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魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 夜凪レン
第1章 銀針の調律師、辺境に立つ

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第2話 響き――銀針、魔力回路を穿つ

庵の中に、パチッと爆ぜる小さな音が響いた。

 乾燥させた薬草――モグサが燃える、独特の青臭くも落ち着く香りが、エルフリーデの鼻腔をくすぐる。


「……っ」


 木のベッドに横たわったエルフリーデは、シーツを握りしめた。

 騎士としての誇りも、銀髪の女騎士という肩書きも、今は関係ない。ただ、一人の『患者』として、背中を少年の視線に晒している。

 冷たい空気が肌を撫でるが、不思議と恐怖はなかった。ただ、レンの指先が触れる場所だけが、熱を持ったように脈打っている。


「いいかい、エルフリーデ。君の右肩にある『肩井けんせい』というツボ……魔力節が、完全に潰れている。ハイヒールで急激に肉を盛ったせいで、魔力の逃げ道が、不自然に癒着した筋肉に挟み込まれているんだ」


 レンの声は、先ほどまでの脱力した響きとは一線を画していた。

 低く、研ぎ澄まされ、どこか深い静寂を纏っている。


「今から、その癒着の隙間に針を通す。魔力が一気に流れるから、驚いて動かないように」

「……ああ。分かって、いる……好きにしろ」


 エルフリーデが答えた直後だった。

 レンの指先が、彼女の右肩の付け根――最も「重い」と感じる一点を、鋭く捉えた。


「――通すぞ」


 銀の針が、皮膚の抵抗を無に帰して沈み込む。

 痛みはなかった。

 だが、針が一定の深さに達した瞬間。


「ッ、ぁ……あああああぁぁぁ……ッ!!?」


 エルフリーデの背中が、弓なりに跳ねた。

 叫びとも吐息ともつかない声が漏れる。


 それは、痛みではない。

 体の奥底、魂の回路に直接『巨大な杭』を打ち込まれたような、圧倒的な重圧感。

 

(なっ、何だ、これは……!? 熱い、重い……右腕が、千切れるような――!)


「それが『得気とっき』だ。魔力が、本来の道を見つけた合図だよ」


 レンの声が遠くで聞こえる。

 直後、ダムが決壊したような衝撃が彼女を襲った。


 ドクン、と心臓が跳ねる。

 滞っていた魔力が、針という一点を導火線にして、爆発的な勢いで指先へと駆け抜けたのだ。

 

 ヘドロのように固まっていた魔力の残滓が、清冽な奔流によって洗い流されていく。

 視界が真っ白に染まり、頭の芯まで痺れるような感覚が通り抜ける。


「はっ、……はぁ、はぁ、はぁっ……!」


 数秒後、レンが針を抜くと、エルフリーデは崩れるようにベッドに沈み込んだ。

 全身から汗が噴き出している。だが、先ほどまで彼女を支配していた『あの重さ』が、嘘のように消えていた。


「腕を、動かしてごらん」


 レンに促され、エルフリーデは恐る恐る右腕を上げた。

 

「……え?」


 軽い。

 あまりに、軽い。

 まるで自分の腕が空気でできているのではないかと思うほど、滑らかに、何の抵抗もなく肩が回る。

 それだけではない。

 全身の隅々まで新鮮な空気が行き渡ったような、脳が洗われたような、かつて経験したことのない透明な感覚。


「これが……本当の、完治……?」


「いいや、まだメンテナンスの第一段階だ。君の体は、もっと強くなる」


 レンはそう言って、今度は小さなお灸を手に取った。

 エルフリーデは、もう疑わなかった。

 

 この少年の指先が、自分の運命を、そしてこの世界の魔法の常識を、根本から書き換えてしまうのだということを。


「レン……。君は、一体何者なんだ?」


「ただの鍼灸師だよ。……さて、次は足の冷えを治そうか。冷えは万病の元、魔力不足の元だからね」


 そう言って笑う少年の横顔に、エルフリーデは騎士団の誰にも抱かなかった、深い敬畏を抱き始めていた。

第2話もご覧いただき、ありがとうございました!

針が入った瞬間の「ズーン」という響き……。

一度味わうと病みつきになるあの感覚を、異世界風にアレンジしてみました。


エルフリーデの「トトノイ」は、まだ始まったばかりです。

次話、ついに彼女が「本来の力」を解放する戦闘シーンへ。


「続きが読みたくなった!」

「このままレンに全身を診察してほしい!」


と思った方は、ぜひ【ブックマーク】や【評価】をポチッとお願いします!

執筆のスピードが、針の速さ並みに上がります。

次回、第3話「羽の生えた戦乙女」。

彼女の剣が、魔物をどう切り裂くのか。お楽しみに!

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