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Grand Duo * グラン・デュオ ~シューベルトは初恋花嫁を諦めない~  作者: ささゆき
prologue

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2/18

シューベルトの妻 + 2 +




 最悪なグラン・デュオ。自分だけで弾くならまだごまかしがきく。だけど、これは四手のためのピアノソナタ。要するに連弾。

 パートナーに選ばれた柊(ひいらぎ)が練習初日で絶望にも似た表情を見せたのは、当然のことだと思った。それだけわたしのパートは乱れていた。


 グラン・デュオ。それは三十一歳の若さでこの世を去ったシューベルトが晩年に作曲した連弾用のソナタ。シューベルトの連弾曲はコンクールの課題曲に使われることも多い。だからピアノを学ぶわたしたちの練習曲としては定番なのに……なんで、こんなに弾けてないの?

 今日、初めて弾いたわけでもないのに。いつもなら楽々弾きこなせるのに。

 愕然として、鍵盤に目線を落とすわたし。無言で、そんなわたしを見つめていた彼は、溜め息混じりに口を開く。


「鏑木、音楽なめてねぇか?」

「……自分でもそう思う」


 柊は普段から要点しか言わないピアノ科のクラスメイト。だから、その一言は彼のまがいもない本音だろう。音楽をなめている、確かにそうかもしれない。今まで誰にも言われたことのなかった……だけどいつか言われて当然だと思った言葉。肩まで伸ばしっぱなしの黒髪で、わたしは彼に傷ついた顔を見られないようそっと俯く。


「なに自信喪失してんだよ」

「……だって」


 だって? 何を言おうとしているんだろう。反論なんかできるわけがないのに。負け惜しみのように、口にすべき言葉を探す。だけど見つからないから結局黙ったまんま。

 わたしの反応は、彼を怒らせるには充分だったと思う。見ていてイライラしても仕方ないくらいに落ち込んでいたから。でも、彼は怒らなかった。

 その代わり。


「お前、放課後ヒマか?」

「ヒマなわけないじゃん。レッスンが」

「んなもん仮病でも使ってサボれ」

「……はぁっ?」


 何を言い出すんだ突然。


「腐った音出されるとこっちが迷惑なんだよ。一人で沈んでるのは勝手だけど、俺としてはとっとと浮上してもらいたいわけ。だから」


 そして、わたしの承諾なしに決め付ける。


「夕方五時に柿の木坂駅。見せたいものがある。来い」


 有無を言わせない口調で、柊はわたしの顔をまじまじと見つめ、命令した。

 わたしは、思わず頷いていた……観念するしかないという諦めにも似た気持ちで。



   * * *



 スカートを短くしろ、と、言われる。


「なんで」

「なめられるから」


 夕方五時。制服のまま指定された場所へ向かったわたしを見て、わたし服姿の柊が一言。


「本当なら制服じゃない方がいいんだけど」

「一体どこ連れて行くの」


 来いと言われてのこのこ来てしまったわたしもいけないのだろう。が、柊は何も言わない。

 仕方ないので彼に言われたとおりに、スカートの丈を短くする。膝下だった裾が、膝上に。生足を抜ける晩秋の風が冷たい。

 顔をあげると、柊の瞳とかち合う。バツが悪そうに彼が顔を背けたので、わたしは首を傾げる。


「……何見てるの」

「いや。それより鏑木、人目を気にしろ」

「どうして」


 わたしの問いに、柊は応えない。そのかわり、両耳を赤くした。それから、わたしにだけ聞かせようとしてぼそりと呟いた。冗談みたいな口説き文句を。



「俺以外の男に見せたくない」

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