表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 夜凪レン
第1章 銀針の調律師、辺境に立つ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

第4話 魔物の肉は、最高の薬膳です

黒鋼の牙狼の解体は、驚くほどスムーズに進んだ。

 エルフリーデが驚いたのは、レンの指示の的確さだ。


「そこ、筋膜に沿って刃を入れて。……そう、そこが魔力の通りバイパスになっていた場所だ。そこを切り離せば、肉の硬さが一気に抜ける」


 レンは自身の『魔力透視』を使い、肉の中に残る魔力の流れを読み取っていた。

 彼の手にかかれば、鋼鉄のように硬いと言われる牙狼の肉も、上質なヒレ肉のようにしなやかな部位へと切り分けられていく。


「さて、次はこれだ」


 レンが取り出したのは、森で摘んできた数種類の薬草と、生姜に似た香りのする『火龍の根』だった。

 庵の外に据えられた鍋に、細かく切った肉とこれらの薬草を放り込み、じっくりと煮込んでいく。


「……良い香りだ。だが、魔物の肉をこれほど大量の薬草と煮込む料理など、王都でも見たことがないぞ」

 

 鍋から立ち上る、スパイシーでいて、どこか身体の芯を温めるような芳香に、エルフリーデの喉が自然と鳴る。


「これは『薬膳やくぜん』という考え方だよ。僕たちの体は、食べたものでできている。針で流れを整えても、その流れに乗せる『燃料』がスカスカじゃ意味がないからね」


 煮込むこと一時間。

 琥珀色のスープに、ホロホロになるまで煮崩れた肉が踊る『牙狼の薬膳煮込み』が完成した。


「さあ、冷めないうちに。今の君の体は、魔力の循環が良くなりすぎて、エネルギーを激しく求めているはずだ」


 差し出された木皿を、エルフリーデは恭しく受け取った。

 スプーンですくい、まずはスープを一口。


「っ……!」


 口に含んだ瞬間、爆発的な旨味が舌の上で跳ねた。

 ただ美味しいのではない。

 スープが喉を通った瞬間から、胃の腑がカッと熱くなり、その熱が血管を通じて全身の末端へと、力強い拍動と共に広がっていくのが分かる。


「熱い……だが、心地よい。力が、底から湧いてくるようだ」


「それが『気』の充足だよ。牙狼の肉に含まれる強靭な魔力を、薬草の成分が分解して、君の体に吸収しやすい形に変えてある。……噛まなくていい、溶けるから」


 エルフリーデは次に肉を口に運んだ。

 あんなに硬かった牙狼の肉が、舌の上でホロリとほどけ、濃厚な肉汁を撒き散らす。

 彼女は夢中でスプーンを動かした。

 騎士団での食事は、常に効率と栄養価(と称する味気ない干し肉)を求めるものだった。

 食事で「癒やされる」という経験を、彼女は十九年の人生で初めて知った。


「ふぅ……。ご馳走様、レン。……体が、ポカポカして、少し眠くなってしまったな」


 一皿を平らげたエルフリーデの頬は、林檎のように赤らんでいた。

 先ほどまでの鋭い女騎士の面影はどこへやら、とろりとした瞳でレンを見つめている。


「それが正常な反応だ。しっかり食べて、しっかり眠る。それこそが最大の養生だ。……さあ、今日はもう休んで。明日の朝、君は自分の体が『別人』のように軽いことに、改めて驚くはずだよ」


「……ああ。おやすみ、レン」


 エルフリーデが庵の奥で眠りについた後、レンは月を見上げながら、一人静かに針の手入れを始めた。

 彼の目には、夜の森のあちこちで、魔力の『澱み』が燻っているのが見えていた。


「……さて。次は誰を『調律』することになるのかな」


 その呟きに応えるように、森の奥から、一人の少女が這い出してきた。

 ボロボロの法衣を纏い、青白い顔をした彼女――王国の聖女セラフィナが、救いを求めてレンの庵の灯火を目指していた。

第4話、お楽しみいただけたでしょうか。

「食事もまた治療の一部」という東洋の知恵。

異世界の美味しい魔物肉と合わさることで、最強のグルメ描写が誕生しました。


そしてラストには、早くも二人目のヒロイン(?)が登場です。

エルフリーデを「完治した」と突き放した聖女様が、なぜこんなボロボロの状態で……?


「エルフリーデの赤らんだ顔が可愛い!」

「聖女様の登場にワクワクする!」


と思った方は、ぜひ【ブックマーク】をお願いします。

あなたのブックマークが、物語をさらに加速させる「薬」になります。


次回、第5話「聖女の絶叫――氷の体とお灸の炎」。

教会の権威が、レンの「熱い」施術の前に崩れ去ります。お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ