「し」の消える本棚
滝沢優作は、30代のエリートサラリーマンで独身貴族を満喫している。
彼の趣味は読書である。
新しいマンションに引っ越すと、自分で本棚を作るのも好きである。
彼は自分で見事な本棚を作り上げ、そこにそれまで買い溜めた小説などを置く。
彼は新しいミステリーの本を買ってきて、ソファに座って読み始めた。
すると奇妙なことに気づいた。
なぜか「ました」となるはずのところが「ま た」となるのである。
それが一箇所や二箇所ではない。
彼は終いまで読んだが、すべての箇所で「し」が抜けているのに気づいた。
彼は本がおかしいと思い、その本を書籍小包で出版社に送った。
しばらくすると、出版社から新品の本と手紙が届いた。
その手紙は「特に異常はないようですが、新品と交換させていただきます」と認めてあった。
だがその本もやはり「し」が見えない。
彼は奇妙だと思ったが、大して高い本ではないのでそのまま放っておいた。
それからしばらく経ったある日のことである。
彼は喫茶店に、その本を持っていった。
コーヒーを啜ると、彼はその本を読み始めた。
今度はどこにも異常はなく、「し」が見えないなどということはない。
彼は気の所為だったのかなと思い始めたが、マンションに戻ってその本の続きを読もうとすると、また「し」がない。
彼は驚いて、外に出てその本を見ると、今度は異常がない。
ひょっとしたら、マンションに問題があるのではないかと思い、彼は近所の人にこのマンションで何かあったのか尋ねた。
隣人はあまり言いたくなさそうであったが、1年前そのマンションで、売れなくなりノイローゼになったグラフィックデザイナーの自殺があったことを教えてくれた。
彼は街角の占い師に相談してみた。
その占い師によれば、自殺した人が「死にたくない」と強く思うとそういう現象が起きるということであった。
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