第7章 ついに世界統一!? レオンの最終決断!
オレは今、街の中央広場に立っている。目の前にはいつの間にか組み立てられた、妙に立派な演壇。それを取り囲むように、世界中から集まったかと思えるほど多種多様な人々がひしめいている。
エリシアやグラハム、ルカはもちろん、帝国や諸小国の大使、冒険者ギルドや商業ギルドの代表たちまで勢ぞろい。なんだこれは、まるで“世界会議”みたいな雰囲気じゃないか。
演壇に上がるよう促されたオレは、少し前まで湯上がりで髪が濡れている。朝イチで温泉に浸かっていたら、急に「レオン様、至急広場へ!」なんて呼び出しをくらったのだ。
状況を聞くと、どうやら「世界統一の最終決断をしてほしい」なんて無茶苦茶な話が持ち上がっているらしい。
いやいや、そんな大仕事、スローライフ志望のオレには似合わないぞ……と言いたいが、ここまで大勢が注目しているのを目の当たりにすると、すぐには逃げ出せない。
「まさか、あんたが“新たな世界の頂点に就く”なんて話になるとはねぇ」
グラハムがにやりと笑って肩をすくめる。近くで待機している彼の部下——連邦軍の精鋭たち——も、何やら晴れがましい顔をしている。どうやら軍も納得ずみらしいが、オレの本音は複雑だ。
「おいおい、オレはただ温泉に浸かってのんびりしたいだけなのに……世界を統一なんて物騒な響きすぎるだろ?」
そうぼやくと、エリシアが前に進み出て、きっぱりした口調で言う。
「逆よ、レオン。誰も戦争をしたいわけじゃない。今や王国が崩壊寸前で、帝国ももはやあなたの方針に従うしか道がなくなっている。各国もアインハルト連邦を中心にひとつにまとまることで平和と繁栄を手にしたいのよ。争いじゃなく、統一の名のもとに世界を救おうとしてるわけ」
なるほど、戦って征服するわけじゃなく、各国が自分からこっちに服している状況——いわゆる「お願いだからまとめてください!」状態らしい。実際、この連邦の紙幣や技術、軍事力は圧倒的で、バカ王の王国も崩れかけ、帝国も一枚岩じゃない。ならば「レオン様に従えば平和になる」と考える国が増えるのも当然か……。
「私たちも本気だ。あなたにはぜひ“世界統一”の最終決断をしてほしい」
エリシアが続けると、あちこちで拍手と歓声が上がる。帝国の大使が「レオン様を最高指導者として推挙する!」などと声を張り上げ、小国の領主や商人たちも次々と同調の声を上げる。
「レオン様が世界をまとめれば平和が続く!」とか「ここで決断してもらえれば世界経済は安泰だ!」など、好き勝手に煽られている気がするが、ここで「やめろ、解散!」と言えば、かえって大混乱が起きそうだ。
「……って、オレをこれ以上神格化させる気か? ただの温泉好きだぞ、オレは」
弱気にぼやくと、横にいたルカが興奮まじりに声を飛ばす。
「何をおっしゃるんですか! レオンさんがここまで牽引してきたから、魔導技術も世界に広がり、温泉エネルギーでインフラ革命が起きてるんですよ。ここで世界を統一すれば、さらに研究開発が進んで、みんなが恩恵を受けられますよ!」
「そ、そうは言ってもなあ……」
うーん、オレが拒否してゴロゴロしてたら、世界が落ち着かないのか? あまり実感が湧かないが、周囲が必死に「頼む!」と懇願してくるし、実際に難民の受け入れとか世界連盟の交渉なんかを見れば、誰かが最終的な舵を取らなきゃ混乱は続く。エリシアやグラハム、ルカがそれぞれ役割を担っているものの、やはり“象徴的リーダー”が必要ということなのかもしれない。
広場をぐるりと見渡す。人々の瞳は期待で輝き、未来への希望を宿している。ある者は王国から逃げ、ある者は帝国から寝返り、ある者はただ平和な生活を求めてここにやって来た。全員が「レオン様が統一してくれれば、昔のような戦乱はなくなる」と信じてるのだ。
……オレにできるのか? いや、オレ自身に世界を管理する才覚があるとは思えないが、仲間たちが全力で支えてくれれば何とかなるかもしれない。
「レオン様、お聞き下さい!」
声を上げて前に出たのは、かつて王国の貴族として仕えていた中年の男だ。追放当初は偉そうにふんぞり返ってた輩とも同種なのに、いまやすっかりここで働き、再出発を果たしている。
「私のように王国から逃げてきた者は数え切れません。もしあなたが世界をまとめてくだされば、もう二度とバカ王のような圧政に苦しむこともない。お願いします、世界を、いや私たちをお救いください!」
さらに帝国の大使や商業連合のリーダーらしき人物も同時に叫ぶ。
「帝国は分裂の危機です。あなたが決断してくれれば、各派閥も争いをやめて手を取り合うはず。どうか、その力を貸してください!」
「商人たちは王国崩壊による混乱を恐れています。アインハルト連邦が世界標準の通貨体制を確立してくれるなら、もう動乱に悩まされずに済みます!」
なんというか、みんなの声が一斉に「レオン様が世界をまとめて!」という大合唱になっている。グラハムがこっちを見てニヤッとし、ルカは「そうしましょうよ!」と目を輝かせる。エリシアは優しい微笑みでうなずき、「決断して」と視線で促している。ここまで来るともう逃げ道なしだ。
「……仕方ねぇな」
つぶやく声が自分でも驚くほど大きく響き、周囲がぱたりと静まる。今まで大騒ぎしていた連中が、「え、今なんて?」という顔をしてこちらを注視している。
フェンリスですら、演壇の少し後ろでじっとこちらを見ている。どうにも世界の命運を握る瞬間らしい。
「……いいだろう。オレでよければ、世界の統一とやらを受けて立つ。別に戦争や征服をしたいわけじゃないが、そうしなきゃ秩序が保てないってんなら、オレが引き受けるしかないんだろう?」
言い終えた途端、歓声が爆発した。拍手や歓呼の声が嵐のように広場を揺らす。空に向かって帽子を投げる者、感極まって涙を流す者、隣人と抱き合う者……まるで歴史的事件が起きた現場みたいな熱狂だ。オレはこんなに大騒ぎされるとむずがゆいが、少し誇らしい気分にもなる。
「やっぱりね、レオンならそう答えると思ったわ」
エリシアが演壇に上がり、オレの腕を軽く取って人々に振り返る。
「皆さん、聞いて! ただ今、レオン・アインハルト様が“世界統一”の舵取りを引き受けると宣言されました! 今こそ新時代の幕開けです!」
わーっと拍手が増幅し、さらに凄い熱気になる。オレの耳は若干痛いが、ここまで喜んでくれるならしょうがない。グラハムが酒瓶を持ってやってきて、「よし、祝杯だ!」と高らかに宣言し、広場が一瞬にして祝祭モードに突入する。もう何なんだ、このノリの早さは……。
その夜。街はあちこちで宴が繰り広げられ、言葉も国籍も違う人々が一堂に集まって大騒ぎしている。帝国の使者からは「レオン様こそ皇帝以上の存在だ!」と妙な称賛が飛び、王国から逃れた人々は「これで王国も終わりですね……まぁいいや!」と開き直って酒を飲み合っている。
一方、冒険者や商人は「ついに世界がまとまるなら、これからは安全に稼げるぞ!」と興奮気味に語り合っている。
オレはというと、当然のように温泉街の特別スイート……なんて気取った場所ではなく、いつもの屋台が並ぶ露店通りで馴染みの仲間たちとテーブルを囲んでいる。
エリシアやグラハム、ルカ、そしてフェンリスも近くでくつろいでいる。みんながオレの決断を祝うように、次々と料理や酒を差し出してくる。
「いやあ、まさか本当に受けるとはねぇ。安心したぞ!」
グラハムがにやつきながら杯を突き出す。オレは苦笑しつつそれに合わせて乾杯。
「だって断ったら、世界が混乱するってみんな言うからさ。オレひとりが『やめとこう』って突っぱねたら、ここまで築いてきた連邦の安定も揺らぎかねないし……まぁ、しょうがないよな」
「ふふ、ありがとう。あなたが承諾してくれたおかげで、帝国も諸外国も一斉に『よっしゃ統一!』って盛り上がってるわ」
エリシアは笑顔でワインを飲む。彼女としては、これで念願の「平和外交」が完成するわけだ。何しろもう戦いは必要ない。王国もどこかで泣きわめいてるだろうが、今さら火力を集めても連邦軍に勝てるわけがない。いずれバカ王も土下座してでもここに助けを求める——いや、もうしているかもしれないが、そこは容赦なくスルーか条件付き受け入れで済むだろう。
「ルカの技術もさらに発展しそうね。世界がまとまれば、資源も人材もどんどん集まるし」
「そうなんですよ! 魔導科学の研究が広範囲に広がれば、みんなが便利に、しかも楽しく暮らせるようになりますし。レオンさんが世界のトップに立てば予算も組み放題……じゃなくて、協力体制がスムーズに進みます!」
ルカが目を輝かせながら言うので、つい笑ってしまう。やっぱり彼女は研究のことしか頭にないみたいだが、そこが頼もしいところだ。すでに各国の技術者が「ルカの下で働きたい!」と押し寄せているらしく、そのうちとんでもない発明が連発されるかもしれない。想像するだけでわくわくするが、オレの役割は“金と承認印を出す”くらいで十分だろう。
「でもまあ、一応“世界をまとめる”って言っても、オレは何をすればいいんだ?」
改めて疑問を口にすると、エリシアはあっさり答える。
「大きな方針だけ示してくれればいいの。例えば『争いはやめよう』『温泉を広めよう』『通貨は統一しよう』とか、そういうシンプルな言葉で十分。細かい運営はわたしたちがやるから、あなたはのんびり構えててくれればいいのよ」
「そうそう。“象徴”ってやつだな。アンタが“世界のリーダー”としてどーんと構えていれば、他国も逆らいにくいだろうしな。俺らはそれをバックアップするだけさ」
グラハムも同調する。なるほど……要は完全に“神輿”扱いということか。まあ、それなら案外オレにも務まるかもしれない。実際こうして飲み食いしてるだけで、街は回ってるし、世界がどう動こうと仲間がうまくやってくれている。
「結局、オレがやりたかったスローライフは続行ってことか? 世界を統一した『最強領主』でも、温泉入り放題なら問題ないかな」
「もちろんですとも、レオンさん! 世界がひとつになるほど、温泉ネットワークも拡大できますし、大規模農業も進むし、何なら世界中の絶品料理を取り寄せ放題ですよ!」
ルカが食いつくように言う。確かに「世界中のグルメを温泉で楽しむ」とか最高の贅沢じゃないか。そっちに意識が向くと、一気に気が楽になる。
「ね? そこまで悪い話じゃないでしょ? あなたはもともと誰かを支配したいわけじゃないけど、それでも世界が助けを求めてるなら応えようじゃないってことよ」
エリシアが静かに言い、オレはグラハムやルカ、そしてフェンリスを見回す。フェンリスは「当然だ」という目でオレをじっと見つめ、尻尾を軽く振っている。そっか、やるべきことは決まったんだ。
「仕方ねえ。よーし、やってやるか、世界統一ってやつを!」
いまさらながら腹をくくって、ずっと手に持っていた杯を掲げる。グラハムが「よっしゃあ!」と大声を上げ、エリシアとルカが満面の笑みで拍手する。周囲の人たちもこのやりとりを見て盛り上がり、あっという間に乾杯の嵐が巻き起こる。楽隊が即興で音楽を奏ではじめ、大広場は一瞬にして大祝宴の空気だ。
「ここまで来たら、最後まで付き合うさ。世界をまとめるのに必要なことは好きにやれ。オレは温泉浸かってぼやきながらでも協力する」
半分冗談のつもりでそう言うと、仲間たちは声を揃えて「それがレオンらしさだ」と大笑いする。なるほど、オレが“ゆるいスタンス”でいることこそ、この街の独特な自由さを体現しているのかもしれない。ガチガチの支配や管理ではなく、「温泉でのんびりしながら、たまに超絶チートで世界を助ける」くらいが、ちょうどいいバランスなのだろう。
「じゃあ決まりだな、レオン」
グラハムが杯をあおり、酒を飲み干して大声で笑う。
「お前は世界の頂点! 俺たちはその下で好き勝手やらせてもらうぜ。もちろん平和のためにな!」
ルカも嬉しそうに頷き、「研究開発に全力を注げます!」と声を弾ませる。エリシアは「平和のために各国をまとめる交渉を一気に進めるわ」と目を輝かせている。フェンリスはそこにじっと横たわりながら、威厳あるまなざしを向けている。まるで「主がそう決めたのなら、余はそれを守るのみ」とでも言いたげだ。
オレはふっと息を吐き出し、杯の酒を口に含む。じんわりと胃に染み込む感覚とともに、頭が軽く回っていく。世界統一なんて、過去のどんな権力者も成し遂げられなかったかもしれないが、ここアインハルト連邦ならやりかねない。その要になってしまったオレだけど、意外と悪くない気分だ。
何せ誰もが笑っているし、オレ自身も何か新しい冒険へ踏み出す予感で胸が高鳴る。
「……よし。じゃあオレ、ひとまず温泉に行ってリラックスしてから寝るぞ。明日にはもう世界が一つになってるかもしれないしな」 軽い調子でそう言うと、仲間たちは「いいね、それがレオンらしい!」
とあっさり受け入れる。別に会議を長引かせるでもなく、酒を飲みながらおのおのが自分の好きなことをやっている。こんな自由な連中ばかりだからこそ、“世界”をまとめるなんて非常識なことが成功しそうなのかもしれない。
夜空を見上げる。満天の星が、まるで新しい時代の幕開けを祝福しているかのように瞬いている。
王国はもう本当に詰みだろう。帝国も事実上、こちらに軍門を下ったも同然。各小国や商業連合も続々と連邦に加盟している。そしてオレは“最終決断”を下した——“世界を統一して、みんなで平和に稼いで、温泉入ってうまい飯食って、好き勝手やろう”という超ユルい決断を。
「だがまあ、それでいいんだよな。スローライフを楽しみながら世界を牛耳れるなら、最高じゃないか」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、夜風の心地よさを感じる。フェンリスがこちらを一瞥し、ゆっくりと瞬きをする。まるで「主が決めたなら疑う余地はない」と肯定しているみたいだ。
遠くでは祭り囃子のような音が鳴り、各所で花火らしき光が夜空に散っている。この街の人々が「ついに世界が一つになる!」と勝手に祝っているのだろう。オレは酔いと湯あたりでほんのり火照った身体を伸ばしながら、もう一度、仲間たちの顔を見つめる。エリシアは誇らしげな笑みを浮かべ、グラハムはにやにやしつつ杯を振り、ルカはあれこれアイデアを口にして興奮している。最高の連中だ。
「よし、いよいよ世界統一の正念場ってわけだな。……とりあえず今日は寝る。朝になったら、みんなでまた相談して決めるんだろ? 色々準備もあるだろうし」
そんな適当な発言をしても、誰も咎めない。それどころか「そういう気ままさこそレオン様だ」「我らの“最強領主”はやはり格が違う」などと訳のわからない称賛の声が飛んでくる。完全に勘違いされている気もするが、そう言ってくれるならありがたい。どのみち“世界の中心”となったアインハルト連邦を引き受けるなら、一番オレらしいやり方でやってやるさ。
――というわけで、夜の闇に包まれた街を後に、温泉へと向かう。背後では終わらない宴が続いていて、誰もが笑顔で酒を酌み交わし、“新時代”を祝っている。追放されてからわずかな期間で、こんなにも大きく世界が動くなんて夢みたいだが、もう夢じゃない。
明日になれば、きっと本格的な“世界統一会議”が始まる。帝国の全権代表や、小国の王族、さらには王国の“バカ王”までもが擦り寄ってくるかもしれない。そこでは“レオンを頂点にした世界”が公式に承認されるだろう。想像するだけで頭がクラクラするが、やるしかない。仲間もいる、民もいる、自由と温泉がある。迷う理由なんてもうないのだ。
「最強領主か……まあ、そう呼ばれるなら、それなりに頑張ってやるよ。スローライフを守るためにな」
そんな軽い独り言を呟き、湯けむりの待つ路地へ足を踏み入れる。夜風が心地よく髪を揺らし、遠くからの歓声と花火の音が後押しするかのように響く。ついに“世界統一”を決断したのだ。これで周囲はさらにヒートアップするに違いないが、それでもオレは焦らない。だって世界がどうなろうと、結局オレのやることは変わらないから。
――湯に浸かって、うまい飯を食って、仲間たちと笑いあって、また畑をちょいといじる。
そんな生活を続けているうちに、いつの間にか世界が一つになってるなら、それはそれでいいじゃないか。明日はどうなる? 知るかよ。けど、楽しみではある。もう腹は決まった。好きにやってみよう。
オレは大きく伸びをして、星空を見上げる。
「さあて、世界統一決まっちゃったし、今夜はとびきり熱い湯につかるか。……何だよその顔、フェンリス。お前も入りたいなら来てもいいぜ?」
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