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(論文解説)ロシアの将来予測コンセプト:3つの重要な要素(Puolustusvoimien tutkimuslaitos)

Voinoff, Sari, and Suvi Pukki. Venäjän tulevaisuuden ennakointikonsepti: Kolme keskeistä elementtiä


フィンランド国防軍研究所(Puolustusvoimien tutkimuslaitos)のレビューです

本研究は、ロシアにおける戦略的および軍事戦略的計画と、それに関連する未来予測コンセプトの全体像を明らかにするものである。従来はこの分野が部分的にしか取り扱われておらず、シナリオや脅威予測などの個別の要素に焦点を当てた研究が主流であった。本稿では、それらの要素を包括する予測モデルとしてのコンセプトが提示されている。


ロシアは、国防省傘下の第46中央研究所によって策定された未来予測と軍事戦略を融合させたコンセプトを用いて計画を立案している。このコンセプトは、予測的シナリオ、数学的モデル、経済計画の三要素を統合し、長期的な国家戦略目標の達成に向けた意思決定を支援するものである。これにより、安全保障環境の評価や脅威予測、平時および戦時における対応策の策定が可能となる。


この戦略的構想は、軍事ドクトリンや国家安全保障戦略など、ロシアの主要な戦略文書に掲げられた目標を具体化する実践的枠組みとして位置づけられる。特に、2040年を目標とするシナリオ研究が中心的役割を果たす。軍事、経済、政治の各分野にわたり、包括的かつ体系的な分析が行われており、他の研究手法では把握しきれない急速な情勢変化にも対応できるものとされる。


1.Skenaariot vuoteen 2040(2040年までのシナリオ)

ロシアの戦略的・軍事戦略的計画において、2040年までを見据えた6つの将来シナリオが設定されている。これらは軍事、経済、政治の分野にまたがり、国際的および軍事政治的な動向を予測・分析するために活用されている。複数の包括的なシナリオを用いることで、急速に変化する環境に対する理解が深まり、伝統的な分析手法では捉えにくい兆候も見極め可能となる。シナリオの影響は短期、中期、長期にわたり、部隊の訓練計画から軍組織の構造改革、そして未来の軍事体制の設計に至るまで戦略的意思決定を支える。


提示された6つのシナリオは以下の通りである:


①Vahva globalisaatio(強いグローバル化) 欧米・米国とロシア・中国の対立が激化し、欧米の軍事協力と技術革新が加速。ロシアの国際的影響力は著しく低下し、2040年には地域大国に留まる。このシナリオはロシアおよび中国にとって存続の危機となる。


②Kohtuullinen globalisaatio(穏やかなグローバル化) 欧米と米国が世界秩序を主導しつつも、多極化が進む。中国とインドが台頭するが、ロシアの地位向上には勢力圏の支援が不可欠である。


③Kaksinapaisuus 2.0(二極化2.0) 米国の覇権に対抗する非西側諸国による勢力の形成。ロシアと中国の連携が重要で、ロシアは米国に軍事的対抗が可能な唯一の国家とされる。


④Kiinan nousu(中国の台頭) 欧米の内部混乱により、米国の国際的関与が弱まり、中国が経済的成長と軍事近代化を継続し、主導的地位を確立する。


⑤Alueellistuminen(地域化) 穏やかなグローバル化と同様に進展するが、貿易紛争の激化により複数の地域市場が形成され、相互交流が限定的となる。


⑥Kaaos(混乱) 世界的経済崩壊、大規模テロ、災害などの複合的危機が生じ、国際秩序が崩壊する可能性を示唆する。


特に「Vahva globalisaatio」はロシアにとって最も不利であり、「Kaksinapaisuus 2.0」が最も好ましいシナリオとされている。両者は対極に位置し、その他のシナリオはその中間にあるとされる。ロシアは後者の実現を目指しつつ、前者の回避に全力を尽くしている。


2.Matemaattinen malli(数学モデル)

ロシアの将来予測コンセプトにおける「数学モデル」は、軍事的脅威の定量的評価と戦略的計画立案を結びつける中心的ツールである。このモデルは、数式による分析、専門家評価、そして各種シナリオへの応用を通じて、軍事政治的状況の変化を迅速かつ体系的にシミュレートし、政策決定を支援する。


特に重視されるのは、「戦略的抑止力(deterrenssi)」の維持と強化であり、モデルは抑止の有効性や、敵に与える「pidäkkeellinen vahinko(抑止に必要な最小限の損害)」の推定に重点を置く。この評価には、敵の軍事力、経済的資源、政治的目標などを分析したうえで、どの程度の打撃でその行動を制限できるかを算出する。


さらに、数学モデルは仮想的な同盟国や敵対勢力の軍事力、紛争発生可能性、結束力までも評価対象とする。これにより、単なる敵の分析にとどまらず、グローバルな軍事政治構造の中でロシアの位置付けを明確にし、将来の対処戦略を構築する。


モデルが分析対象とする指標は多岐にわたり、以下のような要素が含まれる:

・軍事政治的状況(sotilaspoliittinen tilanne)

・軍事的ポテンシャルとその相対比

・紛争可能性と脅威レベル

・同盟や国家間協力の有効性

・戦略的抑止の効果およびその損害予測

・通常戦力の使用可能性

・ネットワーク影響力(verkostovaikuttavuus)


これらのデータは、大規模なデータベースとインジケーター群に基づき評価され、随時更新が可能な構造となっている。このモデルの強みは、軍事的要因だけでなく、非軍事的(経済、社会、政治)要因も含めた広範な分析ができる点にあり、ロシアがどの領域に注目しているかの指標にもなる。


また、数学モデルは、長期シナリオの設計に留まらず、短期的な危機対応能力や状況判断にも即座に反応できるダイナミックなシステムとして位置づけられている。これにより、複雑かつ急変する地政学的環境への柔軟な対応を可能にし、戦略的決定の信頼性を高めている。


3.Venäjän päätöksenteko(ロシアの意思決定)

ロシアの戦略的および軍事戦略的意思決定は、複数の専門的手法と支援システムを用いて構成されている。本章では、これまで説明された三つの主要要素(シナリオ分析、数学モデル、経済モデル)がどのように統合され、国家の意思決定に寄与しているかを示している。


まず、これらの分析結果はすべて「SPPR(Venäjän sotilaallisen päätöksenteon tukijärjestelmä)」と呼ばれる意思決定支援システムに蓄積される。このシステムは、ロシア軍の総参謀本部が管理するものであり、国防省、安全保障会議、大統領府など国家の主要機関が活用している。SPPRは戦略的計画の中核を成しており、複数のモジュールによって構成されている。


モジュールのひとつは、ロシアおよび他国の軍事力、軍事政治的潜在能力、そして対立の発生可能性を定量的に分析する機能を持つ。これにより、潜在的な脅威や戦略的な安定性を評価する。さらに、国家の経済力と戦略的資源の分析を通じて、将来の国家安全保障の水準と課題が明確にされる。


重要なポイントは、この支援システムがリアルタイムのシミュレーションと更新を可能にする点である。モデルや指標は変化に応じて調整され、意思決定に必要な精度と即応性を維持する。とりわけ戦略的抑止力(deterrenssi)に関する評価や、敵対的行動への効果的な対策の提示において高い信頼性を持つ。


将来的には、予測モデルや評価手法に人工知能を導入することにより、グローバル・地域・局地的な軍事政治的変動に対し迅速に対応できる体制の構築が想定されている。これにより、ロシアは意思決定のスピードと正確性を飛躍的に向上させることが可能となる。


しかしながら、ロシアがこれらのモデルとシナリオをあまりにも信頼することは、客観的評価能力の低下を招く可能性がある。自己の優位性を過信することで、実際の脅威や弱点の見誤りが生じる恐れがある。


結論として、ロシアの意思決定はデータ主導型でありながらも、その正確な活用には批判的な検証と柔軟な対応力が不可欠である。西側諸国は、このような計画プロセスと戦略文化の発展を綿密に監視し、自らの防衛能力と戦略的均衡を保つための理解を深める必要がある。


4.Johtopäätökset(結論)

本研究は、ロシアの戦略的および軍事戦略的意思決定プロセスにおける予測コンセプトの重要性を明らかにしたものであり、特にシナリオ分析、数学モデル、経済モデルが意思決定支援に果たす役割に焦点を当てている。もしロシアがこれらの予測手法を完全に自動化し、人工知能と統合した場合、国際・地域・局地的な軍事政治的変化を迅速に検知し即応可能な体制が構築できると見込まれる。


そのため、フィンランドおよびNATOは、ロシアによる戦略的予測と計画の技術的進展を継続的に監視する必要がある。特に注視すべきは、評価手法、数理的モデリングの自動化、シミュレーション機能の強化、そして技術的手段の発展である。


一方で、ロシアが自国の予測コンセプトやシナリオ分析を過度に信頼することは、戦略的リスクを伴う。それらを絶対視することで、自国の脆弱性を認識せず、自己の優越性を強調しすぎる傾向が生まれ、現実の状況評価が歪む可能性がある。このような認知の偏りは、戦略的判断の誤りにつながる。


ロシアの戦略文化は、地政学的目標と軍事的即応力の結びつきを強調する傾向がある。未来予測とシナリオ分析は、この文化的枠組みの中で戦略的抑止力を維持するための重要な支柱とされる。国際環境の変化への適応を図る上でも、これらの手法は中核的な役割を担っている。


したがって、西側諸国にとっては、ロシアの戦略文化および予測手法の発展を詳細に分析し、理解を深めることが不可欠である。それによって、戦略的均衡の維持や、国家および同盟の防衛能力強化に向けた効果的な対応が可能となる。ロシアの予測と計画に対する深い洞察は、将来の安全保障政策における競争的優位を築く上でも極めて重要である。

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