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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン4

 そう告げると、ソルテさんは洞窟の中へと歩を進める。

 後に続くと、中は外と変わらない程の光量にみちていた。

 天井は高く、岩がむき出しの壁にはちょうど人間の頭の高さ位に一定距離で淡い光を放つランタンのような照明器具が設置されている。

 彼の言うメガリスがどこから持ち込まれたのかは、一々思い出す必要もない。


「レテ城から持ち出したメガリスが、この奥に保管されています」

 ソルテさんに変わり犬養博士がそう言うと、俺たちはその洞窟を奥へと歩き始めた。

 洞窟内はかなり広く、また急勾配は入口の周りだけのようだ。

 すぐに開けた場所に出ると、恐らくそこが財団の研究チームの作業場所の一つなのだろう、様々な機材が集められていて、作業着姿の研究員が出迎えてくれた。

 彼等と挨拶を交わしてソルテさんが付け加える。

「この洞窟自体も研究対象になっています。我々は遥か昔からこの地に暮らしていましたが、この洞窟はその最初の世代より昔に既にここにあった。そして――」

 辺りを見回すソルテさん。

 彼の目は、入口付近と変わらず辺りを照らしている壁の照明を一瞥する。

「その当時からこうした設備があった」

「!?」

 にわかには信じがたい話だ。

 彼らがどれほど昔からここに暮らしているのかは知らないが、彼の言葉が本当だとすれば、そんな昔にこうした照明を整備するだけの文明を持った何者かが存在したことになる。


 その事実を伝えながら、ソルテさん達は更に奥へ。

 俺も後を追うと、洞窟はそこでほぼ垂直の穴となっていた。

 その穴の端に今いる広場があって、そこから先は穴の脇に沿うように伸びている道と、明らかに周囲の岩とは異なる物質で作られた橋――というか、巨大な柱を横倒しにしたようなものでこの巨大な穴に対して直角に広がっている別の穴へと通じている。


 そしてここからでも見えるその橋の向こう=別の穴の入口は、明らかに人工物であると分かる姿をしていた。

 地下街や地下鉄の駅を輪切りにしたらこんな風に見えるのだろうと思われる、直線的な廊下が奥へと伸びていて、その一番奥で恐らく金属製と思われるシャッターが下りている。

 俺の目がそちらに向いていることを確かめてからソルテさんは続けた。


「照明だけではありません。あの洞窟……一番奥にメガリスを保管しているあそこもまた、今から2000年以上前には存在していたといいます。その洞窟の一番奥の隔壁から続いている、古い言葉で『要塞』と呼称される場所もまた、同様に」

 その説明をしながら、俺たちが向かうのはそちらではなく、穴の壁沿いに降りていく道。

 竪穴の底に通じているそれを降りて行った先に転がっていたのは、つい先日俺たちが死闘の末に討伐したアークドラゴンの、ほぼそのままの死体だった。


「戻られましたか」

 その死体のそばで何かの作業をしていた研究員が俺たちを認めて手を止めた。

 犬養博士と同年代だろう、白髪頭の男性。老科学者という言葉が似あう白衣姿のその人物に、博士は俺を紹介してくれた。

「こちら植村企画の一条寺さんです。今回の実験に際しての警備を担当してくれる方にして、このアークドラゴンを撃破した一人です」

 その紹介で、彼は俺の事を改めて認識したようだった。

「ああ、あなたが……」

 そう言って俺を見る目は、多分珍しい研究対象に対するそれと同じなのだろう。

「こちらは猿渡教授です。我々に協力してくださっている方で、この世界の生物についてがご専門です」

「猿渡です。どうぞよろしく」

「一条寺と申します。こちらこそ」


 握手と挨拶とを交わすと、それを合図にしたかのように俺をここに連れてきた理由が、犬養博士の口から語られた。

「今回あなたに依頼をしたのは、このアークドラゴンと、先程の横穴に保管されているメガリスを目当てに外部の人間が不法侵入を企むケースがあったためです。ご存じの通りどちらも非常に貴重なものですから、ただの野次馬根性に加えて、これを映像に納めることで名を上げようとする者たちまでこの洞窟に潜り込もうとする始末です。加えて今回行われる実験について、どこかから情報が流出した可能性がある。実験自体の予定を変えることは難しいとくれば、後は少しでも不法侵入を防いでもらうより他にありません」

 成程そういう話か。

 いくらでもいる無名の配信者――少し前の俺のような――からすれば、特ダネを手に入れるチャンスといったところなのだろう。


 と、そこで猿渡教授が説明を付け加える。

「そしてその実験について、いくつかあなたに伺いたいことがあるのです」

「私に、ですか?」

「ええ。アークドラゴンと戦った、その時の話です。実際に動画を拝見しましたが、ご本人から伺う必要があると思いましてね」

 まあ、そういう事なら別に大した仕事ではない。

 俺の覚えている事なら――と軽い気持ちで引き受けたのだが、流石は生物学者という事か、彼の質問はアークドラゴンについてに集中していた。例えば、首の骨にダガーを突き立てた時の骨の様子や感触、奴の体を掴んだ時の表皮の様子などだ。

 ついこの前戦ったばかりの巨竜の横に設置されたキャンプ用の椅子に腰かけて話をする間、ソルテさんや犬養博士、そしていつの間にか集まって来たそれらの同僚や同胞が俺をぐるりと囲んでいた。


「……一体、アークドラゴンに何が?」

 ひとしきり質問を受けたところで、今度は俺から尋ね返す。

 質問への回答を手元のノートに纏めていた手を止めて、猿渡教授はちらりと犬養博士の方を見た。

 恐らくゴーサインが出たのだろうという事は、彼が再び俺の方を見て口を開いた時に分かった。

「これはまだ仮説の段階ですが――」

 そう言って、彼の目は俺の後ろ、横たわるアークドラゴンに注がれた。

「このアークドラゴンと呼ばれるモンスターは、何者かが人工的に生み出した可能性があります」


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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