表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 夜凪レン
第1章 銀針の調律師、辺境に立つ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/18

第6話 教会の闇と、特製薬膳茶

翌朝、レンの庵には、これまでになかった「柔らかい空気」が漂っていた。


「……あ、暖かい。お布団の中が、ずっと暖かいなんて……」


 目を覚ました聖女セラフィナは、毛布の感触を噛み締めていた。

 いつもなら、目覚めと共に全身を襲うあの刺すような悪寒がない。指先には血が巡り、爪先まで自分の意思で動かせる喜び。彼女はそっと自分の頬に触れ、そこに宿る熱に、また涙をこぼした。


「起きたか。あまり急に動くなよ。君の経絡けいらくはまだ、大雨が降った後の脆い堤防のようなものだ」


 縁側で薬草を刻んでいたレンが、振り返らずに声をかける。

 その隣では、すでに身支度を整えたエルフリーデが、複雑そうな表情でセラフィナを見つめていた。


「……セラフィナ様。顔色がよろしいようで、何よりです」


「エルフリーデ分隊長……。あの、昨夜は、その……ごめんなさい」


 セラフィナは身を縮めた。

 かつて自分が「完璧です」と言い放った相手に、ボロボロの姿を救われたのだ。その羞恥と申し訳なさが、彼女の心をチクりと刺す。


「謝罪は不要です。私も、レンに会うまでは魔法が万能だと信じて疑わなかった。……それに」


 エルフリーデは、レンが差し出した木製のカップをセラフィナに手渡した。


「これを飲んでください。レンが朝から煮出していた、特別な……ええと、『お茶』です」


 カップからは、爽やかな柑橘の香りと、少しだけスパイシーな香りが立ち上っていた。


「それは『黒豆と陳皮ちんぴ、それにナツメを合わせた薬膳茶』だ。セラフィナ、君の体は『陽の気』が枯渇している。お灸でつけた火を絶やさないように、内側から薪をくべてやる必要がある」


 セラフィナは両手でカップを持ち、ゆっくりと一口含んだ。

 ――甘い。

 そして、染み渡る。

 

 魔法で作られた熱水のような刺々しさはなく、春の陽だまりが胃の中に広がっていくような感覚。飲むたびに、強張っていた内臓がふわりと解けていく。


「おいしい……。教会で飲んでいた、どんな高価な聖水よりも、ずっと……」


「それは良かった。……だが、ゆっくり味わっている時間は、あまりなさそうだ」


 レンの言葉と同時に、森の静寂が破られた。

 

 ――ガシャン、ガシャン。

 規則正しい金属音。それは、重装備を纏った騎士たちが、集団で移動する音だ。


「聖女セラフィナ様! いらっしゃいますか! 教会騎士団です! 不浄の呪術師に拐われたとの報告を受け、お迎えに参りました!」


 傲慢な声が森に響き渡る。

 セラフィナの顔から、一気に血の気が引いた。


「……追っ手、ですか。あの方たちは、私を心配しているのではないわ。……ただの『動く魔力供給源』を失いたくないだけ」


「レン、私が出る」


 エルフリーデが剣を手に取る。だが、レンはその肩を軽く叩いて制した。


「待て。君はまだ病み上がりだ。……それに、あいつらは『魔法の常識』で動いている。なら、魔法じゃない方法で分からせてやるのが一番早い」


 レンは腰のポーチから、一本の、少し太めの『長針』を取り出した。


「エルフリーデ、セラフィナ。少し見ていてくれ。これが、君たちが忌み嫌ってきた『針』の、もう一つの側面だ」


 レンが庵の前に一歩踏み出す。

 そこには、十数名の重装騎士を連れた、豪奢な法衣の司祭が立っていた。


「貴様が呪術師か! 聖女様を返せ! さもなくば、この場で神の裁きを――」


「裁き、ね。……その前に、あんた。右の膝が笑ってるぞ。昨夜、無理に馬を飛ばして、冷たい風に当たったせいだろう? 『寒湿かんしつ』が溜まって、魔力の流れが滞っている」


「なっ、何をデタラメを!」


「デタラメかどうか、試してみるかい?」


 レンの指先が、目にも止まらぬ速さで動いた。

 放たれた長針が、司祭を護衛していた騎士の、分厚い鎧の「隙間」を縫うようにして、その太ももの一点に吸い込まれた。


「……あ?」


 騎士が呆けた声を出す。

 次の瞬間。


「ぐわぁぁぁぁぁッ!? ひ、膝が、膝が勝手にッ!!」


 巨躯を誇る重装騎士が、まるで糸の切れた人形のように、その場に激しく崩れ落ちた。

 痛みではない。自分の意思とは無関係に、足の筋が強烈に収縮し、一歩も動けなくなったのだ。


「な、何をした……!? 何の魔法だ!」


「魔法じゃない。ただの『スイッチ』を切っただけだよ」


 レンは冷めた瞳で、狼狽する司祭を見据えた。


「悪いが、この二人は僕の患者だ。完治するまで、一歩も通すつもりはない」

第6話、いかがでしたでしょうか。

ついにレンが「戦闘」において、針の真価を発揮しました。

暗殺術ではなく、あくまで身体の仕組みを熟知した「解剖学的無力化」。

これぞ、プロの鍼灸師が異世界で見せる最高の「わからせ」です。


エルフリーデとセラフィナ。

立場は違えど、レンに救われた二人の絆もここから深まっていきます。


「レンの『スイッチ切り』、もっと見たい!」

「聖女様を守るエルフリーデがかっこいい!」


と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】をお願いします!

皆様の応援が、レンの針の精度(描写のキレ)をさらに高めます。


次回、第7話「強制トトノイ。――司祭様、お顔が凝っていますよ?」。

逃げようとする司祭を捕まえ、レンが施す「恐怖の治療フルコース」とは。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ