ドラゴンスレイヤー24
「ありがとう。助かりました」
支えてくれた二人に感謝して立ち上がると、ちょうど首から致死量の血を失ったアークドラゴンの下から國井さんが姿を現す所だった。
「おおっ!」
周囲が一斉に声を上げる。
現代の武蔵、その通称の元ともなった両手に握る二振りの刀はそれぞれ切っ先から鍔元まで体と同様に返り血に塗れ、その二振りでもって傷をより深く広げるようにして切り裂いたことが分かる。
「反応消滅……!アークドラゴンを撃破しました!!」
オペレーターの驚愕と歓喜の混じった声が、歓声の中に混じる。
それを成し遂げた男はゆっくりと得物の血を振るい、それから顔を拭う。
「竜殺しの刀……世が世なら伝説の名刀だな」
そんな風に言って笑いながら。
「ハハ……ッ」
笑いが漏れる。
そうだ。竜殺しだ。
俺たちはアークドラゴンを討ち果たした。ほんの一瞬、何かが違えば遺骨の一つも残らずに消し炭にされていただろう戦いは終わった。
俺たちは生き残った。勝利した。初めに洞窟に潜った時から今まで、何度も危険に直面しながらも、俺たちは生きて帰れるのだ。
「ハハッ、ハハハハ」
笑いがこぼれ続けた――周囲と同じように。
今回の戦いがどういう経緯でこのメンバーでのものになったのか、それを思い出したのは、そうした安堵と達成感の笑いが一段落してからだった。
「さて……」
改めて目の前に伏しているそれに目をやる。
アークドラゴンの死骸=財団が回収を望んでいるそれを。
「どうやって運ぶんだこれ……」
「新たな反応を感知。北から高速で接近する飛行体」
呟きに応えるようなオペレーターの声に、反射するようにして示された方向を見上げる。
外輪山の北側。他の方角と変わらず、高く切り立った稜線が接近者を隠している。
「いや……、あれか!」
そう思った直後にその稜線から飛び出すように現れた影。
恐らく2000mはあるだろうかその山頂の更に上を飛びながら、すぐ頭上にいるようなサイズに見えていることを考えれば、かなりの――それこそ、アークドラゴンと同じぐらいの――巨鳥。
その見上げた先のそれは、当然ながら接近を告げたオペレーターにも映像として伝わっている。
「情報が来ました。大丈夫。味方です」
その一言と、その巨鳥の降下してくるのはほとんど同時だった。
そしてその事実を飲み込み、背後も理解するのが最も早かった人物は、二振りの刀を降ろしてその巨鳥を迎えていた。
「財団が雇ったか……」
「ちわーっす!」
巨大な鳥。コンドルや鷲のような姿をしたそれから発せられるのは、その姿と一瞬前までの緊迫に似合わないほど明るい、若い声だった。
着地の瞬間、その姿が光に変わり、同時にみるみる縮んで人間の姿へと姿を変える。
バイク用のレーシングスーツを纏い、その上からフライトジャケットを羽織った中性的な青年。それが巨鳥の正体だった。
その青年――もしかしたら少年と呼んだ方が近いかもしれない――は俺たちに会釈しながら目は最も巨大な存在を捉えている。
「凄いな……これ皆さんで倒したんですよね?」
それからこちらに向けられた目は、多分畏敬とか驚嘆というより、興味に近いものなのだろう――もっとも、目を輝かせてそう聞かれて嬉しくない訳はない。
俺たちが肯定すると、彼はもう一度「すげえ」と漏らし、それから改めてアークドラゴンの死体に目をやった。
「財団から依頼されて、それを運びに来ました」
言いながら、腰に巻き付けたヒップバッグから取り出すのは、財団との正式な契約書。即ち、己の言葉に嘘はないという証明だろう。
「……何も聞いていないが」
「あれ?そうですか?」
代表して応じた國井さん=返り血に染まり抜き身の大小を持った鋼の肉体に対しても物怖じせず相好を崩したままの青年。
もっとも、國井さんも別に彼を疑っている訳ではないらしい。
自らのオペレーターに何かを確認しているが、すぐに話は済んだようだ。
「どうやら、行き違いがあったらしい。オペレーターが今知らされたと言っている」
どうも財団はこの辺の連絡が苦手なきらいがある。
まあ、とりあえず確認が取れた以上、アークドラゴンの移送は彼に任せることになった。
「任せといてください。とはいえ、どうやって運ぼうかな……」
「ああ、それなら……」
名乗りを上げたのは永谷兄弟だった。
二人はどこに隠していたのか、丈夫そうなワイヤーを取り出すと、巨鳥の姿になった青年に流れるような手際でアークドラゴンを縛り付ける。彼らの指示で俺たちも補助に入ったが、二人の動きは非常に手馴れている。
「流石船乗りだ……」
思わず漏れたのは素直な感想だった。
二人とも海上自衛隊出身だけあってロープワークはお手の物なのだろう。アークドラゴンの巨体は、瞬く間に巨鳥に固定された。
「それじゃ、こちらお預かりします!」
青年の声で巨鳥はそう言うなり、大きく羽ばたいて空に浮かび上がった。
流石に荷物が大きいからか、バサバサと何度も羽ばたいて、何とか山を飛び越えていく。
「とにかく、これで今度こそ一件落着だ」
確認の意味を込めて発したそれを、オペレーターの穏やかな声が認めた。
「ええ。本当にお疲れ様」
その一言で、ようやく今回の長いダンジョンの攻略が終わったことを実感したのだった。
(つづく)
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