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ある出戻り配信者の顛末  作者: 九木圭人
ドラゴンスレイヤー
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ドラゴンスレイヤー20

 國井さんの指示が飛ぶとほぼ同時に、空に何かが広がった。

 アークドラゴンの頭上を覆うようにパッとばらける、無数の黒い点。

 それが広がった時と同様に降下を始めた瞬間、巨大な風が巻き起こる。

「くっ……!」

 思わず顔を覆う。目の前の壁に、巻き上げられた小石や枝が銃弾の如く音を立てて叩きつけられる。

 遮蔽物の陰に隠れていても全身に叩きつけるような風圧。翼を広げ、たった一度の羽ばたきでそれを巻き起こしたアークドラゴンが、その風圧も納得する巨体を空に浮かべた。


「あっ――」

 思わず声が漏れる。

 一斉に畳みかけ、アークドラゴンに飛び立つ隙を与えずに倒す――今回の作戦の肝となるその前提が完全に崩れた。

「ッ!!」

 しかし次の瞬間、まだその肝は生きていると目の前の光景が物語った。

 思わず目を覆う閃光。浮かび上がったアークドラゴンを迎え撃つように落下し始めた黒い点たち。

 それらがドラゴンの頭辺りに達した途端、猛烈な光と轟音が辺りを埋め尽くし、アークドラゴンの巨体すら覆った。


 続いて巻き上がる砂嵐のような土煙。

 アークドラゴンの羽ばたきによって生じたそれよりも遥かに巨大で濃密なそれが、辺りの全てを巻き込んで広がっていく。

 その砂嵐の中、僅かな切れ目から見えるのは、爆発で地上に押し戻されたアークドラゴンに迫る、地上を這うように進む稲妻。

 その一瞬の電流が、意思を持ったようにアークドラゴンへと絡みつく。

 最大音量の怪獣映画の如き咆哮。

 網状に走る電流。

 それらが何なのかは分かっている。初めて見るが、あれ程の巨獣を地面に押さえつけるこれこそが八島総警の実力だ。


 そしてのたうち回る巨大な竜が砂嵐の切れ目に姿を現した時、広がっていた翼を無数の杭がまさに撃ち抜くところだった。


「まだ動く!全員油断するな!!」

 その状況でも響く國井さんの声に油断は一切ない。

 そしてそれは、何一つオーバーな指示ではなかった。

「目標再度浮上!」

 村上さんの叫び。アークドラゴンは、穴の開いた翼を大きく広げると、全身に纏わりついた電流をそのままに、強引に飛び立つ。


 そのすぐ足元に一人が駆けだしたのを、俺は見逃さなかった。

「危ない!」

 そして思わず出た叫び声。だが、当の本人=ドクター高野には一切聞こえていないし、躊躇う様子もない。

 彼は両腕を頭上に掲げてドラゴンの直下に走る。

 その両手の間には、ちょうど電球のフィラメントの如く青白い光。

 そしてそれを認めた直後、アークドラゴンの鳥類のそれを思わせる足に、彼の手から振り下ろされたその青白い光がしっかりと巻き付いた。

 電撃鞭――このメンバーの中で、彼の能力だけは俺も動画で見たことがある彼のその能力は、人間なら即死しかねない超高圧の大電流を電撃の網を振り切って飛び上がった相手にしっかりと叩き込んでいる。


 ガクン、とアークドラゴンの高度が下がる。

 飛行と呼ぶよりも、地面を滑るようにしてそれでも飛び続けるのは流石の怪物と言ったところだろうか。

「ドクター、もう大丈夫だ」

 國井さんの声。即座に鞭の拘束が解かれ、ドラゴンが大きく羽ばたいて高度を上げる。


「アークドラゴン、飛び立ちました――」

 オペレーターの呆然とした声。

 アークドラゴンは飛んだ。今度こそ、奴は飛んでしまった。


 だが、國井さんの判断はどこまでも正しかった。


 翼を広げたアークドラゴン。翼の端から端までの広さは、テニスコートが空を飛んでいるような大きさ。

 その巨体が、ゆっくりと旋回しつつ牙の並んだ口をこちらに向けようとするのが、雲間から射す光に妙にしっかりと浮かび上がっている。

 鋭角に旋回してこちらに回頭する巨竜。対するこちらに対空攻撃を行う装備はない。

 死が飛んでくる。何の比喩でもないそれが。

 ――自分に向かってくる爆撃機を見上げる兵士というのは、こういう気分なのだろうか。


「え……?」

 だが、俺はまだ死ななかった。

 低空飛行していたアークドラゴンは、穴の開いた方の翼の方から高度を下げた。

 そして――このカルデラをぐるりと囲んでいる外輪山の麓に叩きつけられると、小さくバウンドして盆地の中に落ちていった。

「落ちた……!?」

 電撃と鞭、そして最初の爆発に翼を撃ち抜いた杭。そのどれによるものかは分からない。恐らくそれら全ての効果だろう、アークドラゴンの墜落。

 当然、それを逃す手はない。


「アークドラゴン墜落!アークドラゴン墜落!」

 國井さんの声が全軍にその状況を伝える。

「奴にとどめを刺す!全部隊前進!!」

 続いたそれが、俺への合図だった。

「おおおおおっ!!!」

 雄たけびと共に抜刀しての突入。


「奪ったのは飛行能力だけだ!全員油断するな!!」

 更に追加される國井さんの無線。そしてそれに続く、言葉などなくても激怒している事が伝わってくる咆哮。

「ッ!!」

 照準が狂ったのか、俺たちの上空に放たれ、その距離でも先程の火鼠に密着した時のような凄まじい熱気を感じる熱線。


「くっ……!」

 思わず頭を下げ、姿勢を低くしながら走る。

 そうだ。奪ったのは飛行能力だけだ。奴はまだ、一撃でこちらを消し炭に出来る。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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