No.5 昔の知人
「それにしても、本当に重い・・・!!
何であんな小さい球体が、こんなに重いんだ・・・?」
自転車で来なくて良かったと、心底思った。
悪戦苦闘しながら、家への帰り道を歩いて、ようやく家にたどり着くことができた。
つ、つかれた・・・。
思わずへたりこみそうになったが、家の前の人影を見て、背筋を伸ばした。
「よぉ、元気か少年。」
玄関の前で煙草をふかしながら、こちらを見てにやりと笑った女。
彼女こそ、【伽狭陽】、その人だった。
スーツの上に、赤いコートを羽織った女。
身長は高く、170㎝以上はあるだろう。
長い髪を巻き、颯爽とたたずむ風情は、まさにキャリアウーマン。
オフィス街はこの女王の独壇場になるだろう。
しかし、ここは少し寂れた住宅街。
まったく彼女とは違和感あふれる組み合わせになっている。
「・・・お久しぶりです。陽さん。」
「まったくだ。」
ククッと笑うと、彼女はこちらへ歩いてきた。
「いきなり頼んで悪かったな。重たかったろ、ソレ」
くい、とあごでさしたのは、俺の持っていたトランク。
「ええ、まぁ・・・。」
さすがに、本人の許可の前に開けてしまいました、なんて言えないが、
あの球体は何なのか知りたい俺は、無知のふりをしてさりげなく聞いてみた。
「これ、中身なんですか?」
「それか?そうだなぁ、その前に、少し家に上がらせてもらえるか?」
「いいですよ。」
彼女は俺からトランクを受け取ると、
あれだけ苦労して持ってきたトランクを、ひょいと持ち上げて歩き出した。
・・・あの人の腕力は、どうなっているんだろう。
もしかしたら、人間じゃないのかも。