす暗い窓の外を、夕食を終えた四人は会話を交わしながら眺める。日中の青空が嘘だったかのように荒れている今の屋外はとてもじゃないが出られそうにない。

「庭園の方とかは大丈夫なんですか?」

「うん、そこら辺はパティが魔法で守ってくれてるよ」

「屋敷全部は流石に守れないけどな。庭園と温室だけに絞れば花一輪だって飛ばさせやしないぞ!」

 えへんと豊満な胸を張るパティ。その隣で頬杖をついて窓の外を眺めていたケルトーがふと呟いた。

「……花どころか、ラパンくらいは飛びそうだよな。この風の強さなら」

「「!?」」

 唐突かつ予想外すぎる発言にパティとサーヌは思わず同時にケルトーを凝視する。が、当の本人は平然とした顔のままで言葉を続けた。

「傘持たせたら行けそうだよな」

「いやいや! 行けそうとかじゃなくて!」

「帰って来れないだろ! なあ、ラパンちゃ……」

 そこまで言ったパティはラパンに同意を求めようとして、視界に飛び込んできた光景に言葉を詰まらせる。何故ならそこには、

「……っ」

 若干の戸惑いと困惑が混ざりながらも、真剣な表情で窓の外を見つめているラパンがいたのだった。

「か、傘貸してくださ……」

「駄目だ! 絶対に駄目だからな!?」



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