インテリジェント・ワン2
「本当はこういう時こそ稼ぎ時なんだがねぇ……」
俺の考えていることをそのまま形にしたように、社長がぼやく。
こういう時=話題になっている時こそより積極的にデカい事が出来るチャンスだ。ダンジョン配信者という人気商売には、こういうタイミングや勢いというのは逃す手はない千載一遇のチャンスなのだ。
だが、悲しいかな植村企画は財団の私兵部隊の顔がある。
それをぼやくという事はつまり、そういう事だ。
「まあ、そうっすね」
同意しながら、手元の書類に目を落とす。
財団の現地研究キャンプ。その護衛の依頼が入っている。キャンプに籠って警備員している場合ではないこのタイミングで、だ。
財団のお陰で固定給が出ているのであまり恩知らずな事は言いたくないが、それでも配信の現場を知っている身からすると漏らしたいことも一言二言はある。配信事務所を経営している社長にしたってそれは同じだろう。
「……本当はあと一人か二人、人が欲しい所だね」
「配信者ですか?」
「それも勿論そうだ。今回のようなケースで動ける人間が欲しい。それと、補助でもいいから事務をやってくれる人間も」
今のところ、企業としてやっていく上での諸々や財団とのやり取りは社長に一任されている。
俺もオペレーターも自分の仕事に専念できるため非常にありがたくはあるのだが、彼の背後、その机に積み上がっている山を見ると呑気にそれを喜んでばかりもいられない。短かったがサラリーマン時代の記憶が、ああいう山が出来上がる時の容易さと、それを切り崩す困難さがどれほどのものかを雄弁に語っている。
「まあ……配信者はそのうち応募が来るんじゃないですか?」
つい漏らした――その後で自惚れではないかとも思った――それは、偽らざる本音だった。
その根拠=昨日から頻繁に回る再生数と高評価とチャンネル登録者数のカウンターに目をやる。この話をしている間にも数字は動いている。
未だ吹けば飛ぶようなものとはいえ、最初の頃に比べれば植村企画の名前は各段に売れている。その理由には風巻空斗の腕を切り落とした時の炎上騒ぎもあるにはあったが、悪名は無名に勝るというものだ。
それに今はその頃よりも高い評価を得ているのだ。募集を出せばうちでやりたいという配信者を集めることだって出来るだろう。固定給のある事務所という点を前に出せば更に倍率は上がるはずだ――財団がそれにOKを出せばの話だが。
「だといいが……まあとにかく、せっかくの売り出し時に悪いが、三日間の警備を頼むよ」
もう一度資料に目を落とす。
確かに期間は明日から三日間だ。
「本当に三日なんですか?」
現地研究キャンプは、あの城攻めの日からソルテさん達協力的なエルフの集落に設けられ、彼等との共同研究の形をとっている。
そこで三日間だけの警備とは何かあるのだろうか。
手元の資料をめくり、その理由を探す。
「どうやらそのようだね。詳細は現地で伝えるとのことだが、何でもキャンプで何かの実験をするつもりらしい。万が一にも侵入者があっては困るという訳だ」
どうも財団は秘密主義というか、外部との報連相が苦手だ。その外部に俺たちも含めるから余計に質が悪い。
「書いてある通り、集合はギルベス山北部の仮設ゲートだ。そこに向こうの迎えが来てくれる。そこからならそれほど時間もかからずにキャンプまで行けるはずだ」
アークドラゴン撃破の影響はここにも出ている。
奴がいなくなった途端に仮設ゲートの建設が進み、今ではあの周辺で諸々の活動を計画していたあらゆる企業の人間がひっきりなしに移動している。
そしてその警備を担当するのは、当然ながらそれらの多くと契約している八島総警という訳だ。
「時間は明日の午前10時。よろしく頼むよ」
「了解です」
そして、その翌日。
俺は約束の時間の10分前に仮設ゲートの入口に到着していた。
普段は俺たちのような人間以外は特別遠隔地管理機構の職員ぐらいしかいないダイブセンターも、今ではひっきりなしに作業着姿の利用者が行きかっている。
「それじゃ、行ってくる」
いつものように見送りに来てくれたオペレーターに告げる。
装備品は全て新調済み。幸い、アークドラゴン戦とそれによって増えたチャンネル登録者数と、それらによって伸びた過去の動画の再生回数によって何とか調達費用の足しにはなりそうだ。
そんな真新しい装備品に混じって、今回は別にリュックサックも一つ。向こうで三日間過ごさなければいけない以上、生活必需品も持参する必要がある。
「大荷物だね」
「そうだな。まるで山登りだ」
オペレーターはいつもと変わらない。もっとも、彼女の場合三日間オペレーションルームに籠る訳ではないので俺と事情は違うだろうが。
「それじゃ、何かあったらよろしく」
とはいえ、連絡すれば繋がる状況にはしておく手はずだ。
「うん……」
「……大丈夫か?」
何となくだが、彼女はこのところ元気がない。
「あ、うん。大丈夫。……あのっ」
ゲートを起動しようとした瞬間、はっと思い出したように彼女に呼び止められる。
「あの……どうか気を付けて」
扉が閉まる瞬間にそう言って俺を送り出した彼女の表情は、言い知れぬ不安というものを形にしたように強張っていた。
(つづく)
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