第13話 魔導医師の逆襲。――『その治療は違法だ』
「そこまでだ、異端の治療師ッ!!」
静まり返った講堂に、怒号が響き渡った。
扉を蹴破るようにして現れたのは、白銀の縁取りがなされた仰々しい法衣を纏う一団。王立医師団の副団長、マルファスとその部下たちだ。
彼らは手に手に『医療統制令』と記された羊皮紙を掲げ、レンを包囲するように詰め寄る。
「……何だい。今はまだ授業の途中なんだけど」
レンは針を片付けることなく、淡々と応じる。その横では、エルフリーデが即座に柄に手をかけ、リセッテは怯えたように資料を抱え直した。
「黙れ! バルバラ閣下の推薦があるとはいえ、学園内での医療行為は王立医師団の認可が必要だ。貴様のやっていることは、認可外の『身体損壊』……すなわち重罪である!」
マルファスが突きつけた羊皮紙には、仰々しい印章が押されていた。
カイルをはじめとする学生たちが動揺し、ざわめきが広がる。
「身体損壊……。針を打つのが、かい?」
「そうだ! 魔導医師免許を持たぬ者が、あろうことか未来ある学生たちの体に鉄の棒を突き刺すなど、狂気の沙汰だ。しかも、ポーションの服用を禁じ、深呼吸などという根拠のない民間療法を説くとは……。これは国家に対する反逆も同然!」
マルファスは、脂ぎった顔を歪ませて笑った。
彼らにとって、学生たちは高価なポーションの「優良顧客」だ。それをレンのような若造に奪われては、医師団の懐に響く。
「……根拠がない、か。マルファス副団長と言ったかな。あんた、さっきから右の目蓋がピクピク動いてるぞ。……あと、その歩き方。左の坐骨神経をポーションの副作用で焼いてるね。痛み止めで誤魔化してるんだろうけど、麻痺が指先まで来てる」
「な、……ななな何をデタラメをッ!!」
「デタラメじゃない。……リセッテ、さっきの『ポーション残留魔力の蓄積グラフ』を出して」
リセッテが震える手で、大きな図表を広げた。そこには、医師団が推奨するポーションを長年摂取した際に、魔力経絡がいかに細く、硬くなっていくかが数値化されていた。
「君たちが『奇跡の薬』と呼んでいるものは、魔力の前借りだ。前借りした分は、経絡の壁に『カス』として溜まる。……マルファス、あんたの体は今、そのカスで目詰まりを起こして、魔力が脳に逆流しかけている。……今すぐそこを治療しないと、三日以内に倒れるぞ」
「貴様ぁぁ! 私を愚弄するかッ!! 捕らえろ! この詐欺師を地下牢へ叩き込め!」
マルファスの合図で、随行していた魔導兵たちが魔法の枷を手に踏み出す。
だが、その瞬間。
「――そこまでにしてもらおうか」
講堂の奥から、低く、しかし逆らいがたい威厳を持った声が響いた。
現れたのは、バルバラ公爵。
彼女は昨日よりもさらに若々しく、そして鋭い魔力を全身に纏っていた。
「バ、バルバラ閣下!? なぜここに……」
「マルファス。私の恩人を地下牢に送るというのなら、まずはこの私を倒してからにするのだな。……もっとも、そんな『詰まった』体で私の相手ができるとは思えんが?」
バルバラの冷徹な一喝に、マルファスは言葉を失い、後退りした。
「……レンよ。医師団は、貴殿を『公開公開討論』の場に引きずり出すつもりのようだ。医学的根拠とやらで、貴殿を公衆の面前で晒し者にしようとしている」
レンは針を一本、指先で器用に回し、バルバラを見つめた。
「公開討論……。いいよ。ちょうど、この学園の『膿』を出し切りたいと思っていたところだ」
レンの瞳に、静かな、しかし確かな闘志が宿る。
鍼灸師対魔導医師。
王国の医療の在り方を賭けた、未曾有の対決の幕が上がろうとしていた。
第13話、ご覧いただきありがとうございました!
「法」と「既得権益」で攻めてくる医師団。
それに対し、相手の「病状」を指摘することで一蹴するレンのスタイルは、まさにプロの業。
バルバラ公爵という盾を得つつも、舞台はより公式な「公開討論」へと移ります。
医師団が用意する「最強の症例(患者)」を、レンはどう料理するのか?
「マルファスの焦りっぷりが小気味いい!」
「バルバラ様の味方っぷりが心強い!」
と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【ポイント評価(★★★★★)】をお願いします!
皆様の応援が、レンの次なる「逆転の術式」の糧になります。
次回、第14話「絶望の患者。――医師団が用意した『死のコリ』」。
レンの前に立ち塞がる、史上最大の難敵とは。お楽しみに!




