(論文解説)戦略作戦における情報・宇宙支援の問題に関する米軍とその同盟国の見解(Министерство обороны Российской Федерации)
ЩЕРБАКОВ, Н.Б. and А.С. НИКУЛИН. “Взгляды руководства вооруженных сил США и их союзников на проблемы информационно-космического обеспечения стратегических операций.” Военная Мысль, no. 10, 2023, pp. 126-136.
ロシア連邦国防省の紀要から。ロシアから見た西側諸国となります。
20世紀後半の武力衝突の軍事技術的な特徴における主要な革新の一つは、核兵器の出現と並び、宇宙を軍事目的で利用することである。米国とソ連が宇宙目標を直接攻撃するために様々な宇宙兵器の開発と導入を試みたが、それは対衛星システム(衛星破壊兵器)の創設に限られた。このシステムは試験的な戦闘任務を経たものの、技術的、政治的、組織的な理由により、それ以上の発展を遂げることはなかった。
本稿では、宇宙技術が現代の軍事紛争において、兵器の有効性を単に向上させるだけでなく、作戦の性格や内容そのものを根本的に変革する重要な要素となっていることを論じている 。特に、ロシアによる特別軍事作戦において、米国が宇宙資産を用いてウクライナ軍を支援した事例は、この変革を象徴するものである 。現在、地球周回軌道上には数千もの多様な目的を持つ宇宙機(人工衛星)が機能しており、これを背景として米国およびNATOでは「情報宇宙支援」という新たな作戦(戦闘)支援の形態が現実のものとして確立された 。米軍では「宇宙支援」という用語が用いられるが、これは軍事技術的に「情報宇宙支援」と本質的に同じ内容を指す 。
この情報宇宙支援は、作戦や戦闘行動の軍事技術的な側面を大きく変容させる力を持つ 。現代戦に不可欠な高精度兵器の効果的な運用は、この支援なくしては実現不可能である 。宇宙技術の活用は、戦域全体を対象とする大規模な戦略作戦から、個々の部隊が行う戦術的な戦闘に至るまで、あらゆるレベルに及んでいる 。さらに、部隊や兵器の戦闘指揮においても、その空間的な範囲のグローバル化、情報伝達の速度、そして扱われる情報量といった面で、従来とは比較にならない質的な飛躍をもたらしている 。
情報宇宙支援の発展の歴史を遡ると、1990年代が大きな転換期であったことがわかる 。この時代に宇宙技術がまず民生分野で広く普及し、次いで米国を中心とする先進国の軍隊に導入されたことで、軍事紛争、特に戦域における部隊行動の包括的な支援のあり方が、加速度的に変化し始めた 。
情報宇宙支援という概念自体は、作戦支援の一形態として1960年代にその起源を持つ 。宇宙空間が持つ、特定の国家主権に縛られない治外法権性、地球全体を監視できるグローバルな観測能力、そして大陸間で大容量の情報を伝達できるといった、他のいかなる技術手段も持ち得ない独自の利点が、多くの国の軍事指導者の関心を集めた 。しかし、当時、宇宙の平和利用と並行して軍事宇宙プログラムを本格的に開発・実施できたのは、ソ連と米国という二大国に限られていた 。
初期の軍事宇宙資産の利用は、無制限の攻撃範囲と地球規模での適用が求められる戦略兵器の行動支援にほぼ限定されていた 。この段階では、宇宙から得られる情報の伝達速度は、まだ決定的に重要な要素とは見なされていなかった 。そのため、1990年代に至るまで、地上部隊の作戦を支援するという極めて重要な任務においても、宇宙資産が活用されるのは、ごく一部の限られたケースにとどまっていた 。
かつて、地上部隊への支援における宇宙資産の利用は、一部の重要な任務に限定されていた 。その主な理由は、当時の宇宙技術が未熟で高価であったこと、そして宇宙システムの性能が、特に戦術レベルで要求されるリアルタイムに近い速度での情報伝達という要件を満たせなかったためでである。このような制約があったにもかかわらず、米国では1983年にすでに陸軍宇宙コマンドが設立されており、海外に展開する部隊のために既存の宇宙資産の利用を調整するなど、初期の取り組みが行われていた 。
戦域における作戦で宇宙資産を本格的かつ大規模に活用するための条件が整ったのは、1990年代初頭となる 。この変化を牽引したのは、宇宙技術が民間分野で広く普及し始めたことであった 。その結果、「地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)」と名付けられた数百機もの非軍事衛星が持つ潜在的な能力が、軍事分野で利用可能な能力を大幅に上回るという状況が生まれた。この民生技術の飛躍的発展が、宇宙の軍事利用におけるパラダイムシフトの引き金となった。
今日、宇宙の軍事利用は世界的な広がりを見せており、本稿執筆時点で独自の軍事宇宙組織を保有している国は8カ国となる。具体的には以下の通り。
・ロシア: 航空宇宙軍隷下の宇宙軍(2015年8月1日設立)
・イラン: イスラム革命防衛隊の航空宇宙軍(1985年9月1日設立)
・中国: 人民解放軍戦略支援部隊隷下の宇宙軍(2016年1月1日設立)
・インド: 国防宇宙局(2018年9月28日設立)
・イギリス: 王立空軍(RAF)内の第11グループ(2018年11月1日設立)
・米国: 新たな軍種としての宇宙軍(2019年12月20日設立)
・フランス: 空軍宇宙コマンド(2019年7月14日設立)
・イスラエル: 国防軍空軍内の宇宙部隊。独立した組織ではないものの1988年11月1日から機能し、28基の衛星を運用している
このような背景に基づき、筆者らは新たな作戦(戦闘)支援の形態である「情報宇宙支援」を次のように定義することを提案している 。それは、「戦略的宇宙ゾーンにおいて、特殊な機器を搭載した宇宙プラットフォームの管理・運用部隊と、宇宙情報の利用者(中央軍事管理機関、各軍種、戦略コマンドなどの宇宙組織に所属)が、軍全体の利益のために、宇宙複合体、システム、および軌道上の衛星群をその作戦上(目的に応じた)の用途に従って使用することを目的として行う、調整され、相互に関連した一連の行動および措置の総体」と定義される。この定義は、宇宙資産の運用が単なる個別技術の利用ではなく、多様な組織が連携して行う体系的な軍事活動であることを明確に示している。
つまり、宇宙の軍事利用が、かつての技術的・コスト的制約を乗り越え、1990年代の民生技術の発展を契機として大きく変貌を遂げた過程を明らかにしている。この変化は、世界各国の軍隊における専門的な宇宙組織の設立を促し、最終的に「情報宇宙支援」という新たな軍事概念の確立へと繋がった。
現代の主要国軍隊で実施されている情報宇宙支援は、多岐にわたる具体的な活動から構成されている。本稿では、これらを9つの主要な種類に分類している。
①弾道ミサイルの発射を探知し、その弾頭の落下地域を予測してミサイル攻撃警報を発する活動である 。これは「赤外線による発射探知」とも呼ばれる 。
②宇宙空間からの偵察と監視であり、敵のオブジェクトや部隊を発見し、その状態や移動を継続的に追跡する 。また、指揮官の決定に基づき、自軍の配置や移動を監視し、敵に発見される可能性のある兆候(暴露兆候)を洗い出すことも含まれる 。
③地理空間測位であり、敵の施設や部隊への攻撃時に正確な目標指示を行うため、地心座標系における目標の正確な位置を特定する 。
④大陸間(戦略)宇宙通信の提供である 。
⑤戦闘指揮、作戦・戦術レベルの通信、およびデータ伝送の支援であり、米国の「スターリンク」のような衛星インターネット網を基盤としたグローバル情報ネットワークの構築が含まれる 。
⑥国家の特別機関(諜報機関など)が利用するための低軌道衛星通信システムの構築である 。
⑦グローバル宇宙航法であり、自軍の兵器を含む移動体の時空間的な位置を正確に決定するために用いられる 。
⑧地形測地および地図作成支援であり、デジタル地形図を作成する 。特に、巡航ミサイル(例えばTERCOMシステム)が地形を追随して飛行する際の補正データとして用いられる、高精度デジタル地図の作成は特別な任務とされる 。
⑨気象支援であり、自軍に対して正確な気象データとその予測を提供する 。
さらに、これらとは別に、ミサイル防衛や宇宙複合体で使用される長距離アンテナシステムの調整も重要な任務として挙げられている 。特筆すべきは、米国が現在、ウクライナ軍を支援するにあたり、上記のうちミサイル攻撃警報とアンテナ調整を除く、ほぼ全ての情報宇宙支援を提供しているという点である 。
このような情報宇宙支援の概念は新しいものではなく、ソ連において先駆的な実践例が見られる。ソ連で初めて、戦域の統合部隊に対する情報宇宙支援の一連の措置が体系的に実施されたのは、1981年9月4日から12日にかけて行われた戦略演習「ザーパド-81」であった 。この演習は、ソ連邦元帥N.V.オガルコフの指揮下で行われ、その規模は第二次世界大戦における大規模作戦に匹敵するものであった 。
この演習の特筆すべき点は、わずか3日間で3基もの軍事衛星を打ち上げたことである 。その目的は、仮想的に破壊された衛星を迅速に補充する能力と、軌道上の衛星群を増強することによって、大陸戦域における非核の戦略攻撃作戦を遂行する部隊に対し、複数の種類の宇宙情報を同時に取得・活用させる能力を検証することにあった 。
情報宇宙支援が偵察、通信、航法、測地、気象支援など多岐にわたる具体的な活動から構成されることを明らかにしている。そして、その概念は現代の紛争で実践されているだけでなく、1981年のソ連の大規模演習「ザーパド-81」に見られるように、冷戦時代から体系的な軍事活動として研究・実践されてきた歴史的背景を持つことが示されているのである。
1980年代から2000年代初頭にかけての、ソ連は大規模演習を通じてその可能性を追求し、米国は実戦で経験を積んだものの、両国ともに当時の技術的・組織的な限界に直面した。
1981年の戦略演習「ザーパド-81」は、ソ連による大陸戦域での非核戦略攻撃作戦において、複数の宇宙情報を統合利用する能力を検証する野心的な試みであった。しかし、この演習の結果、当時のソ連が保有する軌道上の衛星群では、大規模な戦略作戦を十分に支援するには能力が不足していることが明らかになった。
当時の宇宙技術には、宇宙資産の潜在能力を最大限に引き出すことを妨げる、いくつかの深刻な限界が存在した。具体的には、以下の点が課題として挙げられる
・宇宙資産の利用を、方面軍や米国の作戦コマンドといった、より戦術に近いレベルまで浸透させることができなかったこと
・必要な量の宇宙情報を、リアルタイムに近い速度で部隊に届けることが技術的に不可能だったこと
・宇宙偵察・監視は、広大な範囲をカバーし、多様な目標物、軍事技術、部隊の移動を高速で処理・認識する能力に欠けていたこと。
・敵の目標を破壊するための目標指示や、自軍の航法支援に必要な地理空間測位の精度が不十分であったこと
・作戦・戦術弾道ミサイルの発射を適時に探知し、部隊や住民に警報を発することもできなかったこと
・放射線を含むあらゆる種類の電波信号とその構造を解明する能力が不足していたこと
これらの当時未解決だった問題が原因で、ソ連では地上部隊を支援するための宇宙資産の利用に関する研究開発が、その後長年にわたって停滞することとなった。
一方、米国では1991年まで、「ザーパド-81」に匹敵するような、宇宙資産を広範に利用した大規模な地上軍演習は行われず、米国が情報宇宙支援の本格的な実戦経験を積んだのは、1991年の「砂漠の嵐」作戦(湾岸戦争)と2003年のイラク戦争が初めてであった 。
これらの経験は概ね肯定的な評価がなされたものの、多くの問題点も浮き彫りとなった 。その成功は、米国が「比較的弱い敵と限定的な戦争を一つだけ戦っている」という特殊な条件下で、かつ戦略的なものを含む国家のあらゆる宇宙リソースを作戦に投入できた場合にのみ可能という限界であった 。
最大の課題は、多国籍軍が作戦・戦術レベルおよび戦術レベルで活用できる情報宇宙支援の手段を保有していなかったことである 。当時はこれらの任務に対応する軍事衛星群が存在せず、本来は別目的の戦略的な宇宙資産を転用して対処していた 。また、衛星と通信するための移動式地上局や、情報宇宙システムを運用するための訓練された人材が不足しており 、現場の戦闘指揮官たちも宇宙技術の活用に習熟していなかった 。その結果、作戦に割り当てられた宇宙資産の潜在能力は、半分以下しか発揮されなかったと結論付けられている。
1980年代から2000年代初頭にかけて、ソ連は先駆的な演習で情報宇宙支援の可能性を模索したものの技術的限界に阻まれ、米国は実戦を通じてその有効性を証明しつつも、特に戦術レベルでの支援体制の欠如という組織的な課題に直面した。両国の経験は、情報宇宙支援が真に効果を発揮するためには、技術の成熟と、それを使いこなすための組織的な整備が不可欠であることを示している。
「砂漠の嵐」作戦(1991年)やイラク戦争(2003年)といった実戦経験、特に戦術航空による火力支援において、米国は宇宙資産利用の劇的な有効性を認識した 。衛星による目標指示システムの導入は航空戦力の効果を飛躍的に高め、高精度攻撃が可能な戦闘機の数は1991年の98機から2003年には600機へと増加した 。これらの戦訓を基に、米陸軍司令部は2004年から2006年にかけて、地上部隊支援における宇宙資産の利用について包括的な分析を実施し、情報宇宙支援の改善策を検討した 。その成果として報告書が発行され、「2015-2024年の期間における米国地上軍のための宇宙資産開発コンセプト」が策定されたのである 。
この「宇宙資産開発コンセプト」は、単に米国のための文書ではない。これは、米軍の作戦における情報宇宙支援に関する考え方の体系を網羅的に示しており 、独自の経験を持たないNATO加盟国や、米国製兵器を使用し米国の士官教育を受ける他の多くの国々にとっても、事実上の指針となっている 。したがって、このコンセプトの主要な規定を理解することは、米国を中心とする西側諸国全体の軍隊における情報宇宙支援へのアプローチを把握する上で極めて重要である 。米陸軍指導部は、このコンセプトに掲げられた目標を達成することにより、2024年までに戦場で敵に対する「完全な情報優位」を確立できると確信している 。同コンセプトでは、情報宇宙支援を二つの主要な方向性で実施することが定められている 。
第一の方向性は、戦域における戦略作戦の全段階を通じた、部隊行動への包括的な支援である 。これは、戦域外からの戦略的な部隊輸送や作戦配置といった初期段階から始まり、戦闘を経て、最終的な安定化作戦や平和への移行に至るまで、作戦のあらゆるフェーズを対象とする 。この枠組みの中で、作戦に参加する地上軍、航空戦力、その他の軍種・兵種の部隊行動に対し、情報宇宙支援をどのように提供するかの手順が詳細に規定されている 。
第二の方向性は、米国地上軍が定める6つの「機能的コンセプト」の枠組みに沿った部隊行動への宇宙支援である 。この機能的コンセプトは、ロシア軍における「作戦任務」に相当するものであり、以下の6つから構成される 。
①戦闘指揮
②継続的な偵察(監視)
③部隊の移動と機動(作戦的および戦術的)
④敵への火力攻撃
⑤自軍の継続的な防護
⑥部隊への恒常的な包括的支援
重要なのは、これら6つの機能的コンセプトのそれぞれに、宇宙支援がどのように貢献するかが明記された「宇宙セクション」が設けられている点である 。これにより、宇宙支援が軍事作戦のあらゆる側面に不可欠な要素として体系的に統合されていることが示されている。
米国はイラク戦争などの教訓から情報宇宙支援の重要性を再認識し、「2015-2024年 宇宙資産開発コンセプト」という形でその体系化と将来像を明確にした。このコンセプトは、作戦の全段階と全ての軍事機能に宇宙支援を統合することで、2024年までの情報優位確立を目指す壮大な計画であり、米国のみならず西側諸国の軍事ドクトリンに大きな影響を与えるものである。
米国の「2015-2024年 宇宙資産開発コンセプト」は、米軍の6つの基本的な機能的コンセプト(戦闘指揮、継続的な偵察、部隊の移動と機動、敵への火力攻撃、自軍の防護、部隊への包括的支援)に沿って、情報宇宙支援能力を体系的に向上させるための詳細なロードマップを定めている 。
このコンセプトは、目標達成に向けた段階的なアプローチを採用しており、その計画は「現在(2006-2007年)」、「中期(2008-2013年)」、「長期(2014-2024年)」という3つの期間に分けて策定されている 。この枠組みの中で、地上軍(СВ)の能力を向上させるために、7つの主要な宇宙情報システムの開発が具体的に規定された 。その内容は以下の通りである:
・非戦略弾道ミサイルの発射探知、弾頭の落下地域予測、ミサイル攻撃警報システム
・宇宙偵察・監視システム
・大陸間(戦略)宇宙通信システム
・衛星ベースのグローバル情報ネットワークを活用した戦闘指揮、作戦・戦術通信、データ伝送システム
・部隊への正確な時刻情報提供を目的としたグローバル宇宙航法システム
・気象支援システム
・地形測地・地図作成支援システム
特に、計画の第三段階(2014-2024年)においては、低軌道に安価な単機能のミニ・マイクロ衛星で構成される専門の「宇宙クラスター」を構築するという先進的な構想が盛り込まれている 。
このコンセプト策定の背景には、2003年のイラク戦争で得られた重要な教訓がある。当時、米軍は戦域での偵察任務を遂行する上で、軍事偵察衛星の数が不足するという課題に直面した 。この問題を解決するため、軍事衛星よりは精度が劣るものの、民間の商業「地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)」が大規模に活用された 。その結果、分解能1~2メートルという民間衛星の能力でも、戦術レベルの偵察任務を遂行するには十分であることが判明した 。一方で、戦略偵察衛星が持つ極めて高い解像度は、戦術レベルの任務に対しては過剰(избыточны)であることも明らかになった 。この事実は、同ページに掲載された、戦術・戦略偵察で必要とされる分解能を比較した表によっても裏付けられている 。
米国の宇宙資産開発コンセプトは、具体的な開発計画と段階的アプローチを定め、特にイラク戦争の教訓から民間衛星の活用を重視している。これにより、高価な軍事専用衛星に過度に依存することなく、柔軟かつコスト効率の高い方法で戦術レベルの情報宇宙支援能力を抜本的に強化することを目指しているのである。
現代の軍事作戦において、多数存在する民間の地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)は、事実上、軌道上にあらかじめ配置された戦術偵察衛星の「動員予備軍(мобилизационный резерв)」と見なされている 。これらの民間衛星は、偵察、精密な地理空間測位、目標指示システムの基盤を形成する能力を持ち、適切な組織化と計画があれば、ごく短期間で軍事目的に転用することが可能である 。この「民間宇宙資産の動員」という概念は、2003年のイラク戦争において既に試され、その有効性が確認されている 。
米国が策定した宇宙資産開発コンセプトは、今や構想段階を終え、ウクライナにおける軍事支援という形で大規模に実践されている 。米国とウクライナの軍事宇宙分野における協力は、特別軍事作戦が開始される2022年2月以前から始まっていた 。そして2022年3月4日、ホワイトハウスは、ロシア軍の動向に関する偵察情報をリアルタイムでウクライナに提供することを公式に発表した 。この提供される情報の大部分は、米国の宇宙偵察能力によって収集されたものである 。
この支援活動の司令塔となっているのが、ドイツのラムシュタイン空軍基地に設置されたNATO宇宙センターである 。これは、1991年の湾岸戦争時にサウジアラビアに設立された宇宙調整センターをモデルにしている 。しかし、NATO自体は独自の衛星、管制施設、情報受信局を保有していないため、このセンターは事実上、米国の機関として機能しており、その情報源は加盟国、とりわけ米国の国家衛星に依存している 。イラク戦争(2003年)では、投入された約60基の衛星のうち軍事偵察衛星はわずか5基で、残りは民間の商業衛星であった 。現在のウクライナ支援においては、米国はおそらく軍事衛星を直接的には使用せず、民間の国家衛星および商業衛星のみに限定して運用していると推測される 。
ウクライナへの情報宇宙支援の能力を評価する際、関与する衛星の数を単純に数えることは適切ではない 。重要なのは、個々の衛星ではなく、システムとして機能する「軌道上衛星群」であり、その能力である 。また、ウクライナ支援のためだけに特別に編成された専用の衛星群というものは存在しない 。実際に活用されているのは、以下の3つの既存の衛星システムである。
①Navstar (GPS): 全地球測位システム
②Starlink: 広帯域衛星インターネット通信システム
③多数の商業地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ): 偵察・監視システム
民間衛星を軍事目的に動員するという米国のドクトリンは、ウクライナ支援という形で大規模に実践されている。その実態は、特定の衛星ではなく、航法、通信、偵察を担う複数の既存の衛星群をシステムとして統合運用するものであり、現代における情報宇宙支援の新しいパラダイムを明確に示している。
ウクライナへの情報宇宙支援は、米国が湾岸戦争(1991年)やイラク戦争(2003年)で得た経験を基盤として構築されている 。その司令塔として機能しているのが、ドイツのラムシュタイン空軍基地に設置されたNATO宇宙センターである 。この組織は、1991年にサウジアラビアのプリンス・スルタン空軍基地に設立された宇宙センターをモデルとしている 。しかし、NATO(北大西洋条約機構)自体は独自の衛星群、管制手段、あるいは衛星からの情報を受信する地上局を保有しておらず、その活動は加盟国、とりわけ米国が提供する国家衛星からの情報に全面的に依存している 。したがって、このセンターはNATOの機関でありながら、事実上は米国の機関として機能しているのが実態である 。
支援に使用される衛星の構成も、過去の戦訓を反映している。2003年のイラク戦争では、多国籍軍の情報宇宙支援のために約60基の衛星が使用されたが、そのうち軍事偵察衛星はわずか5基であり、残りは民間の商業通信衛星や地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)であった 。現在のウクライナ支援においては、この傾向がさらに顕著になっていると見られる。米国はおそらく、自国の軍事衛星をウクライナ支援のために直接使用することはせず、民間の国家衛星や商業衛星のみに限定して運用している可能性が高い 。
このような支援の能力を評価する際、関与する衛星の数を単純に数えることは適切ではない 。その理由は主に3つある。第一に、現代の宇宙利用において重要なのは個々の衛星ではなく、多数の衛星が一体となって機能する「軌道上衛星群」というシステム全体だからである 。第二に、ウクライナ支援のためだけに特別に編成された専用の衛星群というものは存在しない 。第三に、実際に活用されているのは、既存の複数のグローバルな衛星システム群を組み合わせたものである 。具体的には、以下の3つのシステムがウクライナ軍の情報宇宙支援の中核をなしている。
①Navstar(GPS): 米国の全地球航法衛星システム 。
②Starlink: イーロン・マスクの企業が運営する広帯域衛星インターネットシステム 。
③民間地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ): 複数の企業が所有する、画像偵察、電波・無線技術偵察などを行う衛星群 。
ウクライナへの情報宇宙支援は、米国が過去の戦訓に基づき、NATOの枠組みを利用して自国の宇宙資産を統合運用する形で実現されている。その本質は、特定の衛星の数ではなく、航法・通信・偵察という異なる機能を持つ複数の既存の衛星システムを有機的に連携させる能力にあり、特に民間宇宙資産がその中核を担っているのである 。
ウクライナ軍への情報宇宙支援を構成する個別のシステムは、それぞれが戦場で決定的な役割を果たしている。特に、航法支援を担う「Navstar(GPS)」と、通信・指揮支援を担う「Starlink」の貢献は著しい。
アメリカの全地球航法衛星システムであるNavstar(通称GPS)から提供される宇宙情報は、世界の先進国が保有する長距離高精度兵器(VTO)の照準システムの機能基盤を成している 。高精度兵器の重要性は年々増しており、2003年のイラク戦争では、使用された兵器の95%がこのカテゴリーに属していた。これは、1991年の「砂漠の嵐」作戦時のわずか7%から飛躍的な増加である 。現在、NATO諸国からウクライナに供与される兵器システムの大部分には、GPS受信機が標準で組み込まれている 。その効果は、MLRSやHIMARSといった多連装ロケットシステムによる攻撃で明確に示されている。これらのシステムが使用する高精度誘導弾は、ロシアの防空システムに迎撃されない限り、GPS誘導によって目標からの逸脱が5メートル以内という驚異的な命中精度を達成する 。また、ウクライナ軍が使用する多くの無人航空機(UAV)にもGPS受信機が搭載されている 。
一方、米国の衛星ブロードバンドインターネットシステム「Starlink」の軍事利用は、ウクライナ軍の戦闘指導における全く新しい要素となっている 。Starlinkの地上基地局は、最も可能性が高いものとしてポーランドとルーマニアの領内に設置されており、そこからウクライナの大部分で広帯域インターネットアクセスを提供している 。さらに、ウクライナ西部には移動式の地上ゲートウェイが1基設置されているとの情報もある 。Starlinkは公式には民間システムとされているが 、その軍事的価値は計り知れない。「ワシントン・ポスト」紙の報道によれば、この宇宙通信網はウクライナ軍の途切れることのないデータ伝送を保証している 。具体的には、ペンタゴンが契約した商業リモートセンシング衛星が収集した偵察情報(ロシア軍の移動分析など)や、NATO司令部からの指令が、Starlinkシステムを通じてウクライナ軍の各部隊にある端末へ直接送信されている 。
Starlinkは、ウクライナ軍の戦術レベルに至るまでの戦闘指揮、通信、データ伝送システムの基盤を形成している 。このシステムは、戦闘環境下で高い抗堪性と信頼性を示し、西側諸国から供与される様々な兵器の情報システムとも円滑に連携している 。GPSが高精度兵器の「目」として機能する一方、Starlinkは情報と指揮を伝達する「神経」として機能し、これら民間由来の宇宙システムが現代の軍事作戦の根幹を支えているのである。
ウクライナにおける情報宇宙支援の中核を担うStarlinkシステムは、西側諸国から供与される多くの兵器に搭載された情報システムと連携する能力を持っている 。この巨大な衛星コンステレーションの歴史は、2018年2月22日の最初の衛星打ち上げから始まった 。その発展は目覚ましく、2020年12月には最初の軌道シェルが完成し、機能を開始した 。この第一軌道シェルは、高度550kmに72の軌道面を設け、各面に22基の衛星を配置することで、合計1584基の衛星から構成されている 。
Starlinkの計画はさらに壮大であり、最終的には軌道上の衛星数を12,000基にまで増やすことが予定されている 。2022年4月22日の時点で、既に3053基が打ち上げられ、そのうち2796基が軌道上で運用されている 。このシステムは、2022年時点で世界39カ国で利用されている 。
このシステムを地上で利用するための端末(加入者ポイント)は、Ku、Ka、Vバンドの周波数帯を使用する先進的なフェーズドアレイアンテナを採用している 。ウクライナへの配備も大規模に進められており、「ワシントン・ポスト」紙の報道によれば、2022年4月までに約5,000台の端末が届けられた 。同年中には、供給された端末の総数は最大で30,000台に達したとされる 。そのうち約4,000台がウクライナ軍に配備されており、これは大隊あたり3台という計算になる 。過酷な戦場での使用を反映し、毎月の損耗は約500台にのぼるとされる 。コスト面では、端末1台あたりの価格が500ドル、月額の利用料は100ドルと報告されている 。
このような特定の民間システムの台頭は、より大きな文脈の中で捉える必要がある。現在、世界には71の国家宇宙機関と5つの国際宇宙機関が存在する 。そして、2021年初頭の時点で軌道上で機能している約2,700基の衛星(StarlinkとOneWebを除く)の内訳を見ると、民間宇宙資産の優位性は明らかである 。そのうち、偵察能力を持つ地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)が905基(約30%)を占めている 。これは通信衛星(約45%)に次ぐ数である 。一方で、純粋な軍事衛星の総数はわずか480基(約18%)に過ぎない 。
Starlinkは具体的な規模とコストを持つ現実的なシステムとしてウクライナ軍の通信を支えている。そして、より広い視点で見れば、世界の軌道上の資産は軍事衛星よりも民間衛星、特に偵察能力を持つ地球リモートセンシング衛星が数的に圧倒している。この事実は、民間宇宙資産の軍事利用が、現代の紛争において不可避かつ極めて強力な選択肢となっていることを明確に示している。
民間宇宙セクターは、現代の軍事紛争において巨大なポテンシャルを秘めている。なぜなら、直接的な攻撃を目的とする衛星を除けば、ほぼ全ての衛星は軍事目的と民生目的の両方で同等に、かつ効果的に使用できるからである 。民間商業衛星の軍事利用、特に宇宙偵察における活用は、2003年のイラク戦争の時と比較して、その規模も質も大幅に拡大・高度化している 。注目すべきは、この間、米国防総省が保有する純粋な軍事衛星の数自体は変化していないことである 。
米国は、自国の軍事衛星の数を増やす代わりに、民間企業との契約を通じて偵察能力を確保するという戦略を推進してきた。この動きはウクライナでの紛争が始まるずっと以前から始まっており、米国防総省は2019年の段階で、地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)を所有する企業と100件以上の商業契約を締結していた 。これにより、総数400基にのぼる民間衛星群が利用可能な状態にあった 。契約の相手方は、西側諸国で登録されているほぼ全ての関連企業に及び 、その一例として、200基以上の偵察衛星を保有するアメリカの企業Planet Labsが挙げられる 。
ウクライナに関する情報収集は、米国防総省だけでなく、他の米国やNATOの機関も関与する多層的な体制で行われている 。例えば、米国国家地球空間情報局(NGA)の幹部は、「100社以上の企業と協力し、少なくとも200基の商業衛星からの画像を使用している」と述べている 。
これらの民間衛星が行う偵察(КА ДЗЗ)は、軍事偵察と同様に、光学(可視光)、赤外線、紫外線、そして電波といった多様な周波数帯で実施される 。電波帯での偵察には、天候に左右されないレーダー偵察や無線技術偵察も含まれる 。全ての民間衛星が高性能というわけではなく、約半数は解像度が低く、広範囲の概観調査にしか適していない 。しかし、残りのうち約3分の1は精密な地理空間測位が可能であり、その数だけでも130基以上にのぼる 。
ウクライナでの情報宇宙支援の具体的な流れとして、Starlinkの役割が改めて強調されている。Starlinkはウクライナ軍の戦闘指揮とデータ伝送における「新しい要素」であり、ポーランドやルーマニアにあるとみられる地上局を通じて機能している 。そして、ペンタゴンが契約した民間偵察衛星が収集した情報が、このStarlink網を経由してウクライナ軍の前線部隊に届けられているのである 。
米国は平時から民間企業との広範な契約を通じて膨大な数の商業偵察衛星を「準軍事資産」として確保する戦略を推進してきた。ウクライナでの支援活動は、この戦略が実行に移されたものであり、多層的な情報収集とStarlinkによる高速データ伝送を組み合わせることで、民間宇宙のポテンシャルを最大限に引き出す新しい戦争の形態を実践していると言える。
精密な地理空間測位が可能な民間の地球リモートセンシング衛星(КА ДЗЗ)は130基以上存在し 、現代の宇宙偵察において重要な役割を担っている。過去の戦争や武力紛争の経験から、宇宙偵察における重要な課題の一つは、本物の軍事目標と巧妙に作られた偽の目標をいかにして区別するかという点であることが示されている 。単一の周波数帯(電磁波のスペクトル)で撮影された画像だけでは、この識別は不十分な場合が多い 。
この課題を克服するため、民間衛星は高度な技術を用いている。その一つが、一つの目標を同時に複数の周波数帯で撮影する「マルチスペクトル分析」である 。さらに、撮影した画像を、過去に特定の周波数帯で撮影され、民間企業のアーカイブに保存されている膨大な「イメージ(シグネチャ)」と比較することで、識別精度は劇的に向上する 。この手法により、夜間、悪天候(雲、降水)、砂嵐、塵、煙といった偵察を妨げる様々な要因の影響を大幅に低減し、質の高い情報を得ることが可能となる 。通常、可視光とレーダーという2つの周波数帯に限定されがちな軍事偵察衛星と比較して、より多様な周波数帯を利用できる民間衛星は、この点で優位性を持っている 。
このような民間衛星の能力は、ウクライナでの紛争において大規模に活用されている。テキサス大学のトッド・ハンフリーズ教授の分析によれば、ロシアによる特別軍事作戦の開始後、米国は1日に少なくとも50機の異なる民間偵察衛星を、光学電子偵察およびレーダー偵察のために使用している 。これらの衛星の多くは、一度に40〜60kmの幅を観測する能力を持っている 。ウクライナで戦術的宇宙偵察のために投入されている民間衛星の数(約50〜60機)は、2003年のイラク戦争時に投入された60機という数とほぼ同等である 。この規模の衛星群を運用することで、特定の関心地域の上空を平均して15分ごとに衛星が通過するという、極めて高頻度な監視体制が実現されている 。
その運用は非常に柔軟である。特定の日にどの衛星を使用するかは、軍からの要請に基づき、請負業者である民間企業が自社の衛星群の軌道配置などを考慮して決定する 。つまり、毎日決まった衛星が使われるのではなく、様々な企業の異なる衛星のリソースが日替わりで動員されるという、ダイナミックな運用が行われているのである 。
民間偵察衛星の強みは単なる数の多さだけでなく、マルチスペクトル分析といった高度な技術を用いて情報の質を高め、偽目標を識別する能力にある。ウクライナでの実践は、米国が多数の民間衛星を日替わりで柔軟に活用し、高頻度かつ高品質な戦術偵察を継続的に実施する能力を確立していることを明確に示している。
米国がウクライナで収集している膨大な宇宙偵察情報は、戦略的な管理の下で、制限を付けて提供されている。米国が収集した情報が全てウクライナ側に提供されているわけではなく 、その背景には政治的、軍事的、技術的、そして組織的な理由が複数存在する 。
技術的・組織的な制約として、まずウクライナ側には、外国の衛星から送られてくる大量の偵察情報を直接受信し、処理し、部隊に伝達するための地上インフラが存在しない 。また、米国も自国の移動式情報受信局をウクライナ領内に展開していない 。このため、全ての偵察情報は一度ドイツのラムシュタイン空軍基地にあるNATO宇宙情報センターに集約される。そして、そこで担当責任者の判断によって情報がフィルタリングされ、「дозированно(ドーズド、すなわち量を調整して小分けに)」された上で、Starlink網を通じて特定の利用者(ウクライナ軍の部隊など)にのみ提供されるという、中央集権的な管理体制が敷かれている 。
提供される情報の質にも意図的な差が設けられている。ウクライナに提供される情報の大部分は、目標の位置精度が数十メートル程度の「обзорной(概観的)」なものであり 、これは移動中の部隊や陣地内の火砲を発見するには十分な精度である 。一方で、高精度な地理空間測位情報は、ごく一部の重要な攻撃作戦に限定して提供される 。その例として、ベルゴロドの石油基地、エレノフカの拘置所、ヘルソン近郊のアントノフスキー橋への攻撃が挙げられている 。
このような高精度情報の提供は、単なる支援にとどまらず、事実上、米国によるウクライナ軍の行動管理に等しい意味を持つ 。ウクライナ国防省情報総局の高官ヴァディム・スキビツキー氏が英国紙「The Telegraph」に語ったところによると、ウクライナ軍はHIMARSのような米製高性能兵器を使用する前に、米国側と「協議(консультируются)」を行っている 。同氏によれば、米国当局者は直接的な照準情報(наведения)の提供は否定しているものの、米ウクライナの情報機関職員間で行われる協議を通じて、ワシントンは自らが不適切と判断した目標への攻撃を中止させることが可能である 。これは、米国が作戦の可否そのものをコントロールしている実態を示唆している。
本稿の結論として、宇宙技術はもはや単に通常兵器の有効性を高めるツールではなく、作戦や戦争の軍事技術的な内容そのものを根本から変える戦略的要素となった 。米国を中心とする西側諸国の軍事ドクトリンは、あらゆるレベルの作戦で宇宙技術を利用することを前提としており、特に紛争に際しては、自国のみならず同盟国のものも含む、民間の国家衛星や商業衛星を大規模に動員することが基本となっている 。ウクライナでの事例は、この新しい戦争の形態が現実のものであることを明確に示している。
ロシアとしては、ウクライナの背後にいるアメリカの支援を意識しており、かつNATOは対ロシア戦については少なくとも官民挙げてC4ISRに宇宙を活用し、支援するであろうことを示唆していますね