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ドラゴンマスクより「僕」  作者: 美憂


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2/18

僕にできること

サッカーって、やってなきゃ見えない景色ってあると思う。

かあちゃんが、その景色が見たくて始めたのかどうかは、わからない。


でも、僕も、サッカーが好きだ。

 だから、かあちゃんが今、どこでつまずいているかは、だいたい分かる。

頭では分かってるのにできない。知識があるからこそ、「何でだ!」って悔しくなる。ボールを止める時に、足の向きが逆になったり、蹴る前に、顔が下がって足元を見たり。受ける前に、次を決めていない。決めてても、あっという間に状況が変わる。全部、やりたいことがある人のミスだ。やりたいことがあるから、急ぐ。急ぐから、ずれる。それを、どうやって直すか、僕は知っている。


でも、僕が言うことじゃない。

言ったら、何かが終わる気がした。

理由はわからないけど、言わないのが正しい気がした。

代わりに、律に頼んだ。


「さりげなくでいいからさ」と律に言うと

「何を?」って聞かれて、少し考えた。

なんか、生意気な気がして。


「顔、上げさせて」


それだけで、だいたい変わる。あとは、自分で気づくと思った。

「難しい注文だな」律は笑った。

でも、断らなかった。

「任せろ」とも言わなかった。

そのくらいが、ちょうどいい。ドラゴンマスクにできることなんて限られてる。「絶対」とか「いつまでに」とか、かあちゃんを成長させようってことじゃないし、もともと、なんでやってんのかもわかんないわけだし。

僕よりサッカーを見ているかあちゃんは、ドラゴンマスクの文字のメッセージよりコーチである律の言葉の方が響くはずだ。でも、律の言う通り「むずかしい注文」ではあった。「任せろ」なんて言えるほど簡単じゃない。

かあちゃんは、なかなかボールから目を離すことができなかった。やり始めはみんなそうだ。ボールに足を当てることに夢中になる。

そこで「鳥の目特集」と題して、鳥みたいにキョロキョロと周囲を見る選手、顔を上げてドリブルする選手、パス前に必ずコースの選択肢を確認する選手のプレイを切り取った動画のURLを印刷してポスティングした。

勿論、ドラゴンマスクからの贈り物だ。当然、不審物であることは自覚している。でも、このタイトルはかあちゃんには響くはずだ。「ドラゴンマスクより」これはもう、自分へのアドバイスであることは気がついているはず。

「止める位置」

「ワンテンポ」

「半身」

と、かあちゃんのプレイで気になるところをタイトルにして次々とポスティングした。怖いだろうなー知らないやつからこんなんが届いたら。

言葉は短く。

意味は、深く。

教えすぎると、考えなくなる。

考えなくなると、つまらなくなる。

かあちゃんは、考える人だ。

ずっと、外から見てきたから。だから、考える余白だけ、残しておく。それが、たぶん、一番いい。それが僕のかあちゃんだ。

 僕の指導が良かったのか偶然か、かあちゃんは半身のバックステップが上手くなった。

キーパーから言わせてもらうと、実にありがたい、いいディフェンスをし始めた。本人はゴールを決めたいらしく、休憩時間にはゴールに向かってボールを蹴っていた。インパクトだとか言っても、足を振って力を伝えないと距離もスピードも出ない。

かあちゃんはディフェンダー向きだと思うが、ドラゴンマスクも流石にそれは言えない。

 かあちゃんは、僕には何も聞いてこない。僕が知ってること気づいている?かあちゃんの周囲で、誰が、どこまで関わっているか。僕からは何も言わない。

言えないよ。

ドラゴンマスクなんてだっさいネーミングで始めちゃったからね。でも、まあ、それも、ちょうどいい。


僕たちは、直接、パスを出さない。ワンタッチ、もう一人を経由して、ボールを届ける。その方が、きれいに通ることがある。

サッカーと同じだ。それに後方支援が、僕のポジションだしね

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