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魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 夜凪レン
第1章 銀針の調律師、辺境に立つ

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第1話 聖女のヒールは届かない

夜凪レンです。

皆様、お疲れ様です。肩、凝っていませんか?


本作は、魔法が万能だと思われている世界で、あえて「メンテナンス」という地味ながらも最強の技術で成り上がる物語です。

針が入った瞬間の「ズーン」というあの感覚(得気)と、その後の圧倒的な解放感を、文字を通じて皆様にお届けできればと思います。


もしよろしければ、読後の感想や「ここも揉んでほしい!」というリクエスト(?)もお待ちしております。

それでは、異世界での「トトノイ」を、どうぞお楽しみください。

「……くっ、あああああッ!!」


 王立騎士団の演習場に、無様な絶叫が響き渡った。

 銀髪を振り乱し、地面に這いつくばったのはエルフリーデ・フォン・アルトマルク。かつて『戦乙女』と称えられ、若くして分隊長にまで昇り詰めた天才騎士だ。


 その対面では、若手の騎士たちがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて彼女を見下ろしていた。


「どうしました、エルフリーデ分隊長。今の突き、随分と鈍かったですよ?」

「怪我は三ヶ月前の遠征で、聖女様の『ハイヒール』によって完治したはずでは?」

「まさか、まだ痛むとでも? 傷跡一つ残っていないのに。……ふん、かつての天才も、一度の敗北で心が折れて『怠け癖』がついたようですね」


 エルフリーデは奥歯を噛み締めた。

 違う。怠けてなどいない。

 三ヶ月前、狂暴化したベヒーモスの突進を受け、彼女の右肩は粉砕骨折し、肺は潰れた。死に体だった彼女を救ったのは、教会の聖女が放つ最高位回復魔法『ハイヒール』だった。


 奇跡は起きた。

 砕けた骨は接合され、裂けた筋肉は瞬時に癒着し、皮膚は産まれたてのように滑らかになった。

 見た目は、完治だ。


 だが。

(……重い。鉛でも流し込まれたみたいに、腕が上がらないんだ……!)


 剣を握ろうとすれば、右肩の奥で「嫌な熱」が燻る。

 魔力を循環させて身体強化を図ろうとすれば、全身を不快な悪寒が走り、本来の半分も出力が出ない。

 医者は「精神的な後遺症だ」と言い、聖女は「魔法は完璧でした」と慈愛に満ちた(しかし冷淡な)笑みを浮かべた。


 誰も信じてくれない。

 傷跡のない、この『耐えがたい倦怠感』を。

 体内で何かが「詰まっている」ような、この違和感を。


「エルフリーデ、貴公に除隊勧告、あるいは辺境への異動を命ずる」


 数日後、団長から冷酷に告げられた言葉が、彼女の誇りを粉々に砕いた。

 居場所を失った彼女は、藁にもすがる思いで王都を離れた。

 向かったのは、地図の端にある『呪いの森』。

 そこに、公的な魔法医学から追放された、異端の「治療師」が住んでいるという噂を聞いたからだ。


 ――体に銀の針を刺し、呪いをかけて人を動かす、凶悪な呪術師。

 ――その庵に入った者は、皆、得も言われぬ叫び声を上げる。


 そんな恐ろしい噂も、今のエルフリーデには希望に聞こえた。


 ***


 辺境の森。湿った土の匂いと、嗅ぎ慣れない薬草の香りが混ざり合う場所に、その庵はあった。

 古びた木の扉を叩くと、中から「どうぞ」という、拍子抜けするほど穏やかな声がした。


 中に入ると、そこには煙が立ち込めていた。

 モグサと呼ばれる、植物を乾燥させたものを燃やしているらしい。

 

「……呪術師、だろうか」


 エルフリーデが剣帯を握りしめながら問うと、奥から一人の少年が現れた。

 黒髪に、どこか眠たげな瞳。

 自分よりも年下に見えるその少年は、大きな机の上に針が並んだ布を広げていた。


「呪術師? ……ああ、外ではそう呼ばれてるんだっけ。僕はレン。ただの鍼灸師だよ。……で、君はどこが『詰まって』いるんだい?」


 レンと名乗った少年は、挨拶もそこそこにエルフリーデの顔をじっと見つめた。

 その視線は、女としての彼女を見ているのではない。

 まるで、皮膚の透けた先にある『何か』を観察しているような、底知れない視線。


「なぜ、私の不調が分かった」

「顔色、呼吸の浅さ、それに魔力の揺らぎ。君の右肩……魔力が渦を巻いて、逃げ場を失って叫んでいるよ。聖女にでも治してもらったのかい?」

「……そうだ。ハイヒールで完治した。だが、体が重くて動かない」


 レンは小さく溜息をつき、茶を一口啜った。


「典型的な『魔法過多による経絡の閉塞』だね。魔法治療は便利だけど、無理やり細胞をくっつける時に、行き場を失った過剰な魔力が『ゴミ』として残るんだ。水道管の中に泥が詰まってるようなもんだよ。それを放置して上から無理に魔力を流そうとするから、痛みや重だるさが出る」

「ゴミ……? そんなはずはない。魔法は完璧に――」

「完璧な魔法なんてないよ。人間には『流れ』があるんだ」


 レンは立ち上がり、一本の細い、本当に細い銀の針を手に取った。

 陽光を反射して煌めくそれは、武器と呼ぶにはあまりに弱々しく見える。


「脱いで、そこの台に横になって。鎧も、インナーもだ。背中を見せてくれ」

「……なっ!? 何を――」

「治療だよ。その『ゴミ』を掃除して、世界の本当の軽さを教えてあげる」


 レンの瞳に宿った、圧倒的な自信。

 王都の権威ある魔導医師たちにはなかった、何らかの「理」に到達した者の目。


 エルフリーデは吸い寄せられるように、自ら重い鎧のベルトに手をかけた。

 

 静寂が庵を包む。

 少年の指先が、彼女の白い背中を滑る。

 

「……ここだ」


 レンの指先が止まったのは、かつてベヒーモスの一撃を受けた右肩の裏。

 

「今から、君の魔力回路ルートを再起動させる。少し――いや、かなり『響く』ぞ」


 銀の針が、大気を切り裂いた。

 それが彼女の肌に触れた瞬間、エルフリーデの世界は一変することになる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

「傷を治す」だけの魔法と、「身体の巡りを整える」という東洋の知恵。

この二つがぶつかり合う時、異世界の常識が覆ります。


「この先、エルフリーデの体はどうなってしまうのか?」

「針を刺された瞬間の、魔力が駆け巡る快感とは?」


もし少しでも「続きが気になる!」「設定が面白い」と思っていただけたら、

下にある【ブックマークに追加】と、【ポイント評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると執筆の励みになります!


あなたの評価一つが、この物語の「魔力」になります。

次回、第2話「響き――銀針、魔力回路を穿つ」。

本当の『トトノイ』を、あなたにお見せします。


当面の間は1日3話を投稿予定です。

お楽しみに。

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