第3章 いつの間にか国家規模!?
「朝っぱらからすごい行列ができてるなあ」
寝ぼけ眼をこすりながら外に出ると、村……いや、もう村って呼ぶには大げさすぎる光景が広がってる。そこらじゅうにテントやら露店やらが乱立していて、人がごった返している。
冒険者風の連中や、どこかの国の使節っぽい旅装束の団体まで見える。列の先頭らしき場所には、真新しい看板が立っていて「アインハルト自由都市」の文字がでかでかと書かれていた。
「おいおい、いつの間に“自由都市”にまで進化しちまったんだよ?」
思わず額に手を当てる。けど、周りの住民――もはや“連邦住民”と呼ぶべきか――は意気揚々と動き回っている。つい昨日あたりまで「紙幣がどうの」「温泉街をどう整備する」とか話していた連中が、今日はもう役所だの国際市場だのを作ろうとしてるようだ。
こっちの想像を超えるスピードで、辺境の地が“大国”のような雰囲気を放ち始めている。
「おはようございます、レオン様!」
突然、声をかけられて振り返ると、エリシア――昨日紙幣ぼごたごたの中で紹介された帝国出身の才女が、軽く手を上げてこちらに近づいてくる。
彼女は早くも異国の衣装を上品に着こなしながら、書類の束を抱えている。
「朝からずいぶん忙しそうだな。そんな山ほどの紙、何に使うんだ?」
「ふふ、昨日の続きですよ。各地から大使や商人が押し寄せてきて、アインハルト自由都市との“正式な交渉”を申し出てるんです。経済協定とか通商条約とか、色々やることだらけで大変ですけど、やりがいがあるわ。」
大げさに肩をすくめながらも、彼女の声は弾んでいる。たぶん“外交のプロ”としての血が騒いでるんだろう。あちこちから一気に注目されるこの状況は、彼女にとって理想的な舞台らしい。
「それはいいけど、オレは別に世界をまとめようとか思ってないぞ。自由都市とか言われても、ただ温泉と畑がある田舎だと思ってくれればいいのに」
「それが通用しないくらい、この地の影響力が増してるってことです。あなたの小麦や通貨はもちろん、温泉の噴き上がる勢いから何から何まで、他国にとっては注目の的ですから。うふふ、あなた本人も“最強領主”とか“神の化身”とか勝手に呼ばれてますしね」
「最強領主……勘弁してくれよ。その肩書きで何か得するならまだしも、面倒が増えるだけだろ?」
苦笑いしつつ首を振る。すると、エリシアはわざとらしく目を細めてから書類を数枚取り出し、オレに見せつける。そこには隣国やどこかの都市国家の紋章が押された文書が並んでおり、「アインハルト自由都市との友好条約を求む」とか「特別関税の撤廃を望む」なんて文言が書かれている。
つまりは、これだけの国がうちに取り入ろうとしているってことか。
「ほらね? 昔の王国なら、彼らに頭を下げて貿易をさせてもらう立場だったかもしれないのに、今じゃ向こうが“ぜひ取引を”とお願いしに来てる。すごい変化でしょう?」
「……ああ、すごい変化だ。オレとしては温泉入ってゴロゴロしてたいだけなんだが、まあ賑やかで悪くないな」
そう言うと、エリシアは楽しそうに笑う。やはり彼女はこの勢いを歓迎してるらしい。
周囲を見渡すと、貴族出身っぽい人たちや華やかな衣装を着込んだ使節団が、村人と握手したり、新しい建物の視察をしていたりする。どこからこんなに人が集まったのかと不思議になるくらい、道が外国語だらけになっている。
「それにしても、“アインハルト紙幣”ってのはもう流通してるのか?」
「はい、既に周辺地域では『これがあると温泉宿に泊まるのが割引になる』とか『黄金小麦の取引でお得』みたいな噂が広まってるみたいです。しかも、あなたの名が冠されていることで、神聖視する人も多いとか」
「神聖視はやめてくれ……いや、うちの温泉がいつから割引特典つきになったんだ?」
小声でぼやくと、エリシアは「細かいことは村長たちに聞いてください」と笑顔でかわす。
村長って、昨日まで真面目に畑や宿の運営を悩んでた気がするけど、もう紙幣の応用まで始めちゃってるのか。さすがの順応力……というか、むしろ暴走力だな。
ふと目をやると、少し離れたところでグラハムの姿が見える。帝国の元将軍だった男だが、今はこの自由都市の“傭兵団”を率いている。
彼は訓練中らしく、甲高い号令の声が響いてくる。周りには屈強な兵士や冒険者たちが揃い、模擬戦闘を繰り返している。もはや田舎の警備というレベルじゃない。下手な国の正規軍より強そうだ。
「やあ、レオン! 朝から張り切ってるな!」
グラハムがこちらに気づき、部下に指示を出して訓練を一旦止める。そして、豪快に笑いながら腕を組む。筋肉の塊みたいな体を誇示しながら、「アインハルト軍は日々強くなっているぜ」とばかりに胸を張っている。
「ちょっと待て、いつの間に“アインハルト軍”って名前までできてるんだ?」
「はは、こう呼ぶほうがわかりやすいだろ? 実際、周囲の国からは一目置かれ始めてる。連中がここの潜在的な防衛力を見くびらないように、俺たちはいつでも準備万端さ」
確かに、もしどこかの国が「変に手を出そう」と思っても、この連邦軍の実力を見たらすぐ尻込みするだろう。昔の王国軍なんかよりよほど統制が取れているし、何よりグラハム本人がやたら楽しそうに“最強の軍団”を作り上げているから、手がつけられない。傭兵仲間も増えていて、世界各地から腕利きが集まっているという。
「で、どうなんだ? この連邦、いや自由都市は、これからさらに拡大するのか?」
「そうなるかもなあ。俺としては仲間が増えるのは大歓迎だが、あんまり人が増えすぎると収拾がつかなくなりそうだ。とはいえ、誰も止めるつもりはなさそうだしな。見ろよ、あそこらへん、今日来たばかりの冒険者が迷子になってないか?」
グラハムが顎で示す先には、幾人かの冒険者がキョロキョロしている。どうやら“ギルド”を探しているらしい。というのも、最近ここに“冒険者ギルド”や“商業ギルド”、さらには“温泉ギルド”なんてわけのわからない組織まで誕生し始めてるのだ。
自由都市とはいえ、いきなり無数のギルドが雨後の筍のように生まれているから、どの建物がどのギルドやら混乱しているらしい。
「温泉ギルドって何するんだよ……湯舟の研究?」
「さあな。でも結構人気があると聞いた。『よりよい温泉文化を育もう』みたいな意気込みで、自然に人が集まってるんだとよ。まあ、悪い話じゃないさ。」
「確かに誰かが管理してくれるなら助かるけどさ。オレはただ浸かるだけだし。」
苦笑いしていると、ギルド関係らしき人々が手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。どうやらオレを見つけて喜んでるようだ。まさかまた何かイベントでも計画しているんじゃないだろうな……?
「レオン様、すみませんが少しお時間いいですか? 実は“ギルド合同会議”を開きたいという声が多くて、あなたにも一枚噛んでいただきたいんです!」
「ギルド合同会議……? オレは詳しいことわからないぞ?」
「そんな謙遜なさらず! あなたがいらっしゃるだけで、みんなまとまりが出ますから!」
どうやらギルドの代表者同士が“アインハルトのルール”を話し合いたいらしい。ギルドごとに権限や業務が増えてきて、勝手に縄張り争いが起きる前に、ちゃんと基準を定めようというわけだ。
なるほど、自治組織としては大事なことだが、オレ自身には統治だの法律だのの知識がまったくない。
「仕方ないな。とりあえず聞くだけ聞いてみるか……。エリシアあたりを呼んでおけば、うまいこと仕切ってくれそうだけど。」
「助かります! では、今日の午後に広場でお待ちしています!」
彼らはペコペコ頭を下げて走り去っていく。なんというか、勢いがありすぎだ。
オレが特に何もしなくても、会議はやるぞ、外交はまとめるぞ、軍事も整えるぞ、と、村のみんなが自発的に動いてくれる。これが“自由都市”ってやつなのか? いや、こんな爆速で体制が固まっていくのは、ちょっと異常かもしれない。それでも不思議と成功してるから、周囲は大喜びだ。
昼過ぎ、エリシアと合流して“ギルド合同会議”に参加する。広場には各ギルドの代表が整然と並び、一種の「議会」っぽい空気が漂う。
いや、この辺境に「議会」とかあるのがすでにおかしいんだが……。エリシアはにこやかに挨拶を交わし、円卓に座って書類を並べ始める。
「それでは、アインハルト自由都市のギルド合同会議を開会します。皆さん、活動内容や領分が重複している場合は、ここで整理しておきましょう。」
エリシアの通る声が響くと、一斉に拍手が起こる。続いて温泉ギルドのリーダーが手を挙げ、
「わがギルドは温泉施設の管理と、住民や旅行者へのサービス向上を目指しています。ですが、冒険者ギルドの人たちが同じ場所でクエストの看板を立てているため、混雑が起きてまして……」
「ああ、あれは狩りの依頼やら採取の依頼を貼ってるだけなんですけど、お客さんが温泉に浸かってる横で『狼の群れを退治せよ』とか物騒な依頼が並ぶのもどうかと思いまして……」
両者で話し合い、エリシアが「あら、なら施設を分ければ?」と提案する。すると別のギルド代表が「じゃあ僕たちが屋根付きの掲示板を作りますよ!」とノリノリで参加する。みんなの意見がぶつかるかと思いきや、なんだかんだで丸く収まっていく。手を挙える人たちは口々に「じゃあこうしよう」「あそこを利用しよう」とアイデアを出し合い、エリシアがそれをスマートにまとめる。まるで自治都市の見本みたいだな。
「いやあ、俺らは職人ギルドなんで、温泉に流れる水路の増設とかも手がけたいんですよ。地盤が心配ならレオン様に軽く魔力で補強してもらえると助かるんですが……」
「え? オレか? まあ、できないことはないけど、いつでもオレが対応できるわけじゃないぞ?」
「いいんです。時々で構わないので、難所があればちょっと手を貸していただけるだけで!」
そう言われてしまうと断りづらい。結局オレも“温泉街インフラ整備顧問”みたいな役割を半ば強制的に押しつけられ、拍手とともに承認される。
うーん、このままだと、街が発展するごとに呼び出されて、地形や地盤の調整を頼まれまくるんじゃないだろうか。まあ、やれる範囲でやるしかないか。
夕方になり、会議は無事終了。参加者はみんなニコニコ顔で「いい感じに住み分けができた!」と満足げに帰っていく。
エリシアも書類をしまいながら微笑む。
「思ったよりスムーズでしたね。トラブルになるかと警戒してましたけど、皆さん柔軟に協力し合ってるのが印象的でした」
「確かにな。普通なら利権争いとか、ギルド間のいざこざで面倒になりそうなもんだが、なぜかこっちは“自分たちで解決しよう”って雰囲気が強い。まあ、いいことだけど」
「それもあなたの存在が大きいんだと思いますよ。『神のご加護』なんて言われるくらいですし、みんな面倒を起こしたらあなたの“奇跡”が失われるんじゃないか、と無意識に感じてるのかもしれません」
エリシアはそう言って小さく笑う。本人は冗談のように話しているが、それも半分は本当なのかもしれない。少なくとも、オレが畑や温泉で立て続けに起こした“奇跡”を村人たちが目撃している以上、下手な喧嘩をしてチャンスを潰すより、協力して得をしたほうがいいって考えてるんだろう。
都合がいい話だが、みんなが平和に仲良くやってるなら、それでいい。
夜になると、町の中心部に新しく建設された広場で“連邦成立記念”と銘打たれたお祭りが始まる。
いや、いつ“成立”したのかも曖昧だけど、とにかく人々は理由をつけて祭りを楽しみたいらしい。広場では異国の音楽隊が演奏し、巨大な屋台通りには民族料理が並び、温泉に入る旅行者までごった返している。まるで世界各地の文化が一気に混ざり合ってしまったような光景だ。
「すごい……こんな短期間で“国際都市”になっちゃったな。」
つい感嘆してしまう。あっちでは異国の商人が自分の珍しい香辛料を売り、こっちでは職人が新作の魔導道具を披露している。さらに奥では冒険者が地図を片手に「この辺は新しいダンジョンができてるかも」と騒ぎ、温泉ギルドのスタッフが「いらっしゃいませ!」と接客している。混沌どころか祭りだらけだ。
「そりゃ王国も黙ってないだろうな……」
小声で呟いたところで、今さらどうにもならない。そう思っていたら、グラハムが酒の瓶を抱えてこっちへ来る。全く、祭りがあると瞬時に駆けつける習性でもあるのか。
「よっ、レオン! この祭りすげえ盛り上がりだぞ。まるで世界各国が混ざってるみたいだ!」
「その表現が正しいかもな。さっきも帝国の使節団らしい人が歩いてるのを見かけた。まさかこれほど各国が集まるとは……。」
「連中、そろって『あの王国よりこっちのほうが魅力的だ』とか言ってたぜ。ま、王国の内情なんて知ったこっちゃないが、ここが面白いってのは確かだ!」
グラハムは豪快に笑って酒を一気にあおる。やれやれ、彼の自由さも相変わらずだが、こんな人間が中心となって軍事や警備をまとめているからこそ、ここまで大勢の人が安心して集まれるのかもしれない。実際、この祭りの最中にも治安が乱れてる雰囲気はまるでない。喧嘩の気配すらない。そりゃ、彼が率いる傭兵団に逆らうのは無謀だろう。
酔いどれたグラハムに別れを告げ、ふらっと夜の露店を歩く。色とりどりのランタンが並び、誰かが「温泉饅頭」を売り出している。
人ごみを抜けた先には、ルカ――技術屋の彼女が怪しげな機械を調整している姿が目に入った。何やら「温泉熱を利用した空中飛行装置」なるものを作ってるとか? 彼女の発想は相変わらずぶっ飛んでる。
「お、レオンさん。ちょうどいいところに!」
ルカが振り向き、手招きする。周りには彼女の弟子らしき技術者が数名いて、奇妙な歯車やパイプを持ち寄って議論していた。どうも“魔導エンジン”という技術を応用して、施設全体の動力を温泉から得ようとしているらしい。聞いただけで頭が痛くなりそうだ。
「またとんでもないもん作ろうとしてるな。温泉はそんな便利なエネルギー源だったのか?」
「そりゃあもう、下手な火力より安定してるんですよ。しかも、あなたの魔力で地盤を調整すれば、もっと効率よく湯を引き込めるはず。そうしたら空飛ぶ艦艇だって夢じゃないんですから!」
「空飛ぶ艦艇……それ必要なのか?」
「必要かどうかじゃない、面白いかどうかです! それに、もしここが大国並みに発展するなら、“空の交通網”があってもいいでしょう?」
彼女の目はきらきら輝き、まるで子どものような純粋な好奇心が宿っている。止めたところで聞く耳は持たないだろう。むしろエネルギーが湧けば湧くほど、彼女のモチベーションは増すばかりだ。こうして革新的な技術がどんどん生まれるのが、この自由都市のすごいところなのかもしれない。
「わかったよ。オレが手を貸せる範囲ならやる。まあ、土の硬さを整えるとかならお手のものだからな」
「やった! さすがです、レオンさん。じゃあ、後日また詳しい計画を説明しますね!」
ルカは嬉しそうにガッツポーズを決め、弟子たちと再び機械の調整に戻っていく。オレは「好きにしてくれ」と肩をすくめながら、その場をあとにする。
このままだと世界最先端の技術都市になるんじゃないか……なんて冗談が本当に実現しそうで怖い。いや、怖いというか楽しみだというのが本音だ。
遅い時間になると、露店通りの片隅にフェンリスがのそっと佇んでいるのを見つける。こっちに気づくと尻尾を振ってくるが、その動きで周囲の人々がビクッと身をすくめている。やはりこの巨大魔狼は迫力がある。もっとも、本人(本狼)は村での暮らしになじんだのか、やる気ゼロのように見える。
「待ちくたびれたか? 祭りがすごくて、ちょっと時間を潰しちゃったよ。」
頭の中に「構わぬ」と低い声が響く。最近は慣れたもので、フェンリスの声を聞いても驚かなくなった。周囲の人から見ると「レオン様と魔狼がアイコンタクトをしている」ようにしか見えないだろうが、実際には会話してるようなものだ。
「主は忙しそうだな。この街の様相、日ごとに変わっておる」
「確かに。気づけばこんな大所帯だ。温泉や畑だけじゃなく、ギルドや軍隊やら色々できあがって、どこを見ても新しい顔がある。正直、頭が追いつかないよ」
フェンリスはゆっくり視線を動かし、祭りの熱気を眺める。まさか神獣クラスの魔狼がこんな人混みの中に溶け込むとはなあ、とオレも感慨深い。
誰も襲う気はなさそうだし、村人も「レオン様の従者なら大丈夫」と受け入れている。ここは本当に何でもアリの地になりつつある。
「とはいえ、これで落ち着くとは思えないんだよな。周辺国やら王国が一枚噛んでくる可能性は十分あるし、ここまで来たらあちこちから外交使節が来てもっと大きな変化が起きるかもしれない」
オレがそうつぶやくと、フェンリスは鼻をひくつかせてから短く吠える。まるで「ならば誰かが来ても返り討ちにするだけだ」とでも言いたげだ。
彼の強さを知るオレとしては、それも一理あると思ってしまうけど、そう簡単に割り切っていいものか?
「戦いはなるべく避けたいが……まあ、グラハムやルカ、エリシア、それに村長や商人連中まで、やたら頼もしい仲間が増えたからな。いざとなったらみんなで何とかするんだろう」
フェンリスは納得したように尻尾を振る。それが彼なりの「皆でやれば怖いものなし」というサインなんだろう。
「よし、とりあえず今日は祭りを楽しもう。明日になればまた新しい施設が建ってたり、各国の使節が増えてたりして、街が一段とパワーアップしてるかもしれない。……この調子で進んだら、オレたちの“自由都市”はいったいどうなっちまうのか」
そう考えると胸がざわつく。もしかしたら――いや、かなりの確率で――ここは国家規模の存在になってしまうかもしれない。農業と温泉だけで世界経済を動かしつつ、紙幣まで作り、軍も持ち、さらにルカの技術やエリシアの外交が掛け合わされれば、勢いが止まるはずがない。
王国どころか、周辺諸国も巻き込みながら新しい秩序を作る……そんな未来さえ現実味を帯びてきている。
「でも、オレは“スローライフ”がしたいだけなんだけどな。」
最初の目的が完全にどこかへ行ってしまったと苦笑する。
軽く伸びをして、祭りの中心部へ足を向ける。フェンリスもするするとついてくる。人混みが少しざわつくが、それでも慣れたもので、道が自然と開く。
夜空には提灯やランタンが浮かび上がり、あちこちで太鼓の音や笑い声が響く。先日は小さな“村”だった場所が、今日はもう“自由都市”として万人を惹きつけ、さらに明日にはどんな姿を見せるのか、誰もわからない。
そんな無軌道かつ自由奔放な空気こそが、このアインハルト連邦――というか、オレたちの“ぶっ飛んだ土地”の正体なのかもしれない。今はただ、その活気に身を任せながら、のんびり温泉まんじゅうを頬張ろう。明日もどうせ大騒ぎで、また誰かが新しいギルドを作ったり、紙幣の新デザインを発表したり、飛行船を浮かせようとしたり……きっと飽きる暇がない。それならそれで、オレも楽しんでしまおう。
祭りの夜風が頬を撫で、温泉の湯気がほんのり漂ってくる。フェンリスが隣でごそごそ鼻を鳴らし、妙なリズムの異国の音楽が聞こえたかと思えば、どこかで花火が上がるような爆発音が響く。すべてが混じり合って、まるで夢みたいな光景だ。
でもこれは紛れもない現実。オレはこの喧騒を面白がりながら、にやりと笑う。
「さあ、温泉入って寝る前に、もうひと騒ぎつきあってやるか。せっかく自由都市ができて、世界中が集まってるんだ。今夜くらい、オレも全力で遊んでやらないと損だろ?」
そう呟き、祭りのざわめきの中へ足を進める。どんどん膨れ上がるアインハルト自由都市。新しい仲間や技術が毎日生まれ、遠方からの使節が続々と到着する。勢いは止まる気配がない。
でも、オレは決して流されてるわけじゃない。むしろ、この渦中でこそ見えてくる風景を満喫している。いいじゃないか、どうせならとことん“自由”を謳歌してやろう。
追放された身分だし、誰にも遠慮する必要はないからな。
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