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【宝石・りんご・布】

 

【宝石】

 ラパンの身嗜みを整えるのはパティの朝の日課の一つである。今日もラパンを鏡台の前に座らせて髪型を整えてやっていたパティは、ふと思いついたように口を開いた。

「ラパンちゃん、たまにはリボン以外にもアクセサリーを付けてみるか?」

「え……」

「ネックレスとかイヤリングとか! ほら、きらきらしてて綺麗だろう?」

 そう言ってパティが鏡台の引き出しを開けると、そこには美しい宝石が煌めく数々の装飾品が入っていた。それをパティは若干興奮気味に鏡台に広げてみせるが、今まで見たことも無いその煌びやかさにラパンは慌てた様子で首を振る。

「で、でも、そんな宝石が付いたのは、私には……」

 そこで言葉を遮るようにドアが叩かれる。パティが返事をすればケルトーが片手鍋を持ったまま無遠慮に部屋に入ってきた。

「おいパティ、胡椒が無い……って、何してんだ?」

「あ、ケルトー。いや、ラパンちゃんにアクセサリーをだな……」

「……あー、やめとけ。似合わねえ」

「「え?」」

 ケルトーがじっとラパンを見てから放った一言に二人が固まる。しかしケルトーはそれを気にする事もなくあっさりと続けた。

「そいつ自体が髪やら目やら充分きらきらしてんだから、宝石の類なんか付けたら派手だろうがよ。今のままで充分だ」

「…………」

「つーかパティ、胡椒の買い置き何処だよ?」

「あ、ああ……棚の右奥にあるぞ」

「あー……彼処か。分かった」

 用事が済んだケルトーはさっさと部屋を出ていった。自分の背後で恥ずかしそうに頬を桃色に染めている少女と、ぽかんと口を半開きにしている魔女には気付かない。

「……ケルトーって実は気障なのか?」

  

【りんご】

 屋敷の庭園には花の他にも、薬草や果実の生る木が植わっている。暇潰しに散歩をしていたケルトーは一本の木の下に立って上を見上げている小さな姿を見つけた。

「何してんだ?」

「ケルトーさん、あの、あれを見つけて……」

 ラパンが指した先に見えたのは赤くて丸い果実。太陽の光を浴びて輝くそれは別に珍しい物でも無く、ケルトーは怪訝そうにはてと首を傾げた。 

「ただの林檎じゃねえか。食いたいのか?」

「あ、いえ、そうじゃなくて」

 ふるふると首を振るラパンにケルトーはますます首を傾げたくなる。と、ラパンは林檎を見上げたまま何処か楽しそうに微笑んだ。

「お日様の光を受けて綺麗だなって思って、見てました」

「…………」

「……ケルトーさん?」

 返事が無い事を不安に思ったのか少し眉を下げて自分を呼ぶラパン。そんな少女の頭をケルトーは黙ってわしっと一回撫で回してから、それは小さく笑った。

「やっぱお前、面白いな」

「……?」

 

【布】

「ラパンちゃん、ちょっと良いかな?」

 廊下を歩いていたラパンは、不意に背後から掛けられた声に足を止めて振り向いた。自室のドアから顔を覗かせたパティがちょいちょいと手招きをしている。

「はい、何ですか?」

「ラパンちゃんの新しいドレスを作ろうと思ったんだけどな、布の色をどうしようかと思って。ラパンちゃんは何色の布がいい?」

 とててっと近付いてきたラパンに、満面の笑顔でそう話すパティの片腕には大量の布の巻物が抱え込まれていた。赤に黄色に桃色と、溢れんばかりの鮮やかな色がラパンの目を刺激する。

「ええと……」

 いつも綺麗な服を作ってもらってばかりで申し訳ない気もしたが、パティ本人が楽しそうなのでラパンも素直に布を選び始める。と、ある一色を見つけると一瞬だけ頬を綻ばせて、少し躊躇いながらもその布を指さした。

「……この布が良いです」

「え? これでいいのか?」

「はい、お願いします」

「うーん……分かった! 少し地味な気がするけど、それを可愛く仕上げるのもまた楽しいしな!」

 完成を楽しみにしていてくれ、と意気込みながらパティは自室へと戻っていく。それを微笑んで見送ったラパンは少し浮いた足取りで廊下を歩いていった。

 彼の強い瞳に似た、深い灰色の布で出来たドレスを楽しみに思いながら。



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