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魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 夜凪レン
第2章 王都・学園編

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第11話 学院の落ちこぼれ天才と、魔法の副作用

王立魔法学院。

 そこは王国中の才能と富が集まる、魔法医学の総本山だった。

 豪奢な尖塔が立ち並び、空気中には常に高価な魔法薬ポーションの、どこか甘ったるい香りが漂っている。


「……なるほど。確かに魔力密度は高いけど、その分、みんな『鼻詰まり』を起こしてるな」


 公爵バルバラの推薦状を胸に、レンは正門をくぐった。

 隣には、護衛として騎士団の制服を整えたエルフリーデ。そして、フードを深く被ったセラフィナが、物珍しそうに周囲を見渡している。


「鼻詰まり、ですか? レン様、私にはとても澄んだ魔力に見えますが……」


「セラフィナ。綺麗な水でも、流れが止まればボウフラが湧く。ここは、外部の新鮮な気を取り入れる『窓』が少なすぎるんだよ」


 レンが指摘した通り、行き交う学生たちの顔色は、お世辞にも良いとは言えなかった。

 皆、魔力出力を上げるためのポーションを常用しているせいか、目の下に隈を作り、神経質な顔つきで早口に呪文を唱えている。


「……ああっ! もう、またここが噛み合わない! 計算上は完璧なのに!」


 回廊の隅、山積みになった魔導具の残骸に囲まれて、一人の少女が頭を抱えていた。

 ボサボサの茶髪に、度の強い眼鏡。

 リセッテ・カルノ。学院でも変人として知られる『遺物修復科』の天才だ。


 彼女が修復しようとしているのは、古代の魔力増幅器。

 だが、その手は小刻みに震え、精密な魔力刻印を打つたびに火花が散って失敗を繰り返している。


「くっ、右腕が……。また麻痺してきた……。ポーション、ポーションはどこ……っ」


 彼女が震える手で腰の小瓶を掴もうとした瞬間、その手をひょいと、レンが横から取り上げた。


「――無駄だよ。それを飲めば飲むほど、君の右腕は腐っていくぞ」


「……っ!? 誰よ、あんた! 私の大切な栄養剤を返して!」


 リセッテが眼鏡をずらしながら、レンを睨みつける。

 だが、レンはその視線を無視し、彼女の右腕を無造作に掴んだ。


「ひゃっ!? な、なな、何を――」


「ひどいな。……指先の使いすぎによる『腱鞘炎』。それにポーションの魔力残渣が神経を圧迫して、完全に麻痺しびれが回ってる。……君、最近は目も霞んでいるだろ? 魔力を視るための視神経が、極度の眼精疲労で焼き切れる寸前だ」


「……な、何で、それを……」


 リセッテの動きが止まった。

 彼女が秘匿していた不調を、初対面の少年が、一瞬で、まるで中を透かして見たかのように言い当てたからだ。


「このままだと、その増幅器は一生直せない。それどころか、一週間後には君は二度と魔法を使えなくなる」


「……嘘よ。私は、この遺物を直さなきゃいけないの。それが私の、唯一の価値なんだから……っ。返して、ポーションを! 痛みを消さなきゃ……!」


「痛みは、体が上げている『悲鳴』だ。それをポーションで塞ぐのは、燃えている家に防音壁を立てるようなもんだよ。……ちょっと、貸してごらん」


 レンはリセッテの抗議を無視し、彼女をその場に座らせた。

 そして、ポーチから一本の、極細の銀針を抜き出す。


「痛くない。……いや、『響く』けどね。君の右腕の『陽谿ようけい』から、目に通じる経絡を一気に繋ぎ直す」


「針……? そんな細い鉄屑で、私の魔力蝕が治るわけ――」


 ――ズ、ゥゥゥンッ。


「……っ!? ぁ、……ああああああぁぁっ!!?」


 リセッテの叫び声が回廊に響いた。

 腕から肩へ、そして脳の裏側を直接熱した鉄棒で貫かれたような、強烈な衝撃。

 

「な……に……これ、あつい……。あたまの、中が……燃えて……っ」


「逃がさないよ。ほら、溜まってたゴミを、一気に燃やし尽くす」


 レンが針の頭を小さく振るわせると、リセッテの右腕から、ドロりとした黒い霧のような魔力が汗と共に噴き出した。

 

 数分後。

 レンが針を抜くと、リセッテは呆然と自分の右手を見つめていた。

 震えが、止まっている。

 それだけではない。

 

「……見える。……世界が、こんなに明るかったの……?」


 眼鏡を外した彼女の瞳は、これまでにないほど澄み渡っていた。

 霞んでいた視界が、今では空気中の魔力粒子の一つ一つまでをも捉えられるほど、鋭敏に研ぎ澄まされていた。


「さて、リセッテ。……続きをやりなよ。今の君なら、その増幅器の『詰まり』も見えているはずだ」


 レンに促され、リセッテは震える手ではなく、確信に満ちた手で工具を握り直した。

 

 学院の落ちこぼれと呼ばれた天才と、不遇の鍼灸師。

 その出会いが、王立学院の『常識』という名の壁を穿つ、最初の一刺しとなった。

第2章、開幕です!

新ヒロイン・リセッテの「ボロボロな身体」を、レンが針一本でトトノわせました。

魔法を極めようとする者が陥る「感覚の麻痺」を、東洋医学のロジックで解消する。

この快感こそが、学園編の核となります。


「リセッテのギャップが可愛い!」

「ポーション利権へのカウンターが楽しみ!」


と思ってくださった方は、ぜひ【ブックマーク】と【評価(★★★★★)】をお願いします!

皆様のポイントが、レンの新しい術式(執筆プロット)を強化します。


次回、第12話「特別講師レン。――初日の授業は『全員、深呼吸しろ』」。

エリート学生たちの傲慢を、レンがどう「ほぐして」いくのか。お楽しみに!

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