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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
インテリジェント・ワン
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インテリジェント・ワン3

 一体何にオペレーターは気をもんでいるのか、分からないままゲートはホーソッグ島に繋がり、開いた扉の向こうには今や見慣れた大地が広がっていた。

 ギルベス山の麓、僅かばかりの草が生えるだけの荒涼とした平野が見渡す限り続いているそこは、遠くにぽつぽつと点在する建設中の工場や何らかの掘削を行うつもりだろう採掘場の建設現場を除けば無人地帯という表現がこれ以上なく似合っている広々とした土地だ。


 そのどこまでも続くただっ広い世界にポツンと佇んでいるような仮設ゲートから遠くない場所に、見覚えのある緑に金の刺繍が入った旗が、山から吹き降ろす風にはためいていた。


「どうもお久しぶりです」

 そちらに近づいていくと向こうも俺を認めて声をかけてくれた。

「どうも。先日はお世話になりました」

 言葉を掛け合いながら、俺とソルテさん、それに犬養博士は再び顔を合わせる事となった。

「あっちに馬車を待たせてあります。今回は少し距離があるので」

 挨拶もそこそこにソルテさんが指し示す。

 ここから少し進んだ先の荒れ地。辺りよりも少し窪んで、大きな岩がゴロゴロと転がっているその一帯の片隅に、四輪馬車が一台とそれに繋がれた二頭の馬が暇そうにしているのが見えた。


 リヤカーをそのまま馬に繋いだようなその馬車に乗り込むと、悪路もあってやたら揺れるそれの上でおよそ一時間強、遠くに見えていた緑の線が森林であると理解できるぐらいまでに近づいてきた時、御者を務めていたソルテさんがそちらを指さした。

「あそこが我々の集落。研究キャンプです」

 彼の指の先には、島の東端に突き出した岬。

 そしてそこから北に向かって伸びる木製の橋の向こう、切り立った崖を持つ島と、その島の地面を隙間なく覆い尽くすような森林地帯。

「あれは森では?」

「あの森の中に、我々の集落があります」

 エルフの暮らす森。まったくもってファンタジーそのものな場所へ、馬車はがたがた揺れながら近づいていく。


 その島の様子は橋の手前までくるとよりしっかりと確認できた。

 ホーソッグ島から完全に切り離された島。行き来できるのは目の前に伸びている橋を除いて他にないようだ。

 そしてその島が、決して部外者に対して常にオープンな訳ではないという事は、橋を渡り切った先にある、背の高い壁と、大きな門が物語っている。

 人間の胴体ぐらいの太さのある丸太の先端を尖らせたものを隙間なく地面に突き立てたその壁といい、上に弓兵が目を光らせる櫓を供えた門といい、戦国時代を彷彿とさせるような厳重な警戒ぶりだ。

 これなら外から追加の警備など必要なさそうだが、それでも俺の仕事は有るらしい。


「止まれ、止まれ」

 橋を渡り切るよりも前で、門の前に控えていたエルフの戦士たちがそう言って止める。

 彼等は手の中の槍をこちらに向けて停止するように促し、その指示に従った相手を一瞬も逃さないように櫓の弓兵がにらみを利かせている。

「私だ。ソルテだ」

「後ろの者は?見ないのが一人いるぞ」

「彼は我々の味方だ。信頼していい」

 問答が途切れ、門番たちが何かを早口で言い合っている。どうやら俺のことで揉めているらしい。

 だが、一緒にいる人物が犬養博士であると分かると、彼等も俺を信用する気になったようだ。というか、この人の連れなら問題ないだろうという判断なので、俺と言うより博士が信頼されているという事だが。


「許してやってください」

 門をくぐってすぐ、ソルテさんが俺にそう言った。

「エルフは基本的に他の民族や種族と触れ合う事がありませんし……この森を自分たちの聖域だと考えています。部外者を入れることに慣れていないのです」

「気にしないでください」

 馬車を降り、引いてきた馬が門の近くの厩に繋がれるのを見ながら応じる。

 何も気を使っての事ではない。彼らの気持はよく分かる。

 誰だって、見ず知らずのよく分からない奴が武装して自分の家の庭をうろついていたら警戒するというものだ。


「それで、警備のために私を呼んだと言うのは?」

 切り出すと、ソルテさんと博士がお互いに視線を交わす。

「それについては、こちらでご説明しましょう」

 ソルテさんが示すのは森の奥。村の中心に向かう道だった。

 エルフの森は外から見ればまさしく森そのものだったが、こうして実際に内部に足を踏み入れると彼らの言うように集落という表現の方が適切な場所だった。

 殆どを木々に覆われているのは事実だが、それでも奥へと続いているメインストリートとでも言うべき場所は十分に広さのある道だったし、その途中にあるちょっとした広場は、それがエルフたちの家なのだろう、日本では見ないような巨大な木の幹をくりぬいたような家が数軒集まっている。

 そこの住民たちも俺の事は警戒しているようだが、それでもソルテさんと犬養博士が同行しているのを見て味方だと思い直すというのを一人ずつやっている。


「この奥です」

 その道の一番奥。恐らくそこがこの集落の中心地なのだろう、岩山の前の広場に辿り着いた時、ソルテさんがその岩山を指し示してそう言った。

 広場は広大な十字路と言うべき構造をしていて、岩山に張り付くように一際大きな、神殿のような建物が。それ以外のスペースには石造りの箱のような家が数軒集まっている。

 だが彼が示したのはそれらではなく、その向こうに聳える岩山にぽっかりと空いた洞窟だった。

「洞窟……?」

「この奥に我々がかき集め、そして守ってもらいたいものがあるのです」

 そう言って、そちらの方へと足を進めるソルテさん。

 彼に続く犬養博士も特に驚いた様子はない。つまり、彼も当然ながらそれが何なのかはしっているのだろう。


「一体何が……」

 尋ねた俺に二人が振り返る。

「先日討伐されたアークドラゴン。そして――」

 辿り着いた洞窟の入口。

 不思議な光が漏れているそこを手で示しながらソルテさんが再度口を開いた。

「――メガリスです」


(つづく)

投稿遅くなりまして申し訳ございません

今日はここまで

続きは明日に

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