(論文解説)日本の防衛政策と軍備の変遷(國防安全研究院)
楊長蓉.「日本國防科技與軍備政策」.『2024 國防科技趨勢評估報告』,2024,p.p.67-82,財團法人國防安全研究院
1.前言
本節では、日本の安全保障政策の歴史的背景と現状認識を概観している。日本は第二次世界大戦後、憲法第九条に基づき専守防衛を掲げ、軍事力行使を厳しく制限してきた。しかし、冷戦期から現在に至るまで、国際安全保障環境の変化は日本の防衛政策に継続的な調整を迫ってきた。特に米国との安全保障条約は、日本の安全保障の基盤として機能し、在日米軍の存在は抑止力を形成してきた。一方で、冷戦後の地域紛争、テロ、そして近年の大国間競争の再燃は、日本の戦略的環境を複雑化させた。さらに北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の軍事力増強と海洋進出、ロシアの極東での軍事活動などが、日本周辺の安全保障リスクを高めている。前言は、こうした脅威が単独ではなく相互に影響し合い、複合的な不安定要因を形成していると指摘する。また、台湾海峡情勢の緊張は日本の安全保障と密接に関係し、地理的・経済的・政治的理由から日本の安全保障政策の中で重要な位置を占める。最後に、この報告は、今後の安全保障戦略を検討するために、日本が直面する脅威環境を整理し、政策的対応の方向性を示すことを目的としていると述べられている。
2.日本傳統安全態勢與現狀:北韓、俄羅斯及中國的威脅、台海情勢
2-1. 日本の伝統的安全保障体制の基盤
戦後日本は憲法第九条の制約の下、「専守防衛」を安全保障の基本原則として維持してきた。これにより、自衛隊は必要最小限の防衛力に限定され、武力行使は自国防衛に限られる形で運用されてきた。この防衛姿勢を補完するのが、1951年に締結された日米安全保障条約であり、在日米軍の駐留と拡大抑止(Extended Deterrence)が日本の安全保障の中核をなしている。冷戦期は主にソ連への対抗を想定していたが、冷戦後は地域紛争やテロ対策など新たな任務に適応しつつ、周辺事態対応法や平和安全法制など法的枠組みを整備した。
しかし21世紀に入り、安全保障環境は大きく変質した。北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の急速な軍事力増強、ロシアの極東での軍事活動再活発化など、複合的脅威が同時並行で進行し、日本の従来型防衛戦略は再検討を迫られている。
2-2. 北朝鮮の脅威
北朝鮮は1990年代から核兵器開発を本格化させ、2006年以降は複数回の核実験を実施した。弾道ミサイル技術も短距離・中距離・大陸間(ICBM)と進展し、日本全域を射程に収める能力を確立している。近年は変則軌道発射や極超音速滑空兵器(HGV)の実験も行い、迎撃困難性が増している。
北朝鮮は軍事的挑発を外交交渉のカードとして使い、制裁緩和や国際的承認を引き出そうとしてきた。日本にとっては、ミサイル警報発令やPAC-3・イージス艦による迎撃態勢が日常化しており、抑止力強化と同時に情報・警戒監視能力の高度化が急務である。また、北朝鮮はロシアや中国と軍事・技術面での連携を模索し、制裁回避の動きを強めていることも懸念材料となっている。
2-3. ロシアの脅威
ウクライナ侵攻以降、ロシアは西側諸国との対立を深めつつ、極東地域での軍事プレゼンスを維持・強化している。特に千島列島(北方領土を含む)周辺では、地対艦ミサイル「バル」や防空システムS-300/S-400の配備、新型戦闘機の展開が確認されている。ロシア海軍太平洋艦隊は日本海やオホーツク海での大規模演習を実施し、日本への軍事的圧力を誇示している。
さらに、ロシアは北朝鮮と接近し、兵器・技術協力や資源取引を進める兆候を見せている。日露間ではエネルギー協力や漁業交渉など経済的利害も存在するが、安全保障面での不信は深刻化しており、偶発的衝突のリスクも増している。
2-4. 中国の脅威
中国はこの数十年間で経済成長と並行して軍事力を大幅に増強し、特に海軍と空軍の近代化を急速に進めた。海軍は空母「遼寧」「山東」に加え、国産空母「福建」を進水させ、外洋作戦能力を拡大。空軍もステルス戦闘機J-20や長距離爆撃機H-6Kの配備を進めている。
東シナ海では尖閣諸島周辺への公船侵入や航空機の防空識別圏(ADIZ)進入が常態化し、日本の領域警備に恒常的負担をかけている。南シナ海でも人工島の軍事拠点化を進め、シーレーン防衛や国際海洋秩序に挑戦している。さらに、中国は宇宙・サイバー・電子戦領域にも積極投資し、非対称戦能力を強化している。
中国の軍事行動は、単なる領有権主張を超え、地域覇権の確立を目的とした長期戦略の一環と見られており、日本はその地政学的影響を強く受ける立場にある。
2-5. 台湾海峡情勢の影響
台湾海峡の安定は日本の安全保障と経済に直結する。台湾有事は日本の南西諸島やシーレーンに直接影響し、米国との同盟行動が不可避となる。中国は統一目標を掲げ、軍事演習や台湾周辺での空海活動を常態化させており、軍事的威圧を強化している。
米中間の戦略的競争が激化する中、米国は台湾支援を強化し、日本も日米同盟を通じて関与を深めている。G7首脳声明やNATOの戦略文書にも台湾海峡の平和と安定の重要性が明記され、台湾問題の国際化が進んでいる。日本はこの潮流の中で、外交的努力と防衛力強化を両輪として進める必要がある。
2-6. 国際化する日本の安全保障課題
台海情勢や中国・北朝鮮・ロシアの動向は、もはや日本単独の問題ではなく、国際安全保障全体の課題となっている。米国は「統合抑止」(Integrated Deterrence)戦略の下、日本や豪州、韓国など同盟・友好国との連携を重視し、多国間演習や情報共有を進めている。NATOやEUもインド太平洋地域への関与を強め、日本との安全保障対話や共同訓練を実施している。
このように、日本は従来の「専守防衛」姿勢を基礎に保ちながらも、多国間協力や抑止力の強化、多領域での能力向上を迫られており、防衛政策の質的転換が避けられない状況にある。
2-7. 総括
日本の伝統的安全保障体制は、戦後長く地域の平和と安定に寄与してきたが、現代の安全保障環境はそれを超える複雑さと緊迫感を伴っている。北朝鮮、中国、ロシアという三正面の脅威、そして台湾海峡情勢の緊張は、日本に即応性の高い防衛力と外交的巧緻さを同時に求めている。今後、日本は日米同盟を基軸にしつつ、多国間協力を深化させ、経済安全保障と防衛戦略を一体的に推進する必要がある。
3.日本新防衛政策與軍事發展
本節は、日本の新たな防衛政策と軍事力整備の方向性を、戦略的背景、政策転換の経緯、具体的な能力向上計画、同盟・多国間協力、経済安全保障との連動という多角的視点から詳細に分析している。
3-1. 戦略的背景と政策転換の必要性
冷戦後、日本は専守防衛を基盤としつつも、国際平和協力活動や周辺事態対応などで防衛力の役割を拡大してきた。しかし、近年は北朝鮮の核・ミサイル能力の飛躍的向上、中国の軍事的台頭と海洋進出、ロシアの極東地域での活動再活発化といった脅威が複合化し、安全保障環境は戦後最も厳しいと評される状況となった。これらの脅威は同時発生的かつ連動的に日本の安全保障を揺さぶっており、従来型の防衛姿勢では抑止力と対処力が不十分と判断された。
さらに米中戦略競争の激化、台湾海峡の緊張、サイバー・宇宙・電磁波領域での新たな戦争形態の台頭が、日本に多領域での防衛体制強化を迫っている。こうした背景から、日本は2022年末に国家安全保障戦略(NSS)、国家防衛戦略(NDS)、防衛力整備計画(DBP)を同時改定し、防衛政策の大規模な転換に踏み切った。
3-2. 新防衛政策の核心要素
(1) 反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有
最大の転換点は、従来憲法解釈で慎重視されてきた敵基地攻撃能力の保有方針決定である。これは、相手が武力攻撃を準備または実行する兆候が明確で、日本への攻撃が不可避な場合に限定し、抑止力の一環として運用される。米国の長距離攻撃能力や情報収集能力と連携し、日本独自のスタンドオフミサイル配備(12式地対艦ミサイルの長射程化、極超音速兵器開発など)を進める。
(2) 多領域統合防衛力
陸・海・空に加え、宇宙・サイバー・電磁波領域での優越確保を目指す。自衛隊の指揮統制体制を改編し、統合作戦能力を強化するほか、米軍とのC4ISR(指揮・統制・通信・情報・監視・偵察)ネットワーク共有を深化させる。
(3) 防衛費の大幅増額
2027年度までに防衛費をGDP比2%に引き上げ、総額43兆円規模を確保する計画。弾薬備蓄、燃料・部品調達、施設整備、兵站体制改善といった基盤的能力向上に重点投資する。
(4) 日米同盟の深化と多国間協力
米国との共同演習・情報共有の強化に加え、豪州、英国、インド、欧州諸国との安全保障協力を拡大する。特にクアッド(日米豪印)や日英伊による次世代戦闘機開発(GCAP)など、多国間の軍事技術協力が進展している。
3-3. 能力向上の具体的分野
(1) スタンドオフ防衛能力
長射程ミサイルの開発・調達(12式地対艦・対地ミサイル改良、トマホーク購入)により、日本本土から離島・外洋での抑止力を強化。
(2) 無人戦闘システム
無人機・無人艦艇を活用した監視・攻撃能力を向上。特に南西諸島周辺での持続的監視を可能にするため、無人機部隊の常時運用体制を構築。
(3) 宇宙・サイバー・電磁波戦
宇宙監視網の拡充、衛星通信の強靭化、サイバー防御即応部隊の増強、電子妨害・対電子戦能力の獲得を進める。
(4) 弾薬・兵站の強化
弾薬備蓄量を大幅増、補給拠点・輸送艦・空輸能力を拡張し、有事における持続戦闘能力を確保する。
3-4. 経済安全保障との連動
防衛産業基盤の強化は新戦略の柱であり、装備品の国内生産維持、輸出ルール緩和、重要物資のサプライチェーン確保を推進する。半導体、レアアース、エネルギーなど戦略物資の安定供給も国家防衛の一環として位置づけられた。
3-5. 実施上の課題
財源確保:防衛費増額に伴う増税・国債発行など財政負担が国民的議論を呼んでいる。
防衛産業の持続性:民間需要減退や採算性の低さから撤退する企業が増え、生産体制の維持が課題。
人員確保:少子化と人材競争激化により自衛官募集が難航、無人化・省人化の技術的対応が急務。
憲法解釈と政治的合意:反撃能力の行使条件や集団的自衛権の範囲を巡る解釈は依然として政治的論争の火種。
3-6. 総括
新防衛政策は、日本が戦後の安全保障ドクトリンを大きく変える歴史的転換であり、抑止力強化、多領域統合、同盟深化、経済安保連動という包括的戦略に基づく。背景には、中国・北朝鮮・ロシアの軍事的脅威と、米中戦略競争の長期化がある。これにより、日本は防衛力を質・量ともに飛躍的に拡充し、地域・国際秩序の安定に積極的役割を果たす方向に舵を切った。しかし、その実効性は財政・産業・人材面の課題を克服し、国民的支持を維持できるかにかかっている。
4.肆、小結
総括すると、日本の安全保障環境は、複雑かつ急速に変化しており、複数の脅威が同時進行的に存在している。北朝鮮の核・ミサイル開発、中国の軍事力増強と海洋進出、ロシアの極東地域での活動、そして台湾海峡の緊張は、いずれも日本にとって重大な安全保障上の挑戦である。これらの脅威は相互に関連し合い、日本の防衛政策に一層の柔軟性と即応性を求めている。
新たに策定された防衛政策は、従来の専守防衛の枠を超え、反撃能力の保有、多領域統合防衛力の構築、防衛費の大幅増額、日米同盟の深化、多国間安全保障協力の拡大を柱としている。この戦略転換は、日本が地域と国際社会の平和と安定に積極的に寄与する意思を示すものであり、同時に国内的には財政負担、人材確保、防衛産業基盤の維持といった課題の克服を必要としている。
最終的に、日本の安全保障の成否は、軍事力の強化と並行して外交努力、経済安全保障、国民的合意形成をいかに効果的に進められるかにかかっている。