第7話 強制トトノイ。――司祭様、お顔が凝っていますよ?
「な、ななな……何を、何をしたぁぁッ!?」
司祭ボルジアは、目の前で起きた光景が信じられず、泡を吹かんばかりに狼狽していた。
王国最強を自負する重装騎士たちが、たった一人の少年に、それも細い針を投げられただけで、地面に転がってピクピクと痙攣しているのだ。
「呪術だ……やはり不浄の呪術師だ! 者共、構わん、殺せ! この悪魔を浄化しろ!」
司祭の叫びに、残った騎士たちが剣を抜こうとする。
だが、彼らの動きはあまりに鈍かった。
「……遅いな。君たち、昨夜の進軍で腰の『大腸兪』が冷え切ってる。そんな状態で力めば、ぎっくり腰になるぞ?」
レンの影が、騎士たちの間をすり抜ける。
指先が空を切るたび、銀の閃光が騎士たちの首筋や手首、膝の裏へと吸い込まれていく。
「ぎゃっ!?」「あ、あががっ……!?」
悲鳴を上げる暇すらない。
レンが突いたのは、運動神経を司る魔力の分岐点――。
痛みはない。ただ、脳からの命令が筋肉に届かなくなる。
十数人の騎士たちが、ものの数分で「動かぬ石像」と化して森に転がった。
「ヒッ……、ヒ、ヒィッ……!」
最後に残った司祭が、逃げようと背を向けた。
だが、その不自然なほど突き出た腹と、脂ぎった顔がレンの視界に赤黒く映り込む。
「司祭様。逃げるのはやめた方がいい。……あんた、今の怒張で血圧が限界突破してる。このまま走れば、頭の血管が弾けるぞ」
「う、うるさい! 悪魔め、近寄るな……ッ!」
司祭が振り返り、光魔法の杖を掲げようとした。
しかし。
「――失礼。顔が、凝りすぎてますよ」
レンの指先が、司祭の耳の下――『翳風』のツボを電光石火で捉えた。
「ひ……ぎ、あ、ぁ……っ!?」
司祭の杖が力なく落ちる。
レンはそのまま、司祭の額、眉間、そしてこめかみへと、目に見えぬ速さで三本の針を叩き込んだ。
「あ……が、ぁ、ああああああああああッ!!!」
森に響き渡ったのは、断末魔のような、しかしどこか悦びに満ちた絶叫だった。
司祭の視界が、真っ赤に染まる。
脳を直接揉みほぐされるような、凄まじい「響き」が頭蓋の内側で炸裂した。
権力と強欲、そして暴飲暴食でドロドロに淀んでいた彼の魔力回路が、レンの針によって「強制掃除」されていく。
「な、なんだ……これ、は……っ。頭が、割れる……なのに、妙に……っ、気持ち、いい……ッ!?」
「強すぎるストレスで固まった表情筋を、強制的に緩めてあげたんだ。……ほら、そんなに怖い顔をしなくても、世界はもっと穏やかですよ」
レンが最後の一針を抜いた瞬間。
司祭の顔から毒気が抜け、まるで赤子のような、ふにゃふにゃに弛緩した表情へと変わった。
膝から崩れ落ち、よだれを垂らしながら、彼は虚空を見つめて呟く。
「あぁ……。空が……青い……。私、何を……あんなに怒って……いたのかしら……」
「……強制トトノイ、完了だ」
レンは道具を仕舞い、呆然と見守るエルフリーデとセラフィナの方へ歩み寄った。
「……レン、あの方はどうなったんだ?」
エルフリーデが、あまりに変わり果てた司祭を見て引き気味に尋ねる。
「しばらくは戦う意欲も、人を虐める気力も湧かないはずだよ。脳内の快感物質が出過ぎて、賢者タイムに入ってるからね」
「賢者……タイム……? やはり神の御加護があったのですね!」
セラフィナが目を輝かせるが、エルフリーデは「いや、たぶん違うと思う」と苦笑いした。
「さて。追っ手は片付いたけど、ここに居続けるのも限界だ」
レンは森の奥、王都が位置する方角を見据えた。
「エルフリーデ、セラフィナ。……僕と一緒に、王都へ行かないか? 本当の『医療』ってやつを、あの腐った医師団や教会に教えてやる必要があるみたいだ」
不遇の鍼灸師と、彼に救われた二人のヒロイン。
世界の「歪み」を治すための、本格的な旅が今、始まった。
第7話、ご覧いただきありがとうございました!
高慢な司祭が「強制トトノイ」によって平和な顔の抜け殻になる……。
これこそが、物理(健康)による究極の「ざまぁ」です。
さて、物語はいよいよ新展開!
辺境の森を飛び出し、腐敗した魔法医学の総本山・王都へと乗り込みます。
そこには、さらなる重度の「凝り」を抱えた強敵(患者)たちが待ち受けています。
「司祭の変わりっぷりに笑った!」
「王都編での無双も楽しみ!」
という方は、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価】をお願いします!
皆様の応援が、レンの針をさらに鋭く研ぎ澄まします。
次回、第8話「王都の門番と、バキバキの腰痛」。
いざ、魔法医学への反撃開始です!




